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多彩な更年期症状と鍼灸治療

🟣 Q&Aでわかる!

更年期と鍼灸の関係

Q1. 更年期って何歳くらいから始まるの?

A1. 一般的には40代後半から50代前半にかけての約10年間を「更年期」と呼びます。
 閉経(生理が来なくなる)をはさんだ前後5年間が目安で、平均的な閉経年齢は約50歳とされています。

Q2. 更年期になるとどんな症状が出るの?

A2. 以下のような多様な症状が現れることがあり、「更年期症状」と呼ばれます。また、こうした症状は更年期女性の50~82%に認められると報告されており(Obstet Gynecol, 2014)、非常に多くの女性が経験することがわかります。なお、これらの症状が日常生活に支障が出るほど重い場合は「更年期障害」と診断されます。

更年期に伴う動悸や息切れ
自律神経
動悸
息切れ
​​頭痛
PMSやPMDDで悩む女性
月経の異常、生理痛

代表的な症状

肩を痛めている女性
ホットフラッシュ
血管運動神経
ほてり
​発汗
冷え
身体症状
​肩こり​
腰痛
関節痛
精神症状
憂うつ
​イライラ
不安
泌尿生殖器
頻尿
尿漏れ
​下腹部の張り感

Q3. なぜこんなにいろいろな不調が出るの?

A3. 主な原因は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少です。
 体がその変化にうまく対応できず、自律神経が乱れたり、心身のバランスを崩しやすくなります。また、この時期は仕事・家庭・介護などのストレスも重なりやすく、精神的な負担も影響します。

 正常な場合であれば、視床下部・下垂体・卵巣の三つの器官が連携することで、女性ホルモンの分泌は調整されています。

 一方で、更年期に入ると、女性のホルモンバランスは大きく変化していきます。これは、視床下部や卵巣の機能が低下し、HPO軸がうまく連携を取れなくなることが原因です。

Q4. 鍼灸は更年期の症状に効くの?

A4. はい、鍼灸には更年期症状をやわらげる働きが期待されています。

 

その作用機序として、

  1. HPA系・HPO系の過活動を抑制

  2. 女性ホルモン(エストロゲンなど)やその受容体の調整

  3. 神経伝達物質やシグナル伝達経路の活性化あるいは不活性化

  4. 酸化ストレスの改善など

 複数のメカニズムが関与することをZhaoらは報告しています。こうしたメカニズムが組み合わさることで、“複合的な効果”をもたらすと考えられます。

 

➤ Zhao FY, et al. nature and science of sleep. 13: 1823-1863, 2021

 つまり、「鍼治療が更年期に伴う症状に対して広範に作用する可能性がある」、ということを示す内容となっています。

更年期障害 鍼灸メカニズム

Q5. 鍼灸に科学的な裏付けはあるの?

A5. はい。近年、世界中で鍼灸に関する研究が進み、特に更年期症状に対する効果については信頼できるデータが蓄積されています。

BMJ Open, 2019

 デンマークで行われた研究では、中等度~重度の更年期症状を持つ女性70名を対象に、鍼治療群(36名)と無治療群(34名)にランダムに分け、週1回・合計5回の鍼治療を行いました。治療は鍼灸教育を受けた家庭医(平均14年の臨床経験)が担当しました。

  • 施術内容:ディスポ鍼を使用し、得気を得た後に10分置鍼(施術時間約15分)

  • 評価方法:MenoScores Questionnaire(更年期症状の質問票)

 

結果

  • 鍼治療群では3週目から症状が有意に改善し、その効果は6週目まで持続

  • ほてり、睡眠障害、情緒不安定など、6つの症状でも有意な改善

  • 約80%の女性が「症状が軽くなった」と回答

​​

まとめ

 この研究は、標準化された鍼治療が更年期症状を有意に改善する可能性を示しています。特に、効果は3週間以内に現れ、6週後も持続した点が特徴です。

 

Lund KS, et al. British Medical Journal. 9(1); 2019

 この発表を踏まえ、同年JAMAにおいてもBMJ openでの研究を紹介する記事が掲載されました。その記事の一文に「Acupuncture May Reduce Menopausal Symptoms」と鍼治療が更年期症状の軽減に『有望・現実的』な非薬物療法の選択肢のひとつになり得ると結論付けられました。

​➤ Anita Slomski, MA. Journal of the american medical association. 321(16); 2019

​​

Menopause, 2021

 更年期症状の代表的な悩みであるホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)に対しては、一般的にはホルモン補充療法(HRT)が第一選択とされています。
 

しかし、

  • HRTが適応とならない場合

  • 患者さんがホルモン治療を望まない場合
    には、非ホルモン療法(抗うつ薬のSSRI/SNRIやガバペンチンなど)が検討されます。
    ただし、これらの薬は副作用や相互作用が課題となることがあります。

​​

本研究の目的

 2021年に学術誌「Menopause」に掲載された研究では、次の2つの問いを調べました:

  1. 伝統的な鍼、鍼通電、偽鍼(本物の鍼ではない対照)で効果に差はあるか?

