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鍼灸のエビデンス|近年明らかになってきた作用機序と科学的根拠

Essence|このページの要点

  • 鍼灸とは、身体に現れる反応点(ツボ)を介して、神経・免疫・内分泌のネットワークに働きかけることで、全身の調整を引き出す治療法です。

  • 従来は経験的に語られてきた「なんとなく効く」という体感は、近年、神経原性炎症スポット、体性―内臓反射、迷走神経―副腎軸、抗炎症作用、脳機能変化、自律神経調整作用といった観点から説明されつつあります。

  • 鍼灸は、経験知と科学的知見が重なりつつある発展途上の医療であり、個々の病態に応じて適切に用いることで効果を発揮する可能性をもつ治療と位置づけられます。

鍼灸って、なんかいいよね。

鍼灸を受けたあとに、「なんだか身体が軽い」「気持ちが落ち着く」「眠くなった」と感じる方がいます。

こうした感覚は昔から臨床のなかで経験されてきましたが、では、なぜ身体に鍼をすることで変化が起こるのでしょうか。

また、お腹の症状に足のツボを使ったり、痛みがある場所とは離れたところに鍼をしたりすることには、どのような意味があるのでしょうか。

近年では、神経科学、生理学、免疫学、脳画像研究などによって、鍼刺激を身体がどのように受け取り、その情報がどのように伝わっていくのかが少しずつ調べられています。

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「鍼灸って、なんかいいよね。」という“体感”には、実は現代科学でも少しずつ解明されつつある根拠があります。

 

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また、鍼灸でツボを刺激すると身体が楽になるのかについて、近年の研究をもとにメディアでも紹介されています。このページで取り上げているツボ刺激と神経系の関係や、鍼灸の作用機序を考えるうえでも参考になる内容です。

鍼とお灸、そしてツボ

私たち鍼灸師が用いる治療法は、「鍼」と「お灸」です。
いずれも経穴(ツボ)に刺激を与えることで、からだが本来もつ回復力(自然治癒力)を引き出すことを目的としています。

「ツボって何だろう?」
「なぜ、そこに刺激をすると効くのだろう?」

その疑問は、近年の研究によって少しずつ科学的に説明されてきています

Q:ツボ(経穴)とは何でしょうか?

ツボというと、「身体に点在する特別な場所」というイメージを持つ方もいるかもしれません。ただ、身体を解剖すると、「ここがツボです」と分かる特別な器官が見つかるわけではありません。

一方で、経穴と感覚神経、血管、筋肉、結合組織などとの関係は、これまでさまざまな角度から研究されてきました。

​ツボは「身体の変化が現れやすいポイント」

興味深い研究の一つが、2017年にScientific Reportsに掲載された動物研究です[1]。

この研究では、高血圧や大腸炎の状態にしたラットの皮膚を調べたところ、「神経原性炎症」と呼ばれる反応が特定の場所に現れました。

確認された192か所の神経原性炎症スポットのうち、134か所、約70%が、動物に置き換えた伝統的な経穴の位置と一致していました。

さらに、その場所は刺激に対して過敏になっており、そこへ刺激を加えることで病態を示す指標にも変化がみられました[1]。

 つまりツボとは、経験則だけのものではなく、「体の変化が表に現れやすい場所=治療点」であると考えられます。

 また、ツボは少し位置がずれるだけでも効果が出にくくなることが報告されており、正確な位置への刺激が重要であることも分かっています。

神経原性炎症スポット

Q:ツボは、なぜ効くのですか?

