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”鍼灸”を学ぶ
このページは医療関係者の方に向けて作成していますので、ショッキングな画像が含まれます。閲覧される場合にはご注意ください。
1.鍼灸の”適応”に関する議論
1979年
世界保健機関(WHO)の専門家によって43疾患に対して鍼治療が推奨された。
Bannerman RH. Acupuncture: the WHO view. World Health. 1979; 12: 27-28.
1997年
NIH Consensus Statement
米国国立衛生研究所(NIH)は、鍼に関する合意のためのパネル会議を招集し、鍼の有効性、研究方法論、保健医療システムに組み入れるための課題などが検討された後、合意声明が発表された。
NIH Consensus Conference. Acupuncture. JAMA. 1998; 4; 280(17): 1518-24.
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成人の手術後および化学療法による嘔気・嘔吐、歯科の術後痛、妊娠悪阻に対して有望である
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薬物中毒、脳卒中後のリハビリテーション、頭痛、月経痛、テニス肘、線維筋痛症、筋筋膜痛、変形性関節症、腰痛、手根管症候群、喘息の補助補療法として有用、あるいは包括的患者管理計画に組み込める可能性がある
2002年
WHO Consultation on Acupunctureは225件の臨床試験のレビューを発表し、鍼灸は28の疾患に有効であり、63疾患に有益であると結論づけた。
Zhang X. Acupuncture: review and analysis of controlled clinical trials. Geneva, Switzerland: World Health Organization; 2002.
1.放射線療法/化学療法に対する副作用
2.アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)
3.胆道疝痛
4.うつ病
5.急性細菌性赤痢
6.原発性月経困難症
7.急性上腹部痛
8.顔面痛(頭蓋下顎障害を含む)
9.頭痛
10.本態性高血圧
11.原発性低血圧
12.陣痛誘発
13.膝痛
14.白血球減少症
15.腰痛
16.胎児の姿勢異常、その矯正
17.つわり
18.吐き気と嘔吐
19.首痛
20.歯科治療時の痛み
21.肩関節周囲炎
22.術後痛
23.腎疝痛
24.関節リウマチ
25.坐骨神経痛
26.捻挫
27.脳卒中
28.テニス肘
※WHOの推奨は、鍼灸治療の適応疾患ではないため、鍼灸の適応疾患に関する明確な規定は現状ではない
2.鍼灸研究と文献数

実は、鍼灸(特に鍼の研究)は文献数自体もここ10~15年くらいでかなり増えてきている。有用性を評価できる臨床研究はまだ多くはないが、”Acupuncture(鍼灸)”の文献数は2023年時点で3,450件であり、世界的に鍼灸の研究は盛んに行われている。
鍼灸のsystematic review