  2. 鍼治療は薬(SSRI/SNRI、ガバペンチン)やプラセボ薬と比べてどの程度効果があるか?
     

 解析対象は17件のRCT(ランダム化比較試験)、1,123名の女性でした。
 アウトカム(評価指標)はホットフラッシュの頻度の変化です。

 

主な結果

  • 8週間後のホットフラッシュ頻度の減少(中央値)
    鍼通電: −3.6回/日伝統的鍼: −3.1回/日、偽鍼: −2.6回/日
    → 鍼治療はいずれも偽鍼より優れていました。

各種鍼治療による効果の差
  • 効果の発現時期4週目には効果が出始め、12週後も持続しました。
     

  • 他の治療法との比較では、鍼通電はガバペンチンと同等の効果が認められました。

  • SSRI/SNRI(抗うつ薬)は最も強い効果を示しましたが、鍼治療群はプラセボ薬群より明らかに改善したことも示すことができました。
非ホルモン療法との比較

​まとめ

  • 鍼通電療法は、ホットフラッシュを減らす効果が偽鍼より高い

  • ガバペンチンと同等レベルの改善効果

  • 副作用の心配が少ないため、ホルモン治療や薬物治療が使えない方にも選択肢となり得る

 

 鍼治療は更年期症状に対して、薬以外の安全な補完療法として有効性が期待されています。

➤ Li, Ting, et al. Menopause. 28(5); 564-572, 2021

Q6. 東洋医学では更年期をどう考えるの?

A6. 東洋医学では、更年期は「腎(じん)」のエネルギー(=腎精)が自然に弱まっていく時期と捉えられています。

 この「腎」とは、西洋医学でいう腎臓とは異なり、生命力の貯蔵庫のような役割を持ちます。
「成長・発育・生殖」を司る根本的なエネルギー源であり、加齢とともにこの腎精が徐々に消耗していくことで、様々な不調が現れやすくなるのです。

🔹 東洋医学からみる更年期障害

 更年期障害には「のぼせ型」や「上熱下寒型」があります。患者さんをよく観察していると、身体の上部の「のぼせ」が表面に出ていますが、その裏に下半身の「冷え」が伴っていることが多いです。また、一時代前の更年期障害は「血の道症」といわれ、現代医学的な面からは「骨盤充血症」や「骨盤内鬱血症候群」などと呼ばれていたこともあったようです。注意深い医師は、更年期障害の患者さんには下腹部に圧痛を認め、瘀血(血のめぐりの悪さ)と深くかかわっていることに気づいていたのかもしれません。

🔹 女性の一生と生理的変化

 更年期障害を東洋医学的に理解するためには、女性の一生の生理的変化を知らなければなりません。東洋医学ではよく取り上げられるのが『素問』に最初に出てくる「上古天真論」が有名です。ここでは加齢により女性の臓器、経絡、気血が成育・衰弱していく様子が具体的に書かれています。

『素問 上古天真論』(※筆者の解釈)

7歳で腎の働きが活発になり、歯が生え替わりはじめ、髪も長くなる。

14歳で天葵(腎の精気)が充満し、任脈がスムースに流れるようになり、太衝脈が旺盛になり月経が始まるので子供を産めるようになる。

21歳になると腎気は充実し、親知らずが生えて体格は頂点に達する。

28歳になると筋骨がさらに充実し、毛髪は最も長く豊かになり、身体も盛壮になる。

35歳になると陽明経脈(大腸経・胃経)の機能が衰えて、顔色も衰え始め、髪が抜け始める。

42歳になると三陽の脈が衰えるので、顔もみんな衰えて白髪が多くなる。

49歳になると任脈が虚し、太衝脈も衰えて天葵が尽きるので子供が作れなくなる。この時期に更年期障害が発症しやすいと考えられます。現代医学的にもちょうどエストロゲンの分泌量が低下していく時期に一致しています。つまり、腎の働きはエストロゲンの分泌の推移と一致していると考えることもできます。

更年期障害 東洋医学

🔹 東洋医学的にみた更年期の主なポイント:

  • 腎陰虚(じんいんきょ):
     → 身体を潤し冷ます「陰の力」が不足し、ほてり・のぼせ・寝汗・不眠などが起こる

  • 腎陽虚(じんようきょ):
     → 身体を温める「陽の力」が足りず、冷え・疲れ・むくみ・気力の低下などが見られる

  • 肝気鬱結(かんきうっけつ):
     → ストレスや感情の抑圧で「肝」の気の流れが滞り、イライラ・怒りっぽさ・生理不順などにつながる

これらは単独で起こる場合もあれば、複数が重なって複雑に現れることもあります。

 

