大慈松浦鍼灸院
神保町十河医院附属鍼灸院
鍼灸師として成長したい…
「型」が身につく鍼灸臨床
松浦知史 監修
ー PROLOGUE ー
鍼灸師になって数年。
最近、不安になる。
自分はちゃんと成長
できているんだろうか。
勤務しているあの先生の真似をしても
なかなか患者さんがついてこない…
そもそもこのやり方で
本当にあっているんだろうか?
自分はこの数年で
成長できていたんだろうか…
当院では、鍼灸臨床研修制度(学生でも可)を設けております。
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当院の特徴
神保町十河医院に附置された鍼灸専門の施術所で、2018年に開設されました。医院に附置されているため各種疾患・症状を抱えた患者が来院するのが特徴で、豊富な症例を多数経験することができます。
Intern
鍼灸師・鍼灸学生の方へ
ここで研修できるんだ…
もう1回勉強し直してみよう
\ 君には、もっと「型」が必要だね /
・監修いただいた先生のご紹介
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。埼玉医科大学東洋医学科、同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院・神保町十河医院附属鍼灸院副院長。「継続は力なり」をモットーにいくつになっても最新の自分が最高な自分でいるために日々アップデート中。学ぶ姿勢は研修時代と変わらず、今年で勝手に初期研修8年目突入中。製本化に向けて情報発信中(仕事の依頼はメールにてお願いいたします:daijimatsuurashinkyuin@gmail.com)
Chapter
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病状説明から治療までの導入
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医療人としての対応のポイント
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治療意欲を引き出す動機づけ面接
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カルテの書き方
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諸文書の記載方法
ー Chapter1 ー
鍼灸医療面接
まずは医療面接から勉強し直してみましょう。医療面接にはどんな役割があると思いますか?
えーっと…、鑑別疾患を考えたり、病態把握を行うために行うものですよね。
あとはどんな役割があると思いますか?
あとは患者さんとの信頼関係の構築とかでしょうか?
その通りです。特に鍼灸においては医療面接自体が治療の一部として機能すると考えていますし、不適切な医療面接はのちの治療にも影響が出てしまいます。
たしかに。言われてみれば医療面接がうまくいかなかったときにはダメなことが多かったように感じます。
適切な医療面接は患者さんとの信頼関係にも良好に働くし、継続した治療への動機づけにもなります。
鍼灸医療面接の重要性
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鍼灸師が実施する医療面接には以下の役割がある
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患者さんとの信頼関係の構築
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鑑別疾患の想起、病態把握のための情報収集
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患者教育と治療への動機づけ
☆不適切な医療面接はのちの治療にも影響する
ところで以前まではどのように患者さんの病歴を聴取していたんですか?
以前勤めていたところでは患者さんの病歴を聴取するときにはチェックリストを使っていました。
それもいいんだけど、病歴はチェックリストを埋める作業ではなくて、医療面接の本質は患者さんが体験した物語を映像化されて浮かび上がるように再現する行為ですからね。
仮に患者さんが気にかけてる問題と集めようとしている情報が異なっていたりすると、その後の治療にも悪影響が出るかもしれないですよね。
医療面接の注意点
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半構造化された手法による医療面接は情報収集が主体であり、得られる情報の量は多いが、医療面接自体が治療として機能することは少ない。
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集めようとする情報が患者の気にかけている問題と異なっていたりすると、その後の治療にも悪影響を及ぼす可能性がある。
松浦先生はどのように行っているんですか?
