FERTILITY TREATMENT AND ACUPUNCTURE
不妊治療と鍼灸
不妊治療では、検査、タイミング法、人工授精、採卵、胚移植など、治療段階によって身体的・心理的な負担が変化します。使用する薬剤や通院回数が増えることで、睡眠の問題、頭痛、首肩の緊張、腰痛、胃腸症状、疲労感などが重なることも少なくありません。
当院では、鍼灸を不妊治療に代わるものではなく、医療機関で行われる検査や生殖医療を補完する治療の一つとして位置づけています。
不妊治療における鍼灸の位置づけ
妊娠の成立には、年齢、卵巣機能、精子所見、卵管や子宮の状態、胚の発生や染色体の状態、基礎疾患など、さまざまな要因が関係します。
鍼灸によって、これらすべての要因を変化させられるわけではありません。また、鍼灸師は不妊原因の診断や、生殖医療における治療方針の決定を行いません。
当院では、次の3点を基本方針としています。
1
生殖医療を優先する
必要な検査や治療を遅らせることなく、医療機関での診療を継続しながら鍼灸を併用します。
2
治療段階を確認する
不妊治療の内容、使用している薬剤、採卵や胚移植の日程を確認し、その時点で負担となっている身体症状に対しても施術します。
3
結果を保証しない
採卵数、卵子や胚の状態、妊娠率、生児出生率などは、多くの要因から影響を受けます。過度な期待を持たせたりする説明は行いません。
不妊検査・タイミング法
月経周期、婦人科での検査結果、排卵の確認方法などを伺います。
月経痛、頭痛、睡眠の問題、胃腸症状、首肩の緊張などがある場合には、それぞれの症状と月経周期との関係を確認しながら施術します。
人工授精周期
排卵誘発の有無、人工授精の予定日、使用している薬剤などを確認します。
人工授精の実施日に合わせることだけを目的とするのではなく、月経周期を通じて現れている身体症状や、治療に伴う負担を確認して治療計画を立てます。
採卵周期
卵巣刺激法、使用している薬剤、卵胞発育の状況、採卵予定日などを確認します。
採卵数や「卵子の質」の改善を目指し、採卵周期に伴う身体的な負担や緊張に対する補完的な治療として鍼灸を行います。
胚移植周期
自然周期、排卵誘発周期、ホルモン補充周期など、胚移植の方法や日程を確認します。
胚移植前後の鍼灸については複数の研究がありますが、妊娠率や生児出生率に対する結果は一貫していません。
当院では胚移植日に鍼灸を受けることを推奨しています。
※ 体調、移動時間、通院による負担などを考慮して検討します。
当院のIVF臨床データ
当院では、体外受精と鍼灸を併用した方の治療経過について、臨床データを集積しています。
ただし、当院のデータは無作為化比較試験ではありません。年齢、不妊原因、卵巣機能、使用薬剤、治療施設、過去の治療歴などの背景因子を完全に調整することはできません。
鍼灸は不妊・妊活に効果があるのか
不妊治療と鍼灸に関する研究は増加していますが、結果は一貫していません。特に、偽鍼などの対照群の設定や、臨床妊娠率・生児出生率といった評価項目によって、結果の解釈が異なります。
鍼灸単独で妊娠率を大きく改善する治療として確立しているわけではありません。現在報告されている研究とその限界について、詳しくは以下のページで解説しています。
不妊治療の基礎理解
鍼灸の位置づけを理解するためには、不妊治療そのものについて理解することが重要です。
人工授精、体外受精、採卵、胚培養、胚移植は、それぞれ目的や実施方法が異なります。治療の基本的な流れや注意点について、以下のページで解説しています。
人工授精と体外受精(IVF)の違い
人工授精と体外受精では、受精が行われる場所や治療の流れが異なります。それぞれの特徴や適応について解説しています。
採卵の流れと注意点
卵巣刺激から採卵までの一般的な流れと、採卵周期に確認しておきたい身体症状について解説しています。
胚培養の基本
採卵後の受精、初期胚、胚盤胞までの発育過程や、培養結果の基本的な見方について解説しています。
胚移植後の過ごし方
胚移植後の日常生活、運動、仕事、入浴などについて、現在の医学的な考え方を整理しています。
不妊治療と鍼灸に関するブログ
よくある質問
Q1.不妊症に鍼灸は効果がありますか? 不妊治療と鍼灸については多くの研究が行われていますが、妊娠率や生児出生率に対する結果は一貫していません。 一部の研究では良好な結果が報告されている一方、偽鍼と比較した大規模な研究では、生児出生率に明確な差が認められていません。そのため、鍼灸によって妊娠率や生児出生率が確実に高くなるとは断定できません。 当院では、鍼灸を不妊治療に代わるものではなく、医療機関で行われる検査や生殖医療を補完する治療として位置づけています。 現在の治療段階を確認しながら、睡眠の問題、頭痛、首肩の緊張、腰痛、胃腸症状、疲労感など、不妊治療中に生じている身体的な負担に対して施術を行います。
Q2.鍼灸はいつから始めるとよいですか? 鍼灸を開始する時期について、医学的に確立された基準はありません。 不妊検査、タイミング法、人工授精、採卵、胚移植など、どの段階からでもご相談いただけます。開始時期だけにこだわるのではなく、現在の治療内容や身体症状を確認し、無理のない治療計画を立てることが重要です。 ただし、年齢、不妊期間、月経の状態、これまでの治療歴などによっては、鍼灸を始めることよりも、医療機関での検査や生殖医療を優先すべき場合があります。 鍼灸を受けることで、必要な検査や治療開始の時期を遅らせることは推奨していません。