🔹 五臓六腑の視点から見る更年期:

  • 腎: ホルモンや老化、骨、脳、生殖機能に関係

  • 肝: 自律神経や感情、血の流れに関係

  • 脾: 消化吸収、気血の生成に関係

  • 心: 精神・意識・睡眠の調和に関係

東洋医学では、こうした「五臓」のバランスが崩れることで心身に様々な影響が出ると考えられています。

 

🔹 鍼灸治療ではどう対応する?

 鍼灸では、これらのバランスの乱れに合わせて、適切なツボを選び治療します。

たとえば:

  • 腎を補うツボ(例:腎兪、太渓)

  • 陰を養うツボ(例:三陰交、復溜)

  • 自律神経を整えるツボ(例:内関、神門)

  • 肝の気を流すツボ(例:太衝、期門)

 

 このように、東洋医学では「その人の体質・症状・心の状態」に合わせた個別の対応が基本となります。​

​​

​Q7. 鍼灸はどんな人におすすめ?

A7. 以下のような方に特におすすめです:

  • 薬やホルモン治療には抵抗がある

  • 検査では異常がないのに不調が続く

  • 自然に体を整えたい

  • 睡眠が浅い・疲れが取れない

 

 実際、当院にも「できれば薬を使いたくない」という方が多く来られています。

 

Q8. 鍼灸治療はどのくらい通えばよいの?

A8. 体質や症状によりますが、まずは週1回ペースで2〜3か月続けてみるのがおすすめです。多くの方がこの期間で変化を実感されます。その後は体調に合わせて間隔を調整していきます。

 

Q9. 副作用はありますか?

A9. 鍼灸は副作用の少ない治療法ですが、ごくまれに内出血(青あざ)ができることがあります。ただし、通常は数日〜1週間で自然に消えます。
 服薬中の方は、事前に医師と相談することでより安心です。

Q10. 鍼って痛くないの?どこに打つの?

A10. 鍼は髪の毛ほどの細さで、ほとんど痛みを感じない方がほとんどです。
 ツボはお腹・背中・手足・頭などにあり、症状に合わせて必要な場所に行います。
「思っていたより全然痛くなかった」と驚かれる方が多いです。

Q11. 当院にはどんな方が来ていますか?

A11. 当院には、30〜60代の女性の方が多く来院されています。
 特に更年期に差し掛かる年代の方が多いため、更年期にともなう心身の不調(更年期症状)のご相談がとても多いのが特徴です。

 

Q12. どんな症状で来る方が多いですか?

A12. 「なんとなく調子が悪い」「病院では異常がないと言われたけどつらい」――そんな不定愁訴(ふていしゅうそ)を訴える方が多く来られます。

よくある症状には:

  • 肩こり、頭重感、顔のほてり、のぼせ、動悸などの身体症状

  • イライラ、憂うつ、不安感、不眠などの精神症状

これらが複合的に現れているケースが多く見られます。

 

Q13. 薬を使いたくない方にも向いていますか?

A13. はい。実際に当院を選ばれる多くの方が、
 「できるだけ薬に頼らず、根本から体質を改善したい」という思いで来院されています。

 また、婦人科や精神科にすでに通院中の方が、症状の軽減やお薬の減量を目的に、補完的に鍼灸を取り入れるケースも少なくありません。

Q14. 更年期障害かも?チェックリストはありますか?

A14. 「最近、生理が不規則になってきた」「体や心の調子が以前と違う…」そんな方は、更年期障害の可能性があります。

 

以下のような症状があるか、チェックしてみましょう。

✅ 更年期セルフチェックリスト

□ 生理の周期が不規則になってきた

□ 顔のほてりやのぼせを感じる

□ 急に汗をかくことがある(特に夜間)

□ 動悸や息切れが気になる

□ 気分が落ち込みやすくなった

□ イライラしやすい・怒りっぽくなった

□ 寝つきが悪く、眠りが浅い

□ 肩こり、腰痛、関節痛が気になる

□ 頭が重い、めまいがする

□ 以前より疲れやすくなった

 

3つ以上当てはまる場合は、更年期症状が出ている可能性があります。

 

⚠️ ただし注意!

更年期症状に似た不調は、他の病気でも起こることがあります。

 

たとえば:

  • 糖尿病

  • 甲状腺機能低下症

  • メニエール病

  • 変形性関節症

などは、50歳前後で増えてくる疾患です。
 

不調が続く場合は、自己判断せずに一度、医療機関での診察をおすすめします。

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