Evidence
鍼灸は不妊に効果があるのか?|IVF・妊娠率・生児出生率のエビデンスを整理
まずは結論
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不妊治療における鍼灸は、妊娠率・継続妊娠率・生児出生率の改善を示した研究がある一方で、有意差が認められない研究も存在する領域です。
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その差は、介入時期、治療回数、対象患者、対照条件(Sham設定)などの研究デザインに依存します。
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したがって現時点では、鍼灸は一定条件下で有効性が示唆されるものの、一律に評価できる治療ではなく、個別の状況に応じて解釈すべき補完医療と位置づけられます。
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よくある疑問(FAQ)
Q. 鍼灸は不妊治療に効果がありますか?
A. 条件によっては有効性が示されています。
複数のシステマティックレビューでは妊娠率や生児出生率の改善が報告されていますが、短期介入では有意差が認められない研究もあり、結果は一貫していません。
Q. 胚移植の前後だけ受ければよいですか?
A. 短期介入のみでは評価が不十分な可能性があります。
実臨床では、採卵前から数か月単位で継続することで、体調や内分泌環境の調整を図るケースが一般的です。
Q. 鍼灸はどのような役割を担いますか?
A. 生殖医療を補完する支持的介入として位置づけられます。
血流、自律神経、ストレス反応などに作用し、治療プロセス全体を支える役割が期待されます。
本ページの作成方針
本ページは、不妊治療領域における鍼灸について、研究論文と臨床経験の両面から、できる限り正確に整理することを目的として作成しています。
近年、「鍼灸」に関する情報は急速に増えていますが、どの情報をどのように解釈すべきか迷われる方も少なくありません。
そのため本ページでは、単一の研究結果だけで判断するのではなく、研究の背景や条件、限界も含めて読み解くことを重視しています。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

体外受精(IVF)と鍼灸の関係性
―「もっと早く、もっと長く」介入するという視点
近年のシステマティックレビュー(2025年)では、胚移植直前・直後のみの短期的な鍼灸介入ではなく、採卵前から継続的に鍼灸を行うことの重要性 が示唆されています。
日本の臨床現場では、
-
週1回
-
数か月単位での継続治療
が一般的であり、これは身体状態の調整に時間を要するという前提に基づいています。
鍼灸は不妊治療に有効か
― エビデンスの全体像 ―
結論として、鍼灸は有効性が示唆されている一方で、結果は一貫していない領域です。
2022年のシステマティックレビューでは、27件のRCT(n=7,676)を解析し、臨床妊娠率・継続妊娠率・生児出生率すべてで有意な改善が報告されています。
一方で、JAMAに掲載されたRCTでは、
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鍼治療群:18.3%
-
偽鍼群:17.8%
と、有意差は認められていません。
鍼灸研究は“いま”が熱い時代です
実はここ10~15年ほどの間に、鍼灸に関する研究文献の数は飛躍的に増加しています。
2023年のデータを見ると、PubMedに登録された文献数は、
-
「Kampo(漢方)」に関する文献:131件
-
「Acupuncture(鍼灸)」に関する文献:3,450件
と、鍼灸が世界的にも非常に注目されている研究領域であることが分かります。

鍼灸研究はどこから始まったのか
― 不妊治療との接点 ―
近年、鍼灸に関する研究は急速に増加していますが、その起点となったのが、不妊治療(ART)との組み合わせに関する研究です。
体外受精(IVF)と鍼灸の関係について、最初に無作為化比較試験(RCT)が報告されたのは2002年でした。
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研究の起点
― Paulusらの試験 ―
Paulusらの研究では、
-
鍼治療群:42.5%
-
対照群:26.3%(p=0.03)
と、胚移植前後の鍼治療により臨床妊娠率の有意な改善が示されました。
この研究の特徴は、
-
胚移植の直前・直後という明確なタイミング
-
経穴の標準化
-
手技の統一
にあり、再現性を担保した点で評価されています。
このプロトコルは後に「Paulus式」と呼ばれ、世界中の研究に影響を与えました。
