不眠症に対する鍼治療
睡眠の質と日中の生活への影響、科学的根拠から考える
不眠症は、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなど、睡眠に関する問題が続く病気です。睡眠の問題は夜間だけにとどまらず、日中の疲労感や集中力の低下、気分の落ち込みなど、日常生活にも影響します。
不眠症とは
不眠症は、眠る機会や環境が確保されているにもかかわらず、睡眠に問題が生じ、それによって日中の生活にも支障が出ている状態です。
主な症状は次のとおりです。
睡眠に対する満足度は、単純な睡眠時間だけでは決まりません。例えば、一定の睡眠時間を確保できていても、翌日に強い疲労感が残る場合があります。
そのため、不眠症の評価では、睡眠時間・睡眠の質・日中の生活への影響を総合的に確認する必要があります。
不眠症の原因と治療
不眠症には、ストレスや生活習慣に加え、身体疾患や精神疾患、ほかの睡眠障害などが関係することがあります。
例えば、うつ病や不安症、慢性疼痛、更年期に伴う症状などによって睡眠が妨げられる場合があります。また、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、不眠とは異なる睡眠障害が背景にあることもあります。
厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』では、睡眠環境や生活習慣を見直しても症状が持続し、日常生活に影響する場合には、医療機関への相談を勧めています。
不眠症に鍼治療は有効なのか
不眠症に対する鍼治療については、ランダム化比較試験(RCT)やシステマティックレビューが報告されています。
研究では、睡眠の質、寝つくまでの時間、夜間の覚醒、睡眠時間、日中の眠気などが評価されてきました。
主な臨床研究とその結果
2025年のメタ解析で示された結果
Yuらの研究では、偽鍼と比較した鍼治療群の変化として、次の結果が報告されています。
この研究では、睡眠の質や不眠重症度などの主観的指標に改善が認められました。ただし、総睡眠時間については偽鍼との統計学的に有意な差は認められず、客観的な指標では結果が一貫していませんでした。
鍼治療は睡眠にどのように作用するのか
鍼治療が睡眠に影響する仕組みについては、神経生理学や脳画像研究などから検討が進められています。
不眠症には、睡眠・覚醒を調節する神経系だけでなく、ストレス反応や情動に関係する脳の働きも関与すると考えられています。
鍼刺激についても、こうした神経系の活動に影響を与える可能性が研究されています。

鍼刺激による睡眠関連神経伝達物質への作用を示した模式図。基礎研究では、セロトニン(5-HT)、GABA、メラトニン(MT)などの調節が報告されています。
fMRIを用いた脳機能の研究
近年は、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、鍼治療前後の脳機能の変化を調べる研究も報告されています。
2024年にJiangらが報告した研究では、不眠症患者の情動に関係する脳ネットワークに着目し、鍼治療前後の機能的結合性が検討されました。
扁桃体や海馬、視床などの脳領域間の結合性の変化と、睡眠指標や不安症状の変化との関連が報告されています。

右扁桃体―左海馬の機能的結合性の変化は不安症状の変化と、左扁桃体―左視床の結合性の変化は睡眠効率の変化と相関していました。(Jiangら、2024)。

4週間の鍼治療前後における情動関連脳ネットワークの比較。扁桃体、海馬、視床、前頭前野などの機能的結合パターンに変化が認 められ、鍼刺激が睡眠や情動の調節に関わる脳機能へ影響する可能性が示唆されています(Jiangら、2024)。
当院における不眠症への鍼治療
当院では、睡眠の問題を単独で捉えるのではなく、身体の状態や生活背景、併存する症状も確認しながら施術を行います。
睡眠状態と身体症状の確認
初回の施術では、寝つくまでの時間、夜間の覚醒、起床時の状態などに加え、日中の疲労感や気分、活動への影響を確認します。
また、精神科・心療内科などへの通院状況、睡眠薬を含む服薬状況、慢性疼痛や更年期症状などの併存症状も重要な情報となります。
全身の状態を踏まえた施術
当院では、首や肩の緊張、痛み、疲労感なども含め、全身の状態に応じて施術部位や刺激量を調整します。
施術では仰向けとうつ伏せの姿勢を組み合わせ、必要な部位に鍼を行います。鍼を一定時間留めておく置鍼を基本とし、症状や身体の状態に応じて方法を選択します。
施術内容は一律ではなく、刺激への反応や施術後の体調も確認しながら調整します。
医療機関での治療との併用
不眠症にうつ病、不安症、慢性疼痛などが関係している場合には、背景にある疾患への対応も重要です。
当院では、医療機関での治療を継続しながら鍼治療を併用することも可能です。
なお、睡眠薬や精神科領域の薬剤について、鍼治療の開始を理由に自己判断で減量・中止することは避け、処方医に相談してください。
よくあるご質問
Q. 睡眠薬を服用していても鍼治療を受けられますか?
基本的には併用可能です。ただし、服薬内容や健康状態によって配慮が必要な場合があるため、初回に確認します。睡眠薬の変更や中止については処方医に相談してください。
Q. 鍼治療を受ければ睡眠薬を減らせますか?
鍼治療によって睡眠薬を減量できると保証することはできません。薬の減量が適切かどうかは、睡眠状態や原疾患の経過を踏まえ、処方医が判断します。
Q. 何回くらいで効果が現れますか?
施術への反応には個人差があり、一定の回数で効果を保証することはできません。睡眠の状態や日中の活動への影響を確認し、経過に応じて施術方針を見直します。
Q. うつ病や不安症に伴う不眠にも対応していますか?
対応しています。ただし、精神科・心療内科での治療が必要な場合には、その治療を優先・継続し、鍼治療は補完的な方法として検討します。
Q. 鍼治療に副作用はありますか?
刺入部の痛み、皮下出血、施術後の一時的なだるさなどが生じる場合があります。まれですが、感染や気胸などの重大な有害事象もあるため、安全管理と適切な施術方法が重要です。
ご予約・ご相談
高崎市の大慈松浦鍼灸院、東京都千代田区の神保町十河医院附属鍼灸院でご相談を受け付けています。
参考文献
1. 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.2023.厚生労働省
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このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
全日本鍼灸学会認定鍼灸師
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

