更年期障害とは|主な症状・治療と鍼灸の位置づけ
更年期には、月経周期や女性ホルモンの環境が大きく変化し、ほてり、発汗、寝汗、睡眠の問題、気分の変化、動悸、頭痛、肩こり、疲労感など、さまざまな症状が現れることがあります。
症状の現れ方や程度には大きな個人差があります。女性ホルモンの変化だけでなく、もともとの体質、これまでの病歴、睡眠、仕事や家庭環境、心理社会的なストレスなども関係するためです。
症状によって仕事や家事、睡眠、対人関係などに支障が生じている場合には、我慢を続けるのではなく、婦人科などの医療機関へ相談することが大切です。
更年期に関する執筆・掲載実績
当院では、更年期にみられる心身の変化について、臨床だけでなく、書籍や雑誌を通じた情報発信にも取り組んでいます。
『鍼灸で不調はよくなる!』を執筆
世界文化社から刊行された『鍼灸で不調はよくなる!』において、更年期にみられる「のぼせ・イライラ」の項目を担当しました。
更年期に起こりやすい身体の変化と、鍼灸ではどのように状態を捉えるのかについて、一般の方にも理解しやすい形で解説しています。
『家庭画報』に掲載されました
『家庭画報』の企画「新世代の鍼灸師に訊く」において、更年期に伴う気分の変化や心身の不調に対する鍼灸について取材を受けました。
症状だけを見るのではなく、睡眠、緊張、生活背景なども含めて状態を捉える、当院の臨床的な考え方をご紹介いただいています。
更年期にみられる主な症状
更年期の症状は多岐にわたり、複数の症状が同時に現れることも少なくありません。
更年期女性の50〜82% に何らかの症状がみられる(Obstet Gynecol, 2014)と報告されており、多くの女性が何らかの症状を自覚されています。

自律神経
動悸
息切れ
頭痛


代表的な症状


血管運動神経
ほてり
発汗
冷え
身体症状
肩こり
腰痛
関節痛
精神症状
憂うつ
イライラ
不安
泌尿生殖器
頻尿
尿漏れ
下腹部の張り感
なぜ更年期には多様な症状が現れるのか
卵巣機能と女性ホルモンの変化
更年期が近づくと卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌量が変動しながら、次第に低下していきます。
この時期は、単純にエストロゲンが一定の速度で減っていくわけではありません。月経周期によって大きく変動することがあり、症状にも波が生じます。
脳は卵巣に対してホルモンを分泌するよう指示を出しますが、卵巣が十分に反応しにくくなることで、脳と卵巣の間の調節機構も不安定になります。

