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全日本鍼灸学会『認定鍼灸師』
その制度と意義について考える
なぜ「認定鍼灸師」が必要なのか。
鍼灸師には、さまざまな分野で専門性を発揮することが期待されています。
そのためには、高度な知識と臨床能力を有していることを、第三者が客観的に評価できる仕組みが必要です。
全日本鍼灸学会「認定鍼灸師」は、そうした専門性を社会に示すための制度です。
『認定鍼灸師』とは
学会が定める一定の基準を満たした鍼灸師。
(公社)全日本鍼灸学会が定めた教育・研修プログラムを修了し、所定の要件を満たした鍼灸師に付与されます。
主な認定要件
2022年以降に入会した会員については、「学術研修」と「臨床研修」の履修が必須とされています。
『認定鍼灸師』の意義とは何か。
個人の成長を、職業全体の価値へ。
認定鍼灸師制度の意義は、鍼灸師個人のキャリア形成にとどまりません。
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鍼灸師という職業の社会的地位の向上
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医療連携の推進
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学術活動の活性化
これらを支える、極めて重要な基盤となる制度です。
そして、今まで以上にこの制度が期待されています。
なぜかというと、専門性の高い知識や臨床能力を有した鍼灸師が各分野で活躍することが期待されているからです。
医療連携を見据えた認定制度
全日本鍼灸学会では、『医療連携』が可能な鍼灸師を育成するために、新しい認定制度を整備・運用しています。この制度は、医師の専門医制度と同様に「2階建て構造」となっている点が特徴です。
【第1階層】
現代医学と東洋医学の双方に精通し、医師と連携できることを基準とした鍼灸師
【第2階層】
診療ガイドラインなどに準拠し、特定の疾患・症状に特化した専門性の高い鍼灸師
この制度により、共通基盤を持ちながら、各分野で専門性の高い鍼灸師が医療現場で活躍することが期待されています。
HARI×MEDの活動の一環
「HARIMEDIA(ハリメディア)」
山口智 先生(全日本鍼灸学会 副会長)に取材

■ 社会的地位の向上
国家資格の取得は、鍼灸師としての基礎的な知識と技能を担保する制度的入口にすぎません。
それだけで鍼灸師の社会的地位を十分に高めるのは難しく、専門職としての継続的な学びと能力の可視化が求められます。
認定鍼灸師の制度が機能することによって、保健・医療・福祉の中での立ち位置が強化され、公的な健康政策への参画、保険適用拡大への布石、地域医療との連携強化などが期待されます。
■ 医療との連携の推進
鍼灸が医療の一翼を担う重要な役割を果たすには、標準化・可視化された資格が不可欠です。
近年、患者さんの健康課題が複雑化する中で、医師などの他の医療職と協力して医療を提供する必要性が高まっています。そのため、鍼灸師も「病鍼連携」「診鍼連携」といった形で、医療機関と密に連携し、役割を果たすことが求められています。
(公社)全日本鍼灸学会 副会長
山口智(埼玉医科大学東洋医学科 客員教授)
■ 学術活動への参加機会の提供
認定鍼灸師制度では、取得および更新の要件として、学術大会への参加や発表が求められ、日々の臨床で得られた知見を学術的に整理・発信する機会が生まれます。これにより、臨床での実践と学術的探究が相互に高め合う環境が促進されます。
さらに、こうした活動を通じて、現場の知見が鍼灸学全体に還元されるだけでなく、若手鍼灸師の育成や研究志向の醸成、そして学問的な発展への貢献へとつながります。認定制度は、単なる称号ではなく、実践的な知見と学術的な発展を架橋する仕組みとしての役割も担っているのです。
Q. なぜこの制度に反対する人がいるんだろう?
A. X(旧:Twitter)上で議論されている内容から、その課題を 構造的・文化的・実利的な要因に分けて考えてみましょう。
①【制度設計への疑問】
■ 学会主導への不信感
「学会の既得権益」「内輪の制度」と受け止められることがあります。
実際の臨床よりも「学会活動歴」「単位取得」が重視されている印象から、 現場の努力が評価されにくいと感じられることがあります。
■ 認定基準の不明瞭さ
どんな能力を保証するのか、社会的価値が見えにくいという指摘があります。また、認定制度は「専門性のある鍼灸師を可視化する」目的ですが、評価基準の妥当性や透明性に懸念がある人もいます。
ある調査では、学会内でも認定制度が必要と考える人とそうでない人の意見が分かれ、必ずしも全員が必要だと考えているわけではありません(約30%が必要性を認める、といった結果も報告あり)(矢野ら, 2009年)
②【臨床現場との乖離】
■ 自由診療が主流という構造
鍼灸は自費診療が中心で、医師の評価制度と相性が悪いという見方があります。
■ 公益性・信頼性への懸念
資格を過度に集客へ利用すると、制度の目的が歪む可能性が指摘されています。
■ 患者の誤認リスク
「認定=必ず安心・効果が高い」と誤解される可能性があります。また、認定制度が進むと 鍼灸師の間で階層が生じる可能性があります。
認定を持つ鍼灸師・持たない鍼灸師で社会的評価やキャリアの差が生まれ、既存の鍼灸師同士の対立や不満につながる、と心配する声があります(海外でも同様に「専門的資格化=職業内での分裂」と捉えられる議論がある)(Cloatre E, Salvini Ramas F. Med Law Int. 2020)
■ 実力主義 vs 制度主義
「資格より臨床力」という文化的価値観とのズレも背景にあります。
③【費用と手間の問題】
学会参加・単位取得・更新費用などの負担が大きく、 とくに若手や地方の鍼灸師にはハードルが高いと感じられています。認定取得のために 追加の研修・学術活動参加が必要になります。
これを「現場での負担が増える」「給与や待遇には直接結びつかない」と感じる人、「そもそも国家資格だけで十分」という立場の人からは反対や慎重意見が出ることがあります(矢野ら, 2009年)。
④【業界全体の制度疲労】
民間資格・団体認定が乱立し、 「どれが意味のある資格か分からない」という疲労感も生じています。
⑤【そもそも認知・関心が低い】
「制度の存在を知らない/自分には関係ない」と感じる層も一定数存在します。
■ 要するに…
反対の根底には、制度と現場の乖離/負担と効果の不均衡/価値観の違いがあります。
それでも本制度は、専門性・倫理性・医療連携を支える重要な基盤と考えられます。
では、理想的な認定制度とは?
例えば、
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評価基準が明確
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臨床能力と倫理性を可視化
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医学系学会が関与し社会的信頼性を担保
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医療連携と直結する実益がある
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地方・若手にも参加可能な設計
そのような制度であれば、単なる「肩書き」ではなく、社会的インフラになり得ます。
近年では、日本疼痛学会においても「認定鍼灸師」制度が開始されました。
医学系学会が設計・運用に関与するモデルは、鍼灸の専門性を医療制度内で位置づける試みとも言えます。
👉 詳細は『鍼灸柔整新聞』を確認
(記事を読む)
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

