鍼灸の医療連携|医師と鍼灸師をつなぐ取り組み
当院では、医師による診断や治療方針を踏まえ、鍼灸が担える役割を検討しながら、患者さんの症状や日常生活の困りごとに向き合います。
このページでは、医師と鍼灸師が協力する「医鍼連携」の考え方、当院の活動、紹介状・施術報告書を通じた情報共有についてご紹介します。
鍼灸における医療連携とは
医鍼連携とは、医師と鍼灸師がそれぞれの専門性を理解し、患者さんの状態や治療方針を共有しながら支援する取り組みです。
鍼灸を取り入れる目的や注意点を確認し、施術後の変化を共有することで、継続や方針の見直しを検討しやすくなります。また、医学的な評価が必要と考えられる場合に、医療機関への受診につなげることも重要な役割です。
1. HARI×MED|医師と鍼灸師が学び合う取り組み
HARI×MED(ハリメド)は、医師が運営する、鍼灸と医療をつなぐプラットフォームです。医師と鍼灸師が学び合うセミナーや、地域の鍼灸院を探せるマップなどを通じて、相互理解と連携を進めています。
当院もこの活動に関わり、勉強会や情報発信を通じて、鍼灸をどのような場面で活用できるか、安全に連携するために何を共有すべきかを考えています。

2. APNET|精神科・心療内科領域の医鍼連携
精神科・心療内科に通院する方のなかには、治療を続けながら、身体の不調や生活上の困りごとを抱えている方もいます。
当院では、精神科医と鍼灸師の連携に関わるAPNETの取り組みを紹介しています。精神科医療の治療方針を尊重しながら、鍼灸による支援の可能性と限界について理解を深めることを大切にしています。

3. 地域の開業医との連携|診断・治療経過を踏まえた鍼灸
当院では、地域の耳鼻咽喉科・消化器内科の医師との連携に取り組んでいます。医学的な診断や検査結果、治療経過を踏まえ、鍼灸を行う目的と注意点を検討しています。
治療後も症状が残る場合や、日常生活への支障が続く場合には、現在の治療を踏まえて鍼灸で支援できることを考えます。新たな症状や経過の変化がある場合には、医学的な再評価の必要性も検討します。
4. 紹介状・施術報告書による情報共有
病院との「病鍼連携」、診療所との「診鍼連携」、鍼灸師同士の「鍼鍼連携」を支えるため、文書作成に役立つ資料を公開しています。患者さんの同意のもと、紹介の目的や経過、注意点を共有するためにご活用ください。
(1)医師 ➝ 鍼灸師
(2)鍼灸師 ➝ 医師
(3)鍼灸師 ➝ 鍼灸師
※ 鍼灸師のためのカルテの記載練習
地域医療における鍼灸師の役割
鍼灸師には、不調や痛みへのケアにとどまらず、必要に応じた医療との連携、健康維持・予防、そして地域ケアへの貢献まで。鍼灸師が地域医療の中でどのような役割を担うことができるのかを、常に問い続けています。
紹介先となる鍼灸院の選び方
鍼灸院への紹介を検討するときには、対応する領域に加え、安全性への配慮、説明の分かりやすさ、医療機関との情報共有に対する姿勢なども確認したい点です。
患者さんや医療関係者の方に向けて、鍼灸院を選ぶ際の判断材料をまとめています。
どのような場合に鍼灸院への紹介を検討するのか
鍼灸院への紹介は、疾患名だけで判断するものではありません。医学的な評価と治療経過、患者さんが抱えている症状や生活上の支障、鍼灸に期待する役割を踏まえて検討します。
1. 臨床研究や診療ガイドラインで鍼灸が検討されている場合
鍼治療は、疼痛を中心に、頭痛、がん治療に伴う症状、消化器症状、呼吸器・アレルギー症状、泌尿器症状などを対象とした臨床研究が行われています。
医師から鍼灸院への紹介を検討する際には、疾患名だけでなく、鍼灸によって改善を目指す症状、現在の治療との役割分担などを確認することが大切です。
比較的、科学的根拠が整理されている症状
慢性腰痛・頸部痛
疼痛の軽減や身体機能の改善を目的として検討されます。慢性腰痛については、複数の診療ガイドラインで非薬物療法の選択肢として取り上げられています。