OSCA frameやDisease-Illnessモデル、解釈モデルなどを用いて患者さんの病歴を明らかにしています。
初めて聞くものばかりです…。
それでは1つずつ解説していきますね。
OSCA frameは半構造化された医療面接の手法のひとつでOnset、Sensation、Course、Affectorsの頭文字を取ったものです。
OSCA frame
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一般的に現病歴で重要となる情報を4項目に分類し並列化した。患者の問題点が痛みや感覚を伴う知覚関連の症状であれば以下の4項目を、伴わなければSensationの項目は不要である。
これだけだとよく分からないだろうから、実際の病歴の進行を交えて説明しますね。
「お待たせしました。こんにちは。そちらにおかけください。本日、治療を担当する松浦と申します。よろしくお願いします。」
まずは当たり前だけど、あいさつと自己紹介からはじめます。
まずはあいさつと自己紹介ですね。
あいさつと自己紹介が終わったら、医療面接ではどのように切り出すと良いと思いますか?
学校では出だしはOpen question(開かれた質問)が良いって聞いたことがあります。
その通りです。できるだけ解答に自由度を持たせて病歴を語ってもらえるように「どのように」「なぜ」などの質問を病歴を聞く早期に意図的に用いることが望ましいですよね。
「今日はどうされましたか?」とか「こちらの問診票にも書いてありますが、〇〇はどのように起こったのか経緯をお聞かせいただけますか?」
Open questionは基本中の基本ってことですね。
そしてここで最も重要なのが、最初の30秒間は口を挟まないことです。そこが患者さんの病歴の中心テーマになるからです。
30秒間は患者さんの話に集中して、なにに困っているのかを施術者自身がよく考えることが大切なんですね。
はい。それでも患者さんの話しが冗長であったり、周辺のバックグランドの話しだけに終始する場合、または主訴がつかみにくく曖昧で要点を得ない場合には、否定的な語や逆説的な言葉は挟まないで、以下のように言葉を挟むと良いです。
「なるほど…わかりました。それでは、今日〇〇さんがこちらを受診されたのはどうしてですか?」や「そうですか。それでは××と△△の症状があったのですね。では1つずつ教えてください。××についてはどのような経過だったんですか?」
たまに話が長い人もいますもんね…。とにかく最初は患者さんの話を聞くのに徹底してみたいと思います。
はい。それでは発症に関する情報を聞くときのポイントを学んでいきましょう。
On 1st time
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発症に関する整理事項であり、onset周辺の情報の種類を整理すると3項目が挙げられる。
“On 1st time” 症状の時間推移の要素
Onset いつ、どのように始まったのか
1st time 初めての発症か
Timing 何をしているときだったか
まずはOnsetです。Onsetではいつ、どのように始まったのかを明らかにしていきます。病歴から鑑別疾患を想起したり、東洋医学的な診断を行う過程でつまづく原因として、病歴が十分ではないことがあります。その対処法として重要なのは発症付近の状況をクリアにすることが重要です。
「どのように症状が始まったかについて教えていただけますか?」
ここでもできるだけ患者さんに自由度の高い解答をしてもらえるように開かれた質問なんですね。
はい。また対話形式でフィードバックしながら、患者と鍼灸師の互いの理解を一致させていくのがよりよい病歴を再現するのに確実な方法です。
「なるほど…ということは、〇〇さんは××まではいつも通りに過ごせてて、△△のときに□□ということに気づいたのですね?」
鍼灸師と患者さんの理解を一致させていく作業も大切なんですね。
次は1st timeです。1st timeはその症状が初めてか否かのことで、初めてではなく、かつ前回と同じ症状だった場合、そのアウトカムと、場合によっては診断までが明確になっている場合があります。また同じ症状だった場合には、その時の治療や経過などを聞くと良いです。
「この症状は過去にも経験したことがありますか?」
前にも経験したことがあって、それが類似している場合にはその可能性が高いですもんね。症状がいつからあるか分からないときはどうしたらいいですか?