体温調節機構の変化
ほてりや発汗には、視床下部にある体温調節機構の変化が関係すると考えられています。
更年期には、身体が快適と感じられる体温の範囲が狭くなり、わずかな体温上昇でも、皮膚血管の拡張や発汗が起こりやすくなります。
そのため、室温、衣服、緊張、飲酒、熱い飲み物、香辛料などが、ホットフラッシュのきっかけになることがあります。
睡眠・ストレス・生活背景の影響
更年期症状の程度は、女性ホルモンの変化だけでは決まりません。
睡眠不足、仕事や家庭での負担、人間関係、介護、経済的な問題、これまでの病歴、不安や抑うつ傾向などが重なることで、症状が強く感じられることがあります。
反対に、生活環境の調整や周囲の理解によって、症状による生活上の負担が軽くなる場合もあります。
「自律神経の乱れ」だけでは説明できません
更年期症状は、一般に「自律神経の乱れ」と説明されることがあります。
しかし、実際には女性ホルモンの変動、視床下部の体温調節、睡眠、情動、疼痛、生活背景などが複雑に関係しています。
「自律神経が乱れている」という一つの言葉だけで症状を説明すると、甲状腺疾患、貧血、心疾患、うつ病など、ほかの原因を見逃す可能性があります。
更年期症状に対する鍼灸の研究
更年期にみられる、ほてり、発汗、睡眠の問題、気分の変化などに対して、鍼灸がどの程度役立つかを調べた研究が行われています。
2019年の研究では、週1回、5週間の鍼治療によって、ほてり、発汗、睡眠、気分などの改善が報告されました。比較対象は治療を受けないグループであったため、鍼の刺激だけでなく、治療への期待や施術者との関わりなどが影響した可能性もあります。※1
2021年に17件の研究、合計1,123名をまとめた解析では、鍼通電がほてりを減らす可能性が示されました。ただし、治療方法や刺激量にはばらつきがあり、最適な方法はまだ明確になっていません。※2
更年期に伴う不眠についても、2025年のシステマティックレビューにおいて、鍼治療によって睡眠の質が改善する可能性が示されています。一方で、研究ごとの結果にはばらつきがあり、根拠の確実性は低度から中等度と評価されています。※3
現時点で分かっていること
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鍼灸を受けなかった場合と比べると、症状や生活の質が改善する可能性があります。
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鍼通電は、ほてりに対して有望な結果が報告されています。
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睡眠、頭痛、肩こり、疲労感などに役立つ可能性があります。
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比較用の鍼治療と比べた結果は一貫しておらず、効果の大きさには不確実性が残ります。※4
鍼灸は、更年期障害そのものを一括して治す方法ではなく、現在困っている症状を軽減し、日常生活を支えるための選択肢として位置づけられます。
鍼灸に期待される作用
更年期の症状は、単に女性ホルモンが減るだけでなく、自律神経・脳・内分泌(ホルモン)が複雑に関わって生じます。鍼灸は、こうした体の調整機構に多面的に働きかける可能性が報告されています。※5
参考文献
※1 Lund KS, Siersma V, Brodersen J, Waldorff FB. Efficacy of a standardised acupuncture approach for women with bothersome menopausal symptoms: a pragmatic randomised study in primary care(the ACOM study). BMJ Open. 2019;9. doi:10.1136/bmjopen-2018-023637.
※2 Li T, Zhang Y, Cheng Q, et al. Quantitative study on the efficacy of acupuncture in the treatment of menopausal hot flashes and its comparison with nonhormonal drugs. Menopause. 2021;28(5):564-572. doi:10.1097/GME.0000000000001767.
※3 Zhang X, Liu C, Qin S, et al. Acupuncture as an independent or adjuvant therapy to standard management for menopausal insomnia: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2025;20(2). doi:10.1371/journal.pone.0318562.
※4 The North American Menopause Society. The 2023 nonhormone therapy position statement of The North American Menopause Society. Menopause. 2023;30(6):573-590. doi:10.1097/GME.0000000000002200.
※5 Li YW, Li W, Wang ST, et al. The autonomic nervous system: a potential link to the efficacy of acupuncture. Front Neurosci. 2022;16:1038945. doi:10.3389/fnins.2022.1038945.
東洋医学からみた更年期
東洋医学では、更年期の不調を一つの病名として捉えるのではなく、ほてり、冷え、睡眠、気分、消化、疲労など、身体全体の状態から考えます。
同じ更年期症状でも、現れ方は一人ひとり異なります。
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ほてりや寝汗が強い
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冷えや疲労感が目立つ
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不眠や不安を伴う
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肩こりや頭痛が続く
鍼灸では、こうした症状の組み合わせや生活背景を確認しながら、治療方針を組み立てます。
女性の一生と生理的変化
― 『素問 上古天真論』より ―
更年期を東洋医学的に理解するうえで重要なのが、女性の一生における生理的変化です。
その代表的な記述が、中国医学の古典である『黄帝内経素問』の「上古天真論」にあります。
上古天真論では、女性の身体は七年ごとの節目を迎えながら、成長、月経、生殖、加齢へと変化していくと説明されています。
『素問 上古天真論』(※筆者解釈)
この時期は、現代医学におけるエストロゲン分泌低下の時期とほぼ一致しています。
つまり東洋医学的には、「腎の働きの低下」=「女性ホルモン環境の変化」と対応づけて考えることも可能です。
五臓六腑の視点からみる更年期と鍼灸治療
五臓六腑の視点から見る更年期
東洋医学では、更年期にみられる多様な症状を単一の臓器やホルモン異常としてではなく、五臓のバランスの乱れとして捉えます。
とくに関与が深いと考えられているのが、以下の臓です。
更年期では、これらの臓が単独で乱れるのではなく、相互に影響し合いながら崩れていくため、症状が多彩かつ個人差の大きい形で現れると考えられています。
更年期には、腎を中心とした身体の働きが徐々に変化し、次のような不調が現れると考えられてきました。
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ほてりや寝汗
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冷えや疲労感
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腰のだるさ
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頻尿
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睡眠の問題
ほてりや乾燥が目立つ場合
ほてり、寝汗、口や喉の乾燥、手足の熱感、不眠などが目立つ場合には、身体を潤し、熱を抑える働きが不足していると考えます。
東洋医学では、このような状態を腎陰虚などと表現します。
冷えや疲労が目立つ場合
手足の冷え、疲れやすさ、むくみ、腰のだるさ、頻尿などが目立つ場合には、身体を温め、活動を支える働きが低下していると考えます。
このような状態は、腎陽虚などと表現されます。
不眠や気分の変化を伴う場合
更年期には、イライラ、不安、気分の落ち込み、不眠、動悸などが重なることがあります。
東洋医学では、腎だけでなく、情動や緊張に関係する「肝」、睡眠や精神活動に関係する「心」などの状態も確認します。
また、仕事、家庭、介護、人間関係などの負担が症状に影響している場合には、身体の状態と生活背景の両方を考慮します。
同じ更年期でも治療は異なります
東洋医学では、「更年期だから特定の経穴を使う」という一律の治療は行いません。
主に次の点を確認し、その時点で負担となっている症状に合わせて、使用する経穴や刺激量を調整します。
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ほてりと冷えの程度
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睡眠の状態
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気分や緊張の変化
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疲労感や消化の状態
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頭痛、肩こり、腰痛などの痛み
◇ 代表的な治療の考え方と経穴例
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腎を補うツボ
(例:腎兪、太渓)
→ 加齢やホルモン変化による基盤の低下を支える
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陰を養うツボ
(例:三陰交、復溜)
→ ほてり・寝汗・不眠など、陰虚傾向への対応
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自律神経を整えるツボ
(例:内関、神門)
→ 動悸、不安、緊張、不眠への対応
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肝の気を流すツボ
(例:太衝、期門)
→ イライラ、情緒不安定、のぼせへの対応
これらを、体質・症状・生活背景・心理状態を踏まえて組み合わせ、その方に合った治療を行うのが東洋医学・鍼灸治療の特徴です。
さいごに
更年期症状に対する治療は、薬物療法だけでなく、鍼灸などの非薬物療法を含めて検討することが重要です。症状の程度や生活背景に応じて、適切な方法を選択することが求められます。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
全日本鍼灸学会認定鍼灸師
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。