Q3.採卵周期に鍼灸を受けても問題ありませんか? 採卵周期でも鍼灸を受けることができます。 排卵誘発薬の使用によって卵巣が大きくなる場合があるため、使用している薬剤、卵胞発育の状況、腹部症状、採卵予定日などを確認し、施術部位や刺激量を調整します。 採卵数や卵子の状態を改善することを保証するものではなく、採卵周期に伴う身体症状や心身の緊張に対する補完的な治療として行います。 強い腹痛、著しい腹部膨満、吐き気・嘔吐、急激な体重増加、息苦しさなどがある場合は、卵巣過剰刺激症候群などの可能性もあります。鍼灸を受ける前に、不妊治療を受けている医療機関へ相談してください。
Q4.胚移植前後に鍼灸を受けた方がよいですか? 当院では、胚移植前後の鍼治療を推奨しています。 胚移植前は、その日の体調や心身の緊張を確認し、落ち着いて胚移植を受けられるように施術します。胚移植後は、身体の状態を確認しながら、負担の少ない刺激で治療を行います。 胚移植前後の鍼治療については、妊娠率や生児出生率の向上を示した研究がある一方、偽鍼と比較した研究では明確な差が認められなかった報告もあり、結果は一貫していません。 そのため、当院では胚移植前後の鍼治療を治療計画の一つとして推奨していますが、着床や妊娠成立を保証するものではありません。 実施する時間や回数については、胚移植の予定時刻、医療機関と鍼灸院との距離、移動による負担、その日の体調などを考慮して個別に調整します。 予定が合わず鍼治療を受けられなかった場合に、それだけで治療結果が不利になると考える必要はありません。
Q5.月経中でも鍼灸を受けられますか? 基本的には、月経中でも鍼灸を受けられます。 月経痛、腰痛、頭痛、吐き気、下痢、疲労感などがある場合には、症状が現れている時期に身体の状態を確認し、施術後の変化を評価することもできます。 月経中であることを理由に、施術を中止する必要はありません。ただし、体調や出血量に応じて、施術部位、体位、刺激量を調整します。 普段とは異なる強い腹痛、鎮痛薬を使用しても治まらない痛み、著しく多い出血、発熱、めまい、失神などがある場合は、鍼灸よりも婦人科での評価を優先してください。
Q6.妊娠後の鍼灸は、いつまで受けられますか? 妊娠経過が安定しており、産婦人科で通常の妊婦健診を受けている場合には、妊娠初期から後期まで鍼灸を受けることができます。 妊娠中は、妊娠週数、これまでの経過、既往歴、現在の症状などを確認し、施術する体位、治療部位、鍼の本数、刺激量、施術時間を調整します。 ・妊娠初期 妊娠初期は、出血、腹痛、つわりなどの有無を確認します。 当院では、継続的な体調管理が必要な方について、妊娠12週頃までは週1回程度を一つの目安とする場合があります。 ・妊娠中期 お腹が大きくなると、長時間仰向けになることで、気分不快、冷汗、めまいなどが生じることがあります。 当院では、体調を確認しながら仰向けでの施術時間を短くし、その後は左側臥位や上半身を起こした姿勢で施術します。必要に応じて、最初から横向きの姿勢で施術します。 ・妊娠後期 妊娠経過が安定していれば、妊娠後期も鍼灸を継続できます。 当院では、通常の体調管理を目的とする場合、妊娠36週頃を一つの区切りとしています。逆子、腰痛などの症状がある場合には、産婦人科での方針と妊娠経過を確認しながら、その後の施術について個別に検討します。 出血、強い腹痛、規則的な子宮収縮、破水が疑われる症状、胎動の減少などがある場合は、鍼灸院ではなく産婦人科へ連絡してください。
Q7.来院時に持参した方がよいものはありますか? 現在の治療状況や経過が分かる資料があると、初回の状態確認を行いやすくなります。ただし、以下のものをすべて用意する必要はありません。 ◎服装 首まわり、腹部、腰部、肘、膝などを確認しやすい服装でお越しください。 ・首まわりが大きく開いた肌着 ・肘や膝を出しやすい服装 ・ゆとりのあるズボン ワンピース、補整下着、身体に密着したズボンなどは、施術部位を確認しにくい場合があります。 ◎基礎体温表・月経記録 すでに基礎体温や月経周期を記録している場合は、ご持参ください。 2周期以上の記録があると、月経周期と体調変化との関係を確認しやすくなります。 ただし、基礎体温だけで排卵の有無やホルモン状態を正確に判断することはできません。基礎体温を測定していない方に、新たな測定を必ずお願いするものではありません。 月経管理アプリを使用している場合は、記録画面を確認できるようにしていただくだけでも構いません。 ◎検査結果 直近の検査結果がある場合は、ご持参ください。 ・血液検査 ・AMHなどの卵巣予備能検査 ・超音波検査 ・精液検査 ・子宮卵管造影検査 ・採卵結果 ・受精・胚培養結果 検査結果は、鍼灸師が不妊原因を診断するためではなく、医療機関での評価や現在の治療段階を把握するために確認します。 AMHなどの卵巣予備能検査は、主として卵巣刺激に対する反応や採卵数を予測するための指標です。数値だけで卵子の状態や妊娠の可能性を判断できるものではありません。 ◎お薬手帳・治療スケジュール 排卵誘発薬、ホルモン剤、採卵予定日、胚移植予定日などが分かる資料がある場合は、ご持参ください。 治療スケジュールが分かる書類や、医療機関のアプリ画面などでも構いません。 薬剤の処方や変更は医師が行います。鍼灸を受けた後に体調の変化を感じた場合でも、自己判断で薬剤を中止したり、服用方法を変更したりしないでください。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
全日本鍼灸学会認定鍼灸師
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