「いつから症状があるか」の質問に対して患者がはっきり特定できない場合は、①患者自身が症状のonsetを明確に把握できていないか、または②どのくらい具体的な答えを返せばよいのかを理解していないということが考えられます。具体的な時間を質問のなかに組み込むことで時間のベンチマークを設定し、発症の時間を可能な限り特定しようとすることができます。
「なるほど、では××まではいつも通りだったのですね?」
また、具体的な時間の選択肢を3つぐらい提示して目安をつけると、「いつから症状があるか」というだけの開かれた質問よりも早い答えが期待できます。また「昔からずっと」というように漠然とした解答のときにも同様に選択肢を提示するとよいです。「就職するために上京して…」や「職場の環境が変わってから…」などヒントが隠れていることがあるからです。
「大体の目安ですが…例えばそれは半年前からなのか、1ヶ月前からなのか、5日前なのかというと、どのあたりでしょうか?」
「昔からずっと」と言われると困ってました。いくつか具体的な時間の選択肢を提示してあげるのがいいんですね。
そして最後はTimingです。Timingでは、突然発症の疾患ではその直前となる動作が症状の引き金になることが多く、「症状が起こったときに何をしていたか」が鑑別疾患を狭めるのに役立ちます。
例えば、「9:30に」や「重い荷物を持ち上げたその瞬間に」といったように、患者が発症のタイミングを明確に特定・表現できればそれは突然発症の可能性が高いというものです。
これは鍼灸師が鑑別疾患を想起する上でも直結しそうな質問ですね。
その通りです。鍼灸師が取り扱えないような緊急性の高い疾患が隠れいているかもしれないので、注意が必要です。
次に痛みや感覚が特異的な症状のときに病歴を聞くときのポイントを学んでいきましょう。
Sensation
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痛みや感覚が特異的な症状のときにSの病歴項目は必要かつ重要である.
“DR.LI” 痛みや感覚関係のときに聞く項目
Description どのような痛み/感覚か
Referred pain 他の場所が痛い/感覚異常
Location 場所
Intensity 強さ
まずはDescriptionです。Descriptionではどのような痛み、感覚なのかを聞きます。痛みの性質によって、東洋医学的な見立てを狭めるのに役に立ちます。例えば、張った感じであれば脹痛、刺すような痛みであれば刺痛といって、それぞれ引き起こされる病態がある程度想像することができますよね。これは東洋医学特有の強みでもあるので、症状はできるだけ「本人の表現」を優先することが大切です。
たしかに東洋医学では痛みの種類だけでも診断を絞り込むのに有用な場合がありますもんね。
次はReferred painです。Referred painは関連痛のことです。仮に関連痛が認められた場合には、部位については確認後、正しい解剖学的用語で記載できるように鑑別疾患を意識しながら聞くとよいです。
「いま痛い場所のほかに同時期から痛みや違和感を感じ始めたところはありませんか?」
関連痛は必ずある症状ではないから、必ずしも聞かなくてはいけない項目っていうわけではなさそうですね。
その通りです。そして痛みや違和感がある患者さんの場所を把握するためには単に「どこが痛いですか」と聞くのではなく、具体的な場所やその範囲を患者自身に示してもらうのが有効的です。
「痛みところを指で示してもらっていいですか?」
患者さんは大雑把にしか部位を言ってくれないですもんね。指で示してもらって互いに確認したほうがいいですよね。
そして最後はIntensityです。Intensityでは、痛みを生活の身近なものを使って表現したり、具体的な日常行動がどのように障害されるかなどで置き換えて表現してもらうと比較的客観化できできます。
また、患者さんの治療意欲を引き出すため、治療経過でその状態がどう変化しているかを互いに確認し、鍼灸治療を受けたことによって変化した部分を伝えるとよいです。
「痛みがあるときは歩けないくらい痛みますか?」
治療意欲を引き出すためにも、治療経過でどう変化していったのかをお互いに確認するのが良いんですね。
次に時間推移に関する情報を聞くときのポイントを学んでいきましょう。
Course
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症状の時間推移である。構成要素は3つ。
“ABC” 症状の時間推移の要素
Amplification 増幅度
