
目次
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胚移植とは
1-1. 胚移植には2つの方法がある
1-2. 新鮮胚と凍結胚、妊娠率が高いのはどっち?
1-3. 凍結融解胚移植には2つの周期がある
1-4. 胚移植当日の流れ
1-5. 胚移植後にみられる症状 -
胚移植と鍼治療
2-1. 採卵前から体調管理を行う理由
2-2. 胚移植日に鍼治療を取り入れる理由
2-3. 胚移植日に鍼治療を組み入れる一日の流れ
胚移植日に鍼治療を組み入れる
鍼灸師が知っておきたい不妊治療の基本
1. 胚移植とは
体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)では、受精・培養した胚を子宮に戻す 「胚移植」 という工程があります。
これは不妊治療の中でも、妊娠成立に直接関わる重要な段階です。
鍼灸院には、採卵前の体調管理や胚移植前後のサポートを目的として来院される方が少なくありません。そのため、鍼灸師としても胚移植がどのような治療なのかを理解しておくことが重要です。
胚移植は、培養された胚を細いカテーテルで子宮内に戻す処置で、通常は数分で終了します。多くの場合、麻酔は必要なく、身体的な負担は比較的少ない処置とされています。
1-1. 胚移植には2つの方法がある
胚移植には大きく分けて 2つの方法 があります。
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新鮮胚移植
採卵した周期の中で、受精・培養した胚を凍結せずにそのまま移植する方法です。 -
凍結融解胚移植
採卵後に受精した胚を一度凍結保存し、子宮内膜の状態が整った周期に融解して移植する方法です。
現在の生殖医療では、凍結融解胚移植が広く行われるようになっています。
これは、卵巣刺激の影響を受けない周期に移植できるため、子宮内膜の環境が整いやすいと考えられているためです。
1-2. 新鮮胚と凍結胚、妊娠率が高いのはどっち?
新鮮胚移植と凍結融解胚移植の成績については、凍結融解胚移植の方が良好な結果を示す傾向が報告されています。
これは、先にも述べましたが、凍結融解胚移植では卵巣刺激の影響を受けない周期に移植できるため、子宮内膜の環境が整いやすいことなどが理由として考えられています。
日本産婦人科学会の調査によると、生殖補助医療における生産分娩の割合として、以下のような報告があります(2022年)。
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新鮮胚移植:1.7%(4,883 / 279,218)
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凍結融解胚移植:6.6%(70,289 / 264,412)
※出典:日本生殖医学会「生殖補助医療の治療成績はどの程度なのですか?」
このような背景から、現在の生殖医療では凍結融解胚移植が広く行われるようになっています。
1-3. 凍結融解胚移植の2つの周期
凍結融解胚移植には、さらに 2つの方法 があります。
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自然周期
排卵のタイミングに合わせて胚移植を行う方法。 -
ホルモン補充周期
エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン剤を使用して子宮内膜を整え、移植日を調整する方法。
この2つは ホルモン環境が大きく異なる ため、体調の変化や症状の出方も変わることがあります。鍼灸臨床では、この違いを理解しておくことが重要になります。
1-4. 胚移植当日の流れ
胚移植は通常、次のような流れで行われます。
1. 本人確認
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2. 超音波で子宮の状態を確認
↓
3. 細いカテーテルを用いて胚を子宮内に戻す
↓
4. 処置は 5~10分程度で終了
多くの施設では、移植後の長時間の安静は必要なく、通常通り帰宅することができます。
1-5. 胚移植後にみられる症状
胚移植後には、次のような症状がみられることがあります。
・軽い腹痛
・少量の出血
・胸の張り
・眠気や倦怠感
・便秘
特に ホルモン補充周期 では、使用する薬剤の影響による症状が現れることがあります。
症状の程度や経過には個人差が大きいため、強い症状がある場合は医療機関へ相談することが大切です。
2. 胚移植日に鍼治療を取り入れる理由
当院では、胚移植の日に移植前後の鍼治療を行うことを提案しています。
これは、体外受精の胚移植前後に鍼治療を行う方法として知られるPaulusらの研究(2002) を参考にしたものです。
2-1. 採卵前から体調管理を行う理由
Paulusらは、胚移植の前後に鍼治療を行うことで、胚移植のみを行った場合と比較して 妊娠率が高かったこと を報告しました。この研究は、不妊治療と鍼灸の関係を議論するうえで、現在でもよく引用される研究の一つです。
その後も、胚移植前後の鍼治療についてはさまざまな研究が行われています。研究結果は一様ではありませんが、体外受精の過程に鍼治療を組み合わせる試みは現在も世界各地で検討されています。
当院でもこの考え方を参考にしながら、胚移植という重要なタイミングにおいて鍼治療を行っています。
ただし、臨床の現場で患者さんを診ていると、胚移植当日だけの施術よりも、採卵前から体調を整えていくことの方が重要だと感じる場面も少なくありません。
体外受精では
・卵巣刺激
・採卵
・胚培養
・胚移植
といった複数の段階を経て治療が進みます。
そのため当院では、胚移植当日の鍼治療だけでなく、採卵前の段階から体調管理を行うことを大切にしています。
2-2. 胚移植日の一日の流れ(例)

3. さいごに
胚移植は、不妊治療の中でも妊娠成立に直接関わる重要な段階です。処置自体は短時間で終わりますが、患者にとっては大きな期待と緊張を伴うタイミングでもあります。
鍼灸院には、胚移植前後の体調管理やリラックスを目的として来院される方も多くおられます。当院でも、胚移植当日の鍼治療を含め、不妊治療の過程に合わせた体調管理のサポートを行っています。
ただし臨床の現場では、胚移植当日のケアだけでなく、採卵前から身体の状態を整えていくことの重要性を感じる場面も少なくありません。卵巣刺激や採卵など、不妊治療の各段階では身体への負担も大きく、体調の変化も起こりやすいためです。
そのため当院では、胚移植という一つのタイミングだけでなく、不妊治療全体の流れを踏まえた体調管理を大切にしています。治療を受ける方が落ち着いた状態で治療に臨めるよう、身体の状態に合わせたサポートを行っていきたいと考えています。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