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Paulus式の限界
― なぜ議論が分かれるのか ―
一方で、この研究モデルには重要な制約があります。
それは、胚移植前後の短期介入に限定されている点です。
実際の臨床では、数か月単位での継続的な介入が一般的であり、このような「長期的・加算的な効果」は十分に検証されてきませんでした。
この点が、後の研究結果のばらつきにつながっている可能性があります。
日本特有の不妊事情と鍼灸の役割
鍼灸院に来院する不妊患者さんの傾向
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年齢層:30代後半~40代前半
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背景:ART(体外受精・顕微授精)を複数回経験
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精神面:不妊治療へのストレスが顕著
-
来院理由:
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胚移植前後のコンディション調整
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卵子の質を改善したい
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卵胞が育たない(=卵巣刺激低反応:Poor Responder)
-
Poor Responderの現実
卵巣刺激に対する反応が乏しい患者さん(=卵巣刺激低反応症例)は、体外受精の妊娠率が有意に低いことが分かっています。
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全年齢層の比較
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低反応群:14.8%
-
正常反応群:34.5%
-
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年齢別の妊娠率
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37歳以上:1.5%~12.7%
-
36歳以下:13.0%~35.0%
-
特に37歳以上で卵巣刺激低反応を示す場合は、妊娠率が極端に低下することが臨床的に問題視されています。この領域で鍼灸の補完的役割が注目されています。
日本の臨床との乖離
― 「短期介入」と「継続介入」 ―
日本の臨床現場では、
-
週1回
-
数か月単位
の継続的な鍼灸治療が一般的です。
これは、ホルモン環境や血流、ストレス状態といった要素が時間をかけて変化することを前提としたアプローチです。
したがって、短期介入のみを評価した研究結果を、そのまま臨床に適用することには限界があります。
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臨床的に重要な対象
― 卵巣刺激低反応(Poor Responder) ―
不妊治療の現場では、特に重要な対象として「卵巣刺激低反応(Poor Ovarian Response)」が挙げられます。
この群では、
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低反応群:14.8%
-
正常反応群:34.5%
と、妊娠率が大きく低下することが知られています。
さらに、37歳以上では妊娠率が1.5〜12.7%と著しく低下し、臨床上大きな課題となっています。
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鍼灸の位置づけ
― 補完的介入としての可能性 ―
このような背景から、鍼灸は
-
卵胞発育の補助
-
血流改善
-
内分泌環境の調整
といった観点から、補完的な介入として検討されています。
近年では、一定期間の鍼灸介入により、
-
採卵数
-
受精卵数
-
胚盤胞到達率
の改善が示唆される研究も報告されています。
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ここまでのまとめ
この領域を理解するうえで重要なのは、「Paulus式=標準」ではなく、「一つのモデル」に過ぎないという点です。
現在の臨床は、短期介入ではなく継続的介入へと軸足を移しつつあり、この点を踏まえて研究結果を解釈する必要があります。
よく引用される研究
― JAMA掲載RCTの結果 ―
不妊治療と鍼灸の議論において、最も頻繁に引用されるのが、JAMAに掲載された無作為化比較試験です。
この研究では、
-