ツボを刺激すると、身体が自ら回復しようとする反応が引き起こされます。
近年の研究により、その仕組みが神経・内分泌・免疫の連動として説明されつつあります。

ツボ刺激と「迷走神経―副腎軸」による抗炎症作用

その代表的な研究が、2021年にNature誌に掲載されたLiuらの研究です[2]。

マウスの足三里(ST36)付近に弱い鍼通電鍼刺激を行ったところ、感覚神経から脳幹へ情報が伝わり、迷走神経を介して副腎へとつながる反応が確認されました。

  1. 特定のツボを刺激すると、迷走神経―副腎軸が活性化される

  2. その結果、全身の炎症反応が鎮まりやすくなる

  3. 特に足三里への刺激で、全身性の抗炎症反応が起こることが示された

この反応には、PROKR2という分子を発現する感覚神経が関係していました。

興味深いのは、同じような弱い刺激を腹部の天枢(ST25)周辺に行っても、足三里と同じ反応は起こらなかったことです[2]。

つまり、「どこを刺激しても同じ」というわけではなさそうです。

何が分かったのでしょうか?

この研究の面白いところは、身体の場所によって分布している感覚神経が異なり、それによって起こる自律神経反射も違う可能性を示したことです。

 

鍼灸では昔から「どこに鍼をするか」を大切にしてきました。

その理由の一部を、神経の分布から説明できる可能性が出てきたわけです。この研究は Natureにも掲載され、鍼灸の作用機序を示す重要な科学的根拠として世界的に注目されています。

神経原性炎症スポット

鍼治療は、免疫にも働きかける?

鍼をすると、その場所では神経だけでなく、血管や免疫細胞などにも変化が起こります。

最近では、こうした局所の変化が、神経系を介して離れた場所の炎症反応にも関係するのではないか、という研究も進んでいます。

鍼刺激は「局所」から「全身」へ波及する

2023年にFrontiers in Neurologyに掲載されたレビューでは、主に動物研究をもとに、炎症がある状態で鍼刺激を行ったときの局所と全身の変化が整理されています[3]。

  1. 鍼刺激により、局所の免疫細胞が活性化される

  2. その反応が、迷走神経・交感神経を介して中枢神経へ伝達される

  3. 結果として、全身の免疫システムに調整作用が及ぶことが示された

つまり鍼治療は、局所刺激でありながら、全身の免疫バランスを整える可能性をもつ治療法と考えられています。

どのような疾患に関係するのか?

このメカニズムは、

  • アトピー性皮膚炎

  • 気管支喘息

  • 自己免疫疾患

  • 慢性炎症性疾患

など、「免疫の乱れ」が関与する疾患への応用につながる重要な示唆を含んでいます。

鍼治療は、神経・免疫・内分泌が連動するネットワークを介して、全身レベルの抗炎症・免疫調整作用を引き出す可能性を持つ治療法として、現代科学の視点からも注目されています。

免疫 鍼灸

Q:結局、ツボとは何なのでしょうか?

ここまで読んでも、「で、結局ツボって何なの?」という疑問は残ります。昔の鍼灸師は、ツボを「身体が教えてくれる反応点」として捉えてきましたが、実際のところ、まだはっきりとした答えはありません。

ただ、ツボは身体の状態によって反応が変わる場所として捉える考え方があります。近年、現代科学はこの直感的・経験的な知を、神経科学・免疫学の視点から再構築しはじめています。

ツボは“固定されているわけではない”

2022年にFrontiers in Neuroscienceに掲載されたレビューでは、「経穴感作(acupoint sensitization)」という考え方が整理されています[4]。

炎症や内臓の異常などが起こると、皮膚にあるC線維などの感覚神経が刺激に敏感になることがあります。

すると、普段はそれほど気にならなかった場所が、押すと痛い、刺激すると強く感じる、といった状態になる可能性があります。

鍼灸の臨床でも、同じツボを触っているのに、患者さんによって圧痛があったり、何も感じなかったりすることがあります。

また、同じ患者さんでも体調によって反応が変わります。

こうした現象の一部を、感覚神経の「感作」という仕組みから説明できるのではないか、と研究されています[4]。

  1. ツボは常に同じ場所に固定されているわけではない

  2. ツボの出現には、皮膚のC線維侵害受容器(Cutaneous C-nociceptors)が深く関与する

  3. 病態によって感作されたツボは、治療点としての反応性が高まる

 つまり、身体の異常がツボを“生み出し”、そのツボを適切に刺激することで、異常が整っていく──こうした双方向の働きがあると考えられています。

東洋医学と現代科学の接点

昔の鍼灸師は、教科書に書かれた位置だけを見て鍼をしていたわけではありません。

身体を触り、硬さや痛み、熱感などを確かめながら治療点を探してきました。そして、鍼灸師は、その反応点を見極め、正確に刺激することで、身体の回復力を引き出す。ツボとは、決まった点ではなく、「身体が発するサイン」そのものなのです。

IBS 鍼灸

Q:なぜ、ツボに鍼を刺すと効果があるの?