変形性膝関節症に伴う痛み
疼痛や身体機能に対する研究が多い領域です。運動療法や薬物療法などを継続しながら、補完的な介入として検討します。
片頭痛・緊張型頭痛
主に頭痛の発症頻度を減らすことを目的として検討されます。紹介時には、頭痛の診断、頭痛日数、使用薬、生活への影響を共有します。
術後痛
手術後の疼痛や鎮痛薬使用量の軽減を目的とした研究があります。手術内容や創部、感染リスク、抗凝固薬の使用状況などを確認する必要があります。
がんおよびがん治療に伴う痛み
がんに伴う痛み、筋骨格系疼痛、乳がんのアロマターゼ阻害薬に伴う関節痛などが対象です。SIO–ASCOガイドラインでは、アロマターゼ阻害薬関連関節痛に対して鍼治療が推奨されています。
化学療法や手術に伴う悪心・嘔吐
悪心・嘔吐の軽減を目的として、鍼治療や経穴刺激が研究されています。現在の制吐療法を補完する方法として検討します。
アレルギー性鼻炎
鼻閉、鼻汁、くしゃみなどの鼻症状や薬剤使用量に対する研究があります。米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の診療ガイドラインでは、非薬物療法を希望する患者に提示できる選択肢の一つとされています。
女性の腹圧性尿失禁
咳や運動などに伴う尿漏れを対象として、鍼通電刺激による比較試験が行われています。泌尿器科・婦人科的な評価を踏まえて検討します。
有効性を示唆する研究がある症状
以下の症状にも改善を報告した臨床研究があります。ただし、研究数、研究の質、偽鍼との比較、ガイドラインでの推奨は対象によって異なります。
線維筋痛症
疼痛や生活の質に対する改善を示した研究がありますが、根拠の確実性は低~中等度と評価されています。
筋・筋膜性疼痛
筋や筋膜に由来する疼痛に対して研究されています。特にトリガーポイントへの刺鍼を検討した研究がありますが、研究規模は限られています。
坐骨神経痛
疼痛や下肢症状の改善を報告した研究がありますが、研究の質には限界があります。原因疾患や神経学的所見を確認したうえで検討します。
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群
骨盤部の痛みや排尿症状に対する研究があります。感染症、悪性疾患、泌尿器疾患などの評価を踏まえる必要があります。
機能性ディスペプシア
食後のもたれ、早期満腹感、心窩部痛などを対象とした臨床試験があります。特に食後愁訴症候群(PDS)に対する比較試験で、症状改善が報告されています。
慢性重症機能性便秘
排便回数などに対する鍼通電刺激の大規模比較試験があります。便秘の原因、警告症状、薬物療法の経過を確認して検討します。
過敏性腸症候群(IBS)
通常診療への追加による改善を示した研究がある一方、偽鍼と比較して明確な優越性を示していないシステマティックレビューもあります。標準的な治療を補完する選択肢として慎重に検討します。
COPDに伴う労作時呼吸困難
標準治療に鍼治療を追加し、呼吸困難や運動耐容能、生活の質を評価した研究があります。診断と標準治療を前提として検討します。
気管支喘息に伴う症状
症状や生活の質の改善を報告した研究がありますが、肺機能の改善は明確ではありません。喘息治療を継続しながら、補完的な介入として検討します。
がん関連倦怠感
がん治療中または治療後の倦怠感に対する研究があり、一部のガイドラインで選択肢として取り上げられています。貧血、感染症、内分泌障害、睡眠障害などの原因評価が必要です。
化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)
しびれ、痛み、感覚障害などに対する臨床試験が増えています。国内でも多施設共同ランダム化比較試験が行われていますが、標準的な治療として確立した段階ではありません。