Baseline ベースの状態
Continuity 連続性か、断続性か
まずはAmplificationです。Amplificationでは症状が時間経過とともにどのように変化したのかを聞きます。症状が変わらない場合は現在までの対応が無効または効果を発揮するまで時間がかかるような病態の可能性があります。また悪化しているものの薬などが悪化を抑えている可能性があるので、さまざまな状況を想定しながら聞いていきます。
「××のときと比べると〇〇の症状はいかがでしょうか?」
時間経過による変化や症状の増幅度に関しては重要ですよね。
次はBaselineです。Baselineでは現在の症状が時間経過でよくなってきているというのであれば、症状がなかったとき、あるいはある時期の状態と現在の状態を比較します。
「普段症状がないときをゼロとしたとき、今もゼロと言えますか?」
どの程度変化したのかを把握するんですね。
そして最後はContinuityです。Continuityは症状の連続性やその形式を確認します。考え方は①痛みと②痛み以外があります。痛み以外のもので代表的なものは下痢や嘔吐、咳などです。これらは、日単位~週単位で1日当たりの回数が変化してくるため、回数を確認することで、病状の進行や治癒の過程を推測することができます。
「××日前と比べると〇〇の回数はいかがですか?」
大雑把でも回数をカウントできますから客観的にも評価しやすいですよね。
はい、そして痛みのcontinuityでは、痛みにも連続的な痛みと断続的な痛みがあります。また連続的な中に断続的な痛みがある場合もあるため痛みのパターンを確認するのがよいです。
「ずっと続くなかにも痛みの波がありますか?」や「ずっと痛いですか?それとも、痛かったり痛くなかったりしますか?」
痛みのパターンを確認することは、再診時の追加問診でも重要なことですよね。
最後に影響因子に関する情報を聞くときのポイントを学んでいきましょう。
Affectors
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影響因子は、症状のamplification(増幅度)自体に影響を与える因子である。
“AAA” 影響因子
Alleviating factor 寛解因子
Aggravating factor 増悪因子
Associated factor 関連因子
まずはAlleviating/Aggravating factorです。Alleviating/Aggravating factorは寛解・増悪因子のことです。姿勢や動作、呼吸など簡単な介入が症状に影響するものが多く、増悪・寛解因子が明らかな場合は鑑別も狭まる可能性が高いため確認します。
そしてAssociated factorは、Alleviating/Aggravating factorと明確な区別はないが、症状全体に関連するようなイベント(日内変動、食事やその具体的な食事内容、生理周期、運動、心理的変化)についての情報を確認します。
これらの質問は東洋医学の観点からみても大切な項目ですよね。
次に学ぶDisease-Illnessモデルは、鍼灸師にとって非常に重要なものとなり、患者さんとの信頼関係を構築していく上でも習得したいスキルとなります。
どういったものなんでしょうか?
Disease-Illnessモデルは、医学的な視点に基づいた解釈(Disease:疾患)と生活者の視点に基づいた解釈(Illness:病い)の両者に考慮し、目の前の事実に対する自分と相手の解釈をすり合わせていく方法のことです。
鍼灸院に受診する患者さんは病気の当事者として、自身の病気について様々な想定をしていることがあります。
そこでこの場合には、解釈モデルを用います。
どういったものなんでしょうか?
解釈モデルとは、現状に対する認識(病気の原因や治療)を把握し、患者さんがどのように考えているのかを尋ねることを言います。
頭痛の患者さんを例にとってみてみましょう。ある患者さんはテレビで見た病気について心配していますが、鍼灸師は片頭痛だと認識しています。
こうした認識に齟齬が生じてしまうと、両者にとって望ましくない結果になり得てしまうことがあるので、治療者は”かきかえ”を用いて、患者さんがどのように考えているのかを尋ねると良いです。
かきかえ...とはなんでしょうか?
かきかえとは、か:解釈、き:期待、か:感情、え:影響の頭文字をとったものです。
質問の仕方もぜひ参考にしてみてください。患者さんと治療者の認識をすり合わせる作業こそが治療の第一歩とも言えるので、大切な項目となります。