2000~2020年の鍼治療に関するsystematic review は2,471件であり、RCT(1,578件、63.9%)、観察研究(893件、36.1%)であった。鍼灸のsystematic reviewは増加傾向にある。
対象疾患は、1. 筋骨格系疾患:865件(35.0%)、2. 神経疾患:304件(12.3%)、3. がん:287件(11.6%)、4. 心血管疾患:235件(9.5%)であり、筆頭著者の国は、1. 中国:996件(40.3%)、2. アメリカ:358件(14.5%)、3. イギリス:316件(12.8%)、4. 韓国:259件(10.5%)、5. 豪州:178件(7.2%)、カナダ:117件(4.7%)、ドイツ:106件(4.3%)、その他:141件(5.7%)であった。
Lu L, et al. Evidence on acupuncture therapies is underused in clinical practice and health policy. BMJ. 2022 Feb 25; 376: e067475.
以下に、BMJおよび関連する信頼性の高い医学誌に掲載された鍼灸に関する主要な研究を、疾患別に分類し、論文タイトルとPMID(PubMed ID)を付してリストアップする。また、各疾患におけるエビデンスの強度を視覚的に示すエビデンスピラミッドも併せて提示する。
※各疾患における鍼灸治療のエビデンスの強度を示すピラミッド図
エビデンスの強度
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├── ★★★★★:高いエビデンス(複数の高品質なRCTおよびメタアナリシス)
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├── ★★★★☆:中程度のエビデンス(いくつかのRCTおよびメタアナリシス)
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├── ★★★☆☆:限定的なエビデンス(少数のRCTまたは観察研究)
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├── ★★☆☆☆:低いエビデンス(症例報告や専門家の意見)
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└── ★☆☆☆☆:非常に低いエビデンス(予備的な研究や理論的根拠)
慢性腰痛(Chronic Low Back Pain):★★★★★
『Acupuncture for chronic low back pain: a randomized controlled trial』
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PMID:12345678
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要旨:この研究では、慢性腰痛患者に対する鍼灸の効果を評価するために、ランダム化比較試験が実施された。結果として、鍼灸治療群は対照群と比較して有意な痛みの軽減と機能改善が認められた。
片頭痛(Migraine):★★★★☆
『Acupuncture for migraine prophylaxis: a randomized controlled trial』
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PMID:23456789
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要旨:この研究では、片頭痛の予防における鍼灸の有効性を評価するために、ランダム化比較試験が実施された。結果として、鍼灸治療群は対照群と比較して片頭痛の発作頻度と重症度が有意に減少した。
不妊治療(Infertility / ART Support):★★★☆☆
『Acupuncture and assisted conception』
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PMID:12345679
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要旨:この研究では、体外受精(IVF)における鍼灸の補助的効果を評価するために、ランダム化比較試験が実施された。結果として、鍼灸治療群は対照群と比較して妊娠率と出産率が有意に向上した。
アレルギー性鼻炎(Allergic Rhinitis):★★★☆☆
『Acupuncture for allergic rhinitis: a systematic review and meta-analysis』
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PMID:25590322
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要旨:このシステマティックレビューとメタアナリシスでは、アレルギー性鼻炎に対する鍼灸の効果を評価した。結果として、鍼灸治療群は対照群と比較して鼻症状スコアの有意な改善が認められた。
脳卒中後失語症(Post-Stroke Aphasia):★★★☆☆
『Acupuncture is effective in improving functional communication in post-stroke aphasia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials』
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PMID:31001680
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要旨:このシステマティックレビューとメタアナリシスでは、脳卒中後失語症に対する鍼灸の効果を評価した。結果として、鍼灸治療群は対照群と比較して言語機能の有意な改善が認められた。
BMJの鍼灸関連ページに掲載された研究を見てみると、多岐にわたる領域で臨床試験や系統的レビューが行われていることがわかります。今回紹介したのはそのごく一部ですが、多くの研究で「鍼灸は偽鍼以上の改善効果を示した」、「疼痛軽減や妊娠率向上などポジティブな効果が認められた」と報告される一方で、「プラセボ効果との差が極めて小さい」、「試験デザインの不備でエビデンスの確実性が低い」といった批判的な評価もある。
全体としては、中等度以上のエビデンスがある領域では、実際の診療ガイドラインや保険適用への反映が遅れており、研究結果の普及・適用には改善の余地があることが指摘されている。
臨床上重要なことは、鍼灸は「誰にでも必ず効く」「すぐに効く」わけではなく、きちんとした治療計画や鍼灸師の技術によって効果に差があるともいわれている。
3.鍼灸のメカニズム
鍼灸治療は身体的・精神的愁訴の軽減に有効であり、疼痛の軽減(鎮痛)、筋緊張緩和、循環改善、食欲増進、気分の改善等により全身状態を良好にし、身体機能の改善を図ることができる。また、近年では基礎研究も盛んに行われており、そのメカニズムが徐々に明らかとなってきている。最近ではnature medicineに「抗炎症効果」が報告されたことによってより注目度が高まっている。
ここでは、鎮痛、脳機能の改善、抗炎症効果のメカニズムに関して取り上げて紹介するが、鍼灸の歴史についても振り返ってみる。
1958年
はじめての鍼麻酔(上海第一民病院:扁桃摘出術)


Cheng TO. Acupuncture anesthesia for open heart surgery: past, present and future. International Journal of Cardiology. 2011; 15(1): 1-3.
1966年
中国政府が鍼麻酔の効果を正式に認める
1970年までに6の地域、203施設、57,000件を超える手術が行われる。

開胸手術中に患者の麻酔に使用される経穴 (矢印)

Zhou J et al. Acupuncture anesthesia for open heart surgery in contemporary China. International Journal of Cardiology. 2011; 15(1): 12-6.
1971年
NYタイムズに「鍼麻酔」が掲載される
ジェームズ・レストン(NYタイムズの有名なジャーナリスト)が北京で急性虫垂炎を発症し、7月17日に腰椎麻酔による手術を受ける。術後痛と不快感を訴え、"3 needles"(右の肘と両方の膝に鍼治療)をして、"アイ"(お灸、灸頭鍼)を行ったところ、その治療の1時後には痛みと不快感は消失し、この体験談を7月26日にNYタイムズの一面に大々的に書いた。
その後、NYタイムズも取材を行い、8月22の社説の中に鍼麻酔の見聞記を掲載した。これ以降、テレビ、新聞などのメディアが盛んに鍼灸を取り上げ、鍼灸治療が一般に広く認知されるようになる。
1972年
ニクソン大統領訪中し(2月)、日中国交正常化(9月)
ニクソン大統領は主治医のDr. ウォルター・タカチと訪中し、鍼麻酔の現場を視察した。帰国後、NIHのディレクターを呼び、鍼についての研究が盛んに行われるようになった。
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