鍼治療群:18.3%(74/405)
-
偽鍼群:17.8%(72/404)
と、生児出生率に有意差は認められませんでした。
この結果から、「鍼灸は無効である」と解釈されることもあります。
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この結果はどのように解釈すべきか
― 結論だけでは不十分 ―
結論から言えば、この研究は重要な知見を提供する一方で、そのまま一般化するには注意が必要な設計となっています。
臨床的に重要なのは、結果そのものではなく、どのような条件で検証されたかです。
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主な論点①
― 胚移植条件の偏り ―
本研究では、偽鍼群において胚盤胞移植の割合が高かったとされています。
胚盤胞移植は、初期胚移植と比較して妊娠率・出生率が高いことが知られているため、対照群の成績が相対的に底上げされ、群間差が縮小した可能性があります。
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主な論点②
― Shamは「無刺激」ではない可能性 ―
本研究で用いられた偽鍼は、非侵襲的な非経穴刺激でした。
これは、
-
接触鍼
-
散鍼
に近い刺激と考えることもでき、神経系への影響を完全に排除できていない可能性があります。
その結果、実質的に「軽い鍼刺激 vs 鍼刺激」という比較になり、差が出にくい設計となった可能性があります。
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主な論点③
― 介入期間の短さ ―
この研究における鍼灸介入は、胚移植前後の計3回のみでした。
一方で、実際の臨床では、週1回・2〜3か月以上の継続治療が一般的です。
したがって、鍼灸の「加算的・蓄積的な効果」を評価するには不十分な設計と考えられます。
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では、この研究は何を示しているのか
この研究から言えることは明確です。
「短期的な介入(移植前後のみ)では、生児出生率に差が出ない可能性がある」
一方で、鍼灸そのものの有効性を否定するものではありません。
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臨床的な解釈
― どのように活かすべきか ―
この研究を踏まえた臨床的示唆は以下の通りです。
-
単回・短期介入のみで効果を期待するのは難しい
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継続的な介入を前提とした評価が必要
-
対照条件(Sham)の影響を常に考慮する
したがって、鍼灸は「移植前後の単発処置」ではなく、「周期全体を通じた調整手段」として位置づける方が、臨床的には整合的です。
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まとめ
JAMAの研究は、鍼灸の有効性を否定するものではなく、「どの条件では効果が出にくいか」を示した研究と捉えるのが適切です。
エビデンスを理解する際には、結果ではなく前提条件を含めて読み解くことが不可欠です。
鍼灸は「なぜ効くのか」
― 生理学的メカニズム ―
鍼灸が不妊症に作用するメカニズムとして、現在では複数の生理学的経路が示唆されています。
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ホルモンバランスの調整(HPO軸への作用)
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子宮・卵巣血流の改善(着床環境の最適化)
-
自律神経の調整(ストレス軽減・睡眠改善)
-
免疫・炎症応答の調整(着床・発育環境のサポート)
これらはそれぞれ独立した作用ではなく、相互に関連しながら全身の状態に影響を与えます。
鍼灸は「なんとなく効く」治療ではなく、神経・内分泌・免疫を介した反応として説明可能な段階に入りつつあると考えられます。

胚移植前後の鍼灸は有効か
― 臨床研究の位置づけ ―
結論として、胚移植前後の鍼灸は妊娠率を高める可能性が示唆されています。
2018年から2020年に行われた654周期の凍結胚移植を対象とした研究では、
-
鍼灸群:60.6%
-
非鍼灸群:46.95%(p=0.017)
と、鍼灸群で有意に高い妊娠率が報告されています。
さらに、着床前遺伝学的検査(PGT)を行った胚移植では、
-
鍼灸群:73.93%
-
非鍼灸群:63.29%(p=0.042)
と、同様の傾向が認められています。
これらの結果から、
-
胚移植の前後に介入することの意義
-