がん治療に伴う口腔乾燥
放射線治療などに伴う口腔乾燥を対象とした研究があります。原因や唾液腺機能、口腔内の状態を確認したうえで検討します。
抑うつ症状
通常治療への追加による症状改善を示唆する研究がありますが、研究の質にはばらつきがあります。精神科・心療内科での診断と治療方針を維持しながら、補完的な介入として検討します。
不眠症状
睡眠の質に対する改善を報告した研究がありますが、研究方法や対照群の設定に課題があり、根拠の確実性は限定的です。身体疾患、精神疾患、睡眠時無呼吸、薬剤などの評価が必要です。
更年期に伴うホットフラッシュ
無治療と比較して改善を示した研究がありますが、偽鍼との差は明確ではありません。北米閉経学会の2023年声明では、血管運動神経症状に対する治療として推奨されていません。
現時点で有効性を積極的に示しにくい対象
耳鳴り、不妊治療における妊娠・出生率の向上、手根管症候群、禁煙などにも鍼治療が研究されていますが、現時点では有効性が一貫して支持されているとはいえません。
これらを目的として紹介する場合は、医学的な評価や標準治療が遅れないようにする必要があります。
2. 医学的な評価や治療後も症状が残っている場合
検査や治療を受けても症状が残り、日常生活への支障が続いている場合には、症状緩和や生活機能の改善を目的として鍼灸院への紹介を検討します。
画像検査や血液検査で症状を十分に説明できない場合もありますが、「異常が見つからない」という理由だけで鍼灸の適応が決まるわけではありません。これまでに行われた医学的評価、除外された疾患、今後注意すべき変化を共有することが重要です。
鍼灸に期待する役割としては、疼痛や身体症状の緩和、活動性の維持、睡眠や食事への影響の軽減、生活の質(QOL)の改善などが考えられます。
新たな症状や経過の変化が認められた場合には、鍼灸師から医師へ報告し、再評価につなげます。
3. 漢方薬が使用しにくい、または効果が十分でない場合
副作用や服薬上の問題によって漢方薬を使用しにくい場合や、漢方薬を使用しても対象症状の改善が十分でない場合には、非薬物療法の一つとして鍼灸を検討することがあります。
漢方薬の効果が十分でなかったことから、鍼灸の効果を予測できるわけではありません。紹介時には、対象となる症状、漢方薬の処方内容、治療期間、効果と副作用などを共有します。
漢方薬と鍼灸を併用する場合も、改善を目指す症状を明確にし、それぞれの治療による変化を確認します。
4. 薬物療法に制約がある、または効果が十分でない場合
内服が困難な場合、副作用が問題となる場合、腎機能障害などによって薬剤選択が制限される場合、薬物療法を続けても症状が残る場合には、非薬物療法を含めた支援を検討します。
鍼灸院への紹介に際しては、主治医の治療方針、併存疾患、服薬内容、抗凝固薬・抗血小板薬の使用、感染や出血に関する注意点などを共有します。
薬物療法を中止・変更する目的ではなく、現在の治療と役割を分担しながら、症状や生活上の支障の軽減を目指します。
5. 患者さんが鍼灸を希望している場合
患者さん自身が鍼灸を希望していることも、紹介を検討する理由の一つです。
国内医療ガイドラインにおける鍼灸
森ノ宮医療大学 鍼灸情報センター(MUMSAIC)の紹介情報によると、国内の診療ガイドライン19件以上に鍼灸に関する記載があり、推奨総数28件のうち18件が肯定的な推奨とされています。
ただし、推奨の強さや対象となる症状はそれぞれ異なります。紹介や施術の判断には、各ガイドラインの内容を確認する必要があります。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
全日本鍼灸学会認定鍼灸師
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