鍼灸では、お腹の症状に対して腹部や手足のツボを使うことがあります。

では、皮膚や筋肉への刺激と、内臓はどのようにつながっているのでしょうか。

その一つの手がかりになるのが、「体性―内臓反射」です。

身体の表面から入った刺激が感覚神経を通って脊髄へ入り、そこから自律神経などを介して内臓の働きに影響することがあります。

天枢(ST25)と結腸の神経学的なつながり

2022年には、IBSモデルラットを使って、腹部にある天枢(ST25)と結腸との関係を調べた研究が報告されています[5]。 過敏性腸症候群(IBS)を対象にした基礎研究では、次のようなことがわかりました。

  1. 天枢(ST25)への鍼刺激により、IBSモデルラットの腸症状が軽減

  2. ST25への刺激が、結腸の機能に影響していた

  3. ST25と結腸は、同じ脊髄レベル(胸腰髄)で神経的につながっていた

ツボ刺激で何が起こるのか?

 天枢を鍼で刺激すると──

  • ✅ 刺激が脊髄を介して内臓へ伝わる

  • ✅ 内臓の働きが神経反射によって調整される

 この仕組みは、「体性-内臓反射」と呼ばれています。

 

 つまりツボは、体表から内臓機能に働きかけるための神経ルートなのです。

伝統的な経験に、科学的な裏づけが加わった

 天枢(ST25)は、IBS・便秘・下痢などの治療で古くから使われてきたツボです。

 今回の研究は、こうした伝統的な臨床経験が、神経科学的にも妥当であることを示しました。

IBS 鍼灸

伝統と現代科学の融合。

 「鍼って、なんかいいよね」
 言葉にはしにくいけれど、確かに感じるこの“実感”を、昔の鍼灸師たちはとても大切にしてきました。

身体が教えてくれるツボ選び

 たとえば不眠の患者さんを診るとき。

  • 百会・神門・三陰交に反応が出やすい

  • 触れると硬い・冷たい・圧痛がある

  • その反応を手がかりにツボを選ぶ

 

 こうした身体のサインを読み取る臨床経験が積み重なり、「不眠にはこの配穴が使われる」という伝統的なツボの組み合わせが形づくられてきました。

経験知は、いま科学で裏づけられつつある

 近年、fMRI(機能的MRI)などの脳科学研究により、かつての“経験則”が科学的にも意味のある選択だったことが少しずつ明らかになってきています。

鍼治療と脳機能

2023年には、不眠症患者を対象として、鍼治療前後の脳機能をfMRIで調べた研究が報告されています[6]。

この研究では、実際の鍼治療と偽鍼を比較し、4週間の治療前後で睡眠の状態と脳の機能的結合を調べました。

鍼治療には、百会、神庭、本神、四神聡、三陰交、内関、神門などが使われています。

その結果、実鍼群では睡眠に関する評価に改善がみられ、青斑核と島皮質、縁上回などとの機能的結合にも偽鍼群とは異なる変化が認められました[6]。

  1. 鍼灸の効果は、主観的な感覚だけでなく客観的指標でも確認

  2. 脳の特定領域で、機能的結合性の変化が生じる

  3. 伝統的配穴の効果が、脳機能レベルで裏づけられた

つまり、古くから「不眠に効く」とされてきたツボの組み合わせは、脳ネットワークの変化としても確認されたということです。

「なんとなく効く」から「なぜ効く」へ

この研究では、青斑核と縁上回という脳領域のネットワークが、鍼灸によって再構築されることが示されました。これは、鍼灸が「気のせい」や「雰囲気」ではなく、脳の働きそのものに作用していることを示す重要な知見です。