子宮環境の調整への関与
-
高条件(PGT)でも効果が示唆される点
が臨床的に重要と考えられます。
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鍼灸はストレスにも作用する
― 治療全体を支える視点 ―
鍼灸は妊娠率への影響だけでなく、IVFに伴う身体的・心理的負担の軽減にも関与することが報告されています。
ある研究では、
-
痛み:−1.38
-
ストレス:−2.11
-
不安:−2.22
と、いずれも有意な改善が認められました。
IVFは長期にわたる治療であり、ストレスや不安が治療経過に影響することも少なくありません。
この点から、鍼灸は単なる局所治療ではなく、治療プロセス全体を支える介入として位置づけることができます。


採卵への影響
― 「継続」が前提となる効果 ―
鍼灸が採卵に与える影響については、一定の効果を示唆する研究がありますが、その特徴は明確です。
短期介入では変化が乏しく、継続介入で効果が現れる可能性が高い
具体的には、
-
3周期以上の介入:45.3%で採卵数増加
-
短期間介入:明確な変化なし
と報告されています。
この結果は、鍼灸の作用が即時的というよりも、時間をかけて蓄積される性質を持つ可能性を示唆しています。
したがって、採卵に関しても、「どれだけ続けるか」が治療効果を左右する重要な要素と考えられます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と鍼灸
― 複合病態へのアプローチ ―
病態の理解
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、単一の原因ではなく、内分泌・代謝・自律神経・心理的要因が相互に影響し合う複合的な疾患です。
主な特徴として、
-
排卵障害(無月経・稀発月経)
-
高アンドロゲン血症(多毛・ニキビなど)
-
卵巣内の多数の未熟卵胞
-
インスリン抵抗性・代謝異常
が挙げられます。
これらは独立して存在するのではなく、
排卵障害
→ ホルモンバランスの乱れ
→ インスリン抵抗性の悪化
→ アンドロゲン増加
→ さらに排卵障害が悪化
という悪循環構造を形成することが、PCOSの本質的な特徴です。
さらに、慢性的な不妊状態は心理的ストレスを増大させ、これが自律神経や内分泌系に影響を及ぼすことで、病態をより複雑にします。
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鍼灸の作用機序
このような複合病態に対し、鍼灸は単一の経路ではなく、複数の生理学的システムに同時に作用する介入と考えられています。
主な作用として、以下が示唆されています。
1.ホルモンバランスの調整
視床下部―下垂体―卵巣(HPO軸)に作用し、LH・FSHのバランスを調整することで、排卵周期の安定化を促す可能性があります。
2.インスリン抵抗性への作用
GLUT4の活性化を介して糖代謝を改善し、高アンドロゲン状態の是正に寄与する可能性が示されています。
3.自律神経の調整
交感神経の過剰な緊張を抑制し、セロトニンやβエンドルフィンなどの神経伝達物質を介して、ストレスや不安の軽減に関与します。
これらの作用は、個別に存在するのではなく、病態の悪循環を多方向から緩和する形で働くと考えられます。
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臨床的な位置づけ
PCOSに対する鍼灸は、原因を単一に特定して介入する治療ではなく、複合的な病態全体を調整する補完的アプローチとして位置づけられます。
特に、
-
排卵障害の改善を目的とした周期調整
-
インスリン抵抗性や代謝異常への介入
-
ストレス・不安の軽減
といった複数の側面に同時に働きかける点が特徴です。
したがってPCOSに対する鍼灸は、「単一の症状に対する治療」ではなく、「病態の構造そのものに介入する治療」として理解することが重要です。
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臨床で用いられる経穴
実際の臨床では、病態に応じて経穴が選択されますが、代表的には以下が用いられます。
任脈系:中極(CV3)、関元(CV4)、気海(CV6)
→ 生殖機能・月経周期の調整
子宮周囲:帰来(ST29)
→ 血流改善
内分泌調整:三陰交(SP6)
→ ホルモン・血液調整
代謝系:陰陵泉(SP9)
→ 水分・代謝調整
全身調整:足三里(ST36)、合谷(LI4)
→ 自律神経・免疫・抗ストレス作用
※実際には個々の病態に応じて調整されます。
ーーーーーーーーー
まとめ
PCOSは、内分泌・代謝・神経・心理が絡み合う複合病態であり、単一の介入では対応が難しい領域です。
鍼灸は、
-
多系統に同時に作用する
-
病態の悪循環を緩和する
