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地域における鍼灸師の役割
「鍼灸師」と聞くと、肩こりや腰痛に鍼やお灸をする人、そんなイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかし実際には、鍼灸師は地域医療の中で、もっと広い役割を担っています。
私は、地域における鍼灸師の役割は、大きく3つあると考えています。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

地域における鍼灸師の3つの役割
① 日常的によく遭遇する不調・健康問題を診る
鍼灸院には、痛みや不調、「病院に行くほどではないがつらい症状」など、日常生活に密接した悩みを抱える方が多く来院されます。
鍼灸師は、鍼灸が適している状態かどうか、医療機関での検査や治療が優先される状態ではないかという点も含めて、患者さんの状態を全体的に評価します。
検査に異常はないが
体調が優れない方

治療を受けたのに
症状が残っている方

現在の治療で十分な
効果が得られない方

現在の治療と併用して
治療効果を高めたい方

② 必要に応じて、適切な医療へつなぐ
症状の中には、医師による診断が必要なもの、画像検査や投薬が優先されるものも少なくありません。
その場合、鍼灸師は適切な医療機関への受診を勧める役割も有します。
早期に医療につなぐことで、結果的に患者さんの健康を守り、回復を早めることにもつながります。
③ 医療・福祉・保健と連携し、地域の健康を支える
鍼灸師は、地域の中で医療・福祉・保健と連携しながら活動することができます。
慢性的な不調、加齢に伴う症状、生活背景を含めた健康課題に対して、身近な相談先として継続的に関わる存在であることも、鍼灸師の特徴です。
そのため、必要に応じて医師への紹介を行ったり、他職種と連携した対応を取ったりすることが欠かせません。
鍼灸師が地域で役割を果たしていくためには、医療・福祉・保健と連動した連携体制が重要です。
しかし現状では、鍼灸院を含めた連携システムは十分に確立されているとはいえません。この仕組みづくりは、今後の地域医療における大きな課題の一つとなっています。
医療連携の基盤となる研究と安全性
こうした連携体制を築いていくためには、鍼灸の有効性や安全性を科学的に示すこと、そしてその作用機序、すなわち体にどのように働くのかというメカニズムを明らかにしていくことが重要です。

図1. 鍼灸の文献数(2024年5月現在でPubMedで"Acupuncture"と検索)
鍼灸治療は、国内外の多くの臨床研究および系統的レビューにおいて、重篤な有害事象は稀であると評価されています。
しかし一方で、鍼灸治療はまったくリスクがないわけではありません。
近年の報告では、特定の状況下で有害事象が発生している例が確認されており、これらの事例は、鍼灸治療における安全管理の重要性を再認識させるものとなっています。
こうした報告は、稀であるとはいえ、鍼灸治療が侵襲的な処置であることを示しています。安全性を担保するためには、一定の知識、技術、臨床判断が不可欠です。
実際、過去15年ほどの間に、鍼灸に関するランダム化比較試験やシステマティックレビュー、メタアナリシスといった研究は着実に増えてきました。
さらに、ナショナルデータベースを用いた研究も進み、基礎研究の分野においても、鍼灸の作用機序が徐々に明らかになってきています。
現在では、鍼灸治療について一定の科学的説明が可能な段階に入りつつあります。こうした知見を積み重ねていくことが、医療との連携を進める土台になると考えています。
臨床能力の質的担保という課題
一方で、それらの知見を臨床で生かすために必要な、鍼灸師の臨床能力の質的担保は、まだ十分とはいえません。
卒後教育や研修制度を整えていくことは、鍼灸師が一定の水準で地域医療に貢献するために必要な条件の一つです。
こうした基盤が整ってこそ、医療・福祉・保健との本格的な連携が可能になると、私は考えています。
今後、必要なこと
今後の鍼灸において、重要な鍵となるのは医療連携であると考えています。
鍼灸師が地域医療の中で確かな役割を果たしていくためには、現代医学と東洋医学の双方に精通し、医師と連携できることが、一つの基準になっていくでしょう。
その上で、診療ガイドラインなどに準拠しながら、特定の疾患や症状に対して専門性の高い知識と臨床能力を備えた鍼灸師が、各分野で活躍していくことが期待されています。
幅広く対応するだけでなく、専門性をもって医療と接続できることが、今後ますます重要になります。
また、専門医に鍼灸治療の有効性を理解してもらうためには、単に「効果がある」という主張にとどまらず、どのように作用し、どの程度の効果があり、どのような症状や病態に対して有効なのかを、具体的に示していく必要があります。
こうした説明が積み重なることで、医療との共通言語が生まれ、連携の土台が築かれていくと考えています。