不眠 鍼灸
鍼灸 fMRI
鍼灸 fMRI
鍼灸 不眠

まとめ|鍼灸って、いいよね。

1.ツボは「身体の状態」を映すポイント

かつては経験的に使われてきたツボ。近年の研究では、不調があると皮膚に神経原性炎症スポットが現れやすく、その約 70%が伝統的な経穴と一致することが示されています[1]。

経穴の感作についても研究が進んでおり、身体の状態によって「反応しやすい場所」が変わる可能性があります[4]。ツボ=身体の異常を反映して“現れる”機能的な治療点──そう理解されつつあります。

2.ツボ刺激は、局所にとどまらない

ツボへの刺激は、末梢神経 → 脊髄 → 内臓・中枢神経へと伝わり、全身の機能に影響します。これは体性-内臓反射と呼ばれる生理学的反応です。

  • 足三里刺激 → 迷走神経-副腎軸を介した抗炎症作用[2]

  • 天枢(ST25)刺激 → 結腸機能(IBSモデル)の調整[5]

  • 鍼刺激 → 脳機能(fMRI)変化と不眠症状の改善[6]

 

3.「ツボが出る」=感覚神経の可塑性

病態が生じると、皮膚のC線維(感覚神経)が感作され、特定部位が反応点として浮かび上がります。

その反応点を刺激すると、通常より大きな神経反応が起こりやすくなる。

これが、「病気のときに〇〇のツボが効く」とされてきた経験知の科学的背景です。

4.「なんとなく効く」から「仕組みがわかる」へ

かつて感覚的に使われてきた鍼灸の知恵は、いま、神経・免疫・中枢系レベルで説明され始めています。もちろん、鍼灸についてすべてが分かったわけではありません。まだ分からないことはたくさんあります。それでも、これまで鍼灸師が臨床のなかで経験してきた現象について、神経科学や生理学の立場から考えられることは増えてきました。

 

鍼灸は、経験と科学が重なり合う医療へ。

 

これからの研究の進展が、さらに期待されています。

引用・参考文献

  1. Kim DH, Ryu Y, Hahm DH, et al. Acupuncture points can be identified as cutaneous neurogenic inflammatory spots. Scientific Reports. 2017;7:15214. doi:10.1038/s41598-017-14359-z.

  2. Liu S, Wang Z, Su Y, et al. A neuroanatomical basis for electroacupuncture to drive the vagal-adrenal axis. Nature. 2021;598:641-645. doi:10.1038/s41586-021-04001-4.

  3. Yu WL, Park JY, Park HJ, Kim SN. Changes of local microenvironment and systemic immunity after acupuncture stimulation during inflammation: A literature review of animal studies. Frontiers in Neurology. 2023;13:1086195. doi:10.3389/fneur.2022.1086195.

  4. Cui X, Liu K, Gao X, Zhu B. Advancing the Understanding of Acupoint Sensitization and Plasticity Through Cutaneous C-Nociceptors. Frontiers in Neuroscience. 2022;16:822436. doi:10.3389/fnins.2022.822436.

  5. Zhang L, Yu C, Chen B, et al. Modulation of colonic function in irritable bowel syndrome rats by electroacupuncture at ST25 and the neurobiological links between ST25 and the colon. Frontiers in Neuroscience. 2022;16:930489. doi:10.3389/fnins.2022.930489.

  6. Chen Z, Jiang T, Yin X, et al. The increased functional connectivity between the locus coeruleus and supramarginal gyrus in insomnia disorder with acupuncture modulation. Frontiers in Neuroscience. 2023;17:1131916. doi:10.3389/fnins.2023.1131916.

※このページでは、鍼灸の作用機序を紹介するため、動物を対象とした基礎研究と、人を対象とした研究の両方を取り上げています。動物実験で確認された仕組みが、そのまま人における治療効果を示すものではありません。

​このページを書いた人

PROFILE

監修

鍼灸師 松浦知史

全日本鍼灸学会認定鍼灸師

東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

松浦知史
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