-
継続的介入を前提とする
という特徴を持ち、生殖医療における補完的かつ全体調整的な介入として有用である可能性が示唆されています。

鍼通電刺激は、卵巣や子宮にどのような影響を与えるのか
A.はい。鍼通電刺激は、卵巣や子宮の血流や組織環境に影響を与え、妊娠に適した状態を整える可能性 が、基礎研究によって示されています。
そのメカニズムは、動物実験を通して少しずつ明らかになってきています。
鍼通電刺激が卵巣血流に及ぼす影響
―― 動物実験からわかってきたこと
Elisabet Stener-Victorin ら(Reproductive Biology and Endocrinology, 2004)
この研究では、ラットに対して鍼通電刺激を行い、その後の卵巣血流(Ovarian Blood Flow:OBF)の変化が詳しく検討されました。
主な研究結果
■ 刺激「周波数」の違い
-
低頻度刺激(2Hz) の方が
高頻度刺激(8Hz) よりも
卵巣血流を有意に増加させました
■ 刺激「強度」の違い(PCOSモデル)
-
多嚢胞性卵巣(PCO)モデルラットにおいて
-
1.5mA
-
3.0mA
-
6.0mA
-
を比較したところ、6.0mAの刺激でのみ有意な血流増加 が認められました。
■ 神経系の関与
-
卵巣の交感神経である
-
上卵巣神経(SON)
-
卵巣神経叢(OPN)
-
を切断したラットでは、鍼通電刺激による血流増加は認められませんでした。
これらの結果から分かること(考察)
-
鍼通電刺激による卵巣血流の増加は交感神経を介した反応 である
-
PCOSのような病態では、一定以上の刺激強度が必要 となる可能性
-
鍼刺激は「血管を直接広げる」のではなく、神経系を通じて血流調整に作用 している
臨床への示唆
この研究は動物実験ではありますが、
-
鍼通電刺激が神経系を介して卵巣環境に影響を与えうること
-
病態(PCOSなど)に応じて刺激条件を考慮する必要があること
を示しています。
鍼灸が「なんとなく血流を良くする」のではなく、神経生理学的なメカニズムに基づいて作用している可能性 を示す、重要な基礎研究のひとつです。


鍼通電刺激は、子宮内膜にどのような影響を与えるのでしょうか?
―― 血管新生と「着床環境」に関する基礎研究
Wei Chen, Jie Chen ら(Biology of Reproduction, 2019)
この研究では、卵巣過剰刺激(COH)モデルのラット を用いて、鍼通電刺激が 子宮内膜の血管新生 および 胚の着床環境 に与える影響が検討されました。
実験の設定
ラットは、以下の4群に無作為に割り付けられました。
-
① 正常群(N)
-
② COHモデル群(M)
卵巣過剰刺激のみ -
③ 鍼通電刺激群(EA)
卵巣刺激開始から妊娠3日目まで鍼通電を実施 -
④ 鍼通電前処置群(PEA)
卵巣刺激の3日前から妊娠3日目まで鍼通電を実施
鍼通電刺激の条件
-
経穴:三陰交(SP6)・足三里(ST36)
-
周波数:2 / 15 Hz
-
強度:筋収縮が生じる閾値
さらに、PEA群の一部のラットには、血管新生を抑制する阻害因子(siVEGFR2) を子宮内に投与し、血管形成への影響が詳しく調べられました。
主な研究結果
■ 子宮内膜の血管新生指標
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EA群・PEA群
→
子宮内膜の 微小血管密度(MVD) が有意に増加
血管新生関連因子 (VEGF-A、Ang-1、FGF-2 など)も増加 -
COHモデル群(M)
→
これらの指標は低下
COHにより血管新生が抑制される ことが確認されました
■ VEGFR2阻害の影響
-
siVEGFR2を投与した群では
-
VEGFR2の発現低下
-
胚の数の減少
-
MVDの著明な低下
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が認められ、VEGFR2が子宮内膜の血管新生と着床に極めて重要であることが示されました。
研究から考えられること(考察)
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鍼通電刺激はVEGFR2を中心とした血管新生シグナル経路 を活性化
-
その結果、子宮内膜の血管新生が促進 される可能性
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血管新生の改善は、胚が着床しやすい環境づくり に寄与すると考えられる
特に注目すべき点は、鍼通電刺激を「前処置」として行った群(PEA群)で、より明確な効果が認められた ことです。



参考文献
-
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