胚培養とは?
―体外受精の中心となるプロセス
体外受精(IVF)は、生殖医療の代表的な治療法の一つです。
精子と卵子を体外で受精させ、育った胚を子宮に戻して妊娠を目指す治療です。
治療の流れは次のように進みます。
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採精
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採卵
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受精
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胚培養
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胚移植
この中で、ARTの成功率を左右する重要な工程が胚培養です。
培養室では胚培養士が胚を観察し、胚の管理と観察を行います。
日本におけるARTの現状
日本は世界でもARTが非常に多い国です。
日本産科婦人科学会(JSOG)ARTデータ 2021
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ART治療周期数:約49万周期
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出生児数:約69,797人
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日本の出生の約11.6人に1人がART出生
胚の発育
受精すると、父由来と母由来の染色体を持つ受精卵(胚)が形成されます。
受精確認(培養1日目)
受精の確認は、卵子の中に2つの前核(PN)が存在することで判断します。
その後、胚は次のように成長していきます。
現在は、胚盤胞まで培養して凍結保存し、後日移植する方法(凍結融解胚移植)が広く行われています。

良好胚とは何か
胚培養の目的は、妊娠につながる可能性の高い胚を選ぶことです。
しかし、見た目だけで妊娠を完全に予測することはできません。
そのため、胚培養士は顕微鏡で胚の状態を観察し、形態学的評価(グレード)を行います。
精子の評価
精子は次のような項目で評価されます。
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精液量
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精子数
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運動率
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形態
これらはWHOの基準が参考にされます。
また顕微授精では、より詳細な形態評価を行うことがあります(IMSI(強拡大顕微鏡による精子選択)という方法)。
卵子の成熟
卵子は卵巣内の卵胞で成長し、月経周期の中で成熟します。
月経周期は次のホルモンによって調整されています。
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エストロゲン(卵胞ホルモン)
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プロゲステロン(黄体ホルモン)
体外受精では、複数の卵子を得るために卵巣刺激を行い、複数の卵胞を成熟させて採卵します。受精には成熟卵子(受精可能な卵子はMII(第二減数分裂中期)の成熟卵子)であることが重要です。

顕微授精できない未熟な卵子
成熟した卵子
初期胚の評価(Veeck分類)
受精後2〜3日目の胚は、以下の要素で評価されます。
評価項目
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細胞数
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細胞の大きさの均一性
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フラグメント(細胞片)の量
一般にGrade1–2 → 良好胚とされます。
ただし形態評価は染色体正常性を直接反映するわけではありません。
胚盤胞評価(Gardner分類)
胚盤胞はGardner分類で評価されます。

評価要素は3つ
① 拡張度(1–6)
② 内部細胞塊(ICM)
③ 栄養外胚葉(TE)
例:4AA
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4:拡張胚盤胞
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A:内部細胞塊が良好
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A:栄養外胚葉が良好
一般的にAA > AB > BB > BCの順に良好とされ、臨床では AA・AB・BB程度の胚盤胞が移植候補 になることが多いとされています。
しかし近年の研究では、胚盤胞グレードだけでは妊娠転帰を十分に説明できないことが明らかになりつつあります。
胚評価の新しい技術
近年は以下の技術も導入されています。
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タイムラプス培養器:胚発育の動態解析
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AIによる胚評価:形態・発育速度の解析
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着床前遺伝学的検査(PGT):着床前染色体検査
※ PGTは流産反復・高齢など適応が限られています。
これらは、より妊娠の可能性が高い胚を選択するための補助的な技術です。
1. 胚盤胞グレードは今でも重要な指標
形態評価は現在でも臨床で有用な指標です。
PGT-A(着床前染色体検査)で染色体正常と確認された胚(euploid胚)のみを対象にした研究でも、形態評価と出生率には関連が認められています。
例:euploid胚451例の解析(Suzuki 2024)
2. しかし「良好胚=必ず妊娠」ではない
一方で、最近の研究は形態が良くても妊娠転帰を完全には予測できないことも示しています。
euploid胚単一移植1037周期の研究(Jiang 2025)
同じ 染色体正常胚(euploid) でも、母体年齢が高いほど出生率は低下しました。
つまり、AA胚でも流産する理由の一部は母体側の要因と考えられています。
関与すると考えられる因子
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子宮内膜受容能
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着床後の胎盤形成
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免疫環境
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加齢関連因子
3. 低グレード胚でも妊娠する理由
逆に、近年注目されているのが低グレード胚でも妊娠が成立する理由です。
形態評価は顕微鏡による静止画像評価ですが、胚の発育は本来動的なプロセスです。
最近の研究では、以下の要素が妊娠転帰と関連すると報告されています。
Morphokinetics(胚発育速度)
タイムラプス培養器で胚分裂の時間を解析すると、発育のばらつきが少ない胚は出生率が高いことが示されています。
例(Bayram 2024)
ICM grade C 胚でも
つまり、見た目が悪くても発育ダイナミクスが良い胚が存在するということです。
4. Day5胚とDay6胚の議論
胚盤胞ができるタイミングも予後因子として研究されています。
euploid胚移植研究(Thuy 2024)
多くの研究ではDay5胚の方がやや良好と報告されています。
ただしASRMの見解では、euploid胚ではDay5とDay6の差は小さいとされ、現在も議論が続いています。
5. 最近のトピック:AIによる胚評価
形態評価の限界を補う方法としてAIによる胚評価が研究されています。
深層学習モデル:iDAScore v2
AIは胚形態・発育速度・細胞分裂パターンなどを同時に評価します。
参考文献
鍼灸師が理解しておくべき胚評価のポイント
ここまで述べてきた研究を踏まえると、胚盤胞の評価は単純な「良い・悪い」で理解するよりも、妊娠の確率を示す一つの医学的指標として捉えることが重要になります。
特に臨床現場では、患者が「グレードの良い胚があるのに妊娠しない」「グレードが低いと言われた胚で妊娠した」といった状況に直面することが少なくありません。
その背景を理解するためには、現在の生殖医療でどのように胚評価が位置づけられているのかを知っておく必要があります。
まとめ
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胚盤胞グレードは移植順位を決めるための重要な指標
AA、AB、BA、BB といったグレードの胚盤胞が移植候補として優先されることが多くなります。実際、多くの研究でこれらの胚は低グレード胚よりも妊娠率・出生率が高い傾向が示されています。 -
しかしグレードだけで妊娠は決まらない
一方で、近年の研究は「形態評価だけでは妊娠転帰を十分に説明できない」ことを明確に示しています。また、母体年齢が高くなるほど流産率が上昇することも知られており、たとえ形態評価が良好であっても妊娠転帰が必ずしも良好になるとは限りません。 -
妊娠転帰は胚と母体環境の相互作用で決まる
妊娠が成立するためには、胚の発育能力だけでなく、母体側の環境も重要になります。具体的には、子宮内膜の受容能、子宮血流、免疫環境、ホルモン環境などが着床に影響すると考えられています。また、年齢による卵子の染色体異常率の上昇も重要な要因です。 -
胚評価は現在も進化している
近年では、従来の形態評価だけでなく、胚発育の動態を解析する新しい技術も導入されています。
当院における治療実績(IVF)
2023年1月~2025年12月を調査しました。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

