Evidence
不妊症に対する鍼灸
不妊に対する
鍼灸のチカラ
エビデンス
今の時代はとにかく情報で溢れてる
インターネットで調べてみても
本当のところは分からない
鍼灸師が発信している内容もあれば
不妊カウンセラーや臨床検査技師の方が
鍼灸のことについて解説している内容もたくさん
中にはトップジャーナルに載っている
医学論文を紹介しているブログもあるけど
結果だけ伝えてしまっているケースもしばしば…
できる限り正しい情報を発信できるように
鍼灸を知って欲しくてこのページを書いてます

あなたの疑問にお答えします
Q.不妊症に対して鍼灸って効くの?
A.結論から言うと、鍼灸は『有効』です。
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2022年に発表されたシステマティックレビュー
Acupuncture as Treatment for Female Infertility: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
27件のRCT(7,676人)について検討した結果、主要アウトカムすべてに(臨床妊娠率、生化学的妊娠率、継続妊娠率、生児出生率)有効である
2022年の最新のシステマティックレビューでは、エビデンスの現状や現段階での結論は「鍼灸は有効」との結果となりました。この論文の詳細に関しては、note(ブログ)をご参照ください。
実は、鍼灸(特に鍼の研究)の文献数自体もここ10~15年くらいでかなり増えてきています。有用性を評価できる臨床研究はまだまだ多くはありませんが、鍼灸研究のエビデンスをチャートにしました。2023年の”Kampo(漢方)”の文献数は131件で、”Acupuncture(鍼灸)”の文献数は3450件です。世界的に見てみると鍼灸の研究がどれだけ盛んに行われているかが分かります。

こうした文献数の飛躍的な向上は「一体いつ誰がムーブメントを起こしたんだろう?」と気になり、さらに「不妊治療と鍼灸の研究はいつから始まったんだろう?」とも疑問に感じました。
高度生殖医療(ART)の際の鍼治療の効果に関する研究が行われるようになった歴史を振り返ると、ドイツの研究チームと中国武漢「同済病院」との合同研究で、妊娠率に及ぼす鍼治療の効果を評価した世界初のRCTの研究を皮切りにこの研究を参考に活発に臨床研究が行われるようになりました。
Q.いつから不妊に鍼灸が良いって言われ始めたの?
A.2000年初頭に発表された研究がきっかけです。
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世界初のRCTで業界を牽引した研究
Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproductive therapy.
鍼治療群では80人中34人(42.5%)、対照群では、80人中21人(26.3%)の臨床妊娠(胎嚢確認)が認められ(p=0.03)、鍼治療は、ART後の妊娠率を改善するために有用なツールであると報告した
この研究は200年初頭に出された論文としては質の高い研究です。本研究の特徴は、鍼治療の方法(刺鍼部位や刺入深度、鍼治療の時期は胚移植日で①胚移植前と②胚移植後の2回実施など)を画一化したところにあります。この方式による治療法は「Paulus式」と呼ばれるほど話題になりました。この論文の詳細に関しては、note(ブログ)をご参照ください。
そして女性不妊症に対してこれまでに数多くの研究が行われてきましたが、その多くは「Paulus式」を参考にしたため、治療時間も比較的短期間で、かつ卵巣刺激時や胚移植前後などで鍼治療を介入する研究が多かったです。日本では一定のクール(1週間に1回の頻度で3ヶ月間定期的に通院)鍼灸治療を行うのが一般的なので、こうした加算効果を検討していなかったのがこれまでの研究の課題でもありました。
日本特有の不妊事情
鍼灸治療に来院する患者さんの特徴は、30代後半~40代前半で、生殖補助医療(ART)を繰り返していて、不妊治療によるストレスを強く感じている患者さんが多いように思います。さらに、胚移植の前後や卵子の状態を良くしたいと来院する患者さんもいます。また、採卵スケジュールを立て、卵巣刺激を行っても卵胞がなかなか育たない方いらっしゃいます。このような方は、体外受精において”卵巣刺激低反応(poor responder)“と呼ばれています。
ARTの成功を左右する因子は、染色体正常の胚盤胞を獲得することにあるため、卵巣刺激低反応は予後不良因子とも言えます。実際に、妊娠率については、全年齢層における低反応症例の妊娠率は14.8%で、正常反応症例の34.5%と比べて有意に低下することが示されています。また、低反応症例の中でも、37歳以上の妊娠率は1.5%~12.7%であり、36歳以下の13.0%~35.0%より有意に低下すると報告されています。
Q.採卵スケジュールを立てて卵巣刺激をしても卵胞がなかなか育ちません。
A.Kimらの研究では、一定のクール鍼灸治療を受けることで、採卵数の増加や胚移植可能な胚に成長する受精卵が増加する可能性を報告しています。
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卵巣刺激低反応に対する鍼治療
Acupuncture for Poor Ovarian Response: A Randomized Controlled Trial.
鍼治療群は、37歳以上の患者、調節卵巣過剰刺激を2周期以上実施された患者においても採取数と受精卵数を有意に増加させた
この論文は、卵巣刺激低反応に対する鍼治療に効果的な経穴の組み合わせを模索しています。これまでの研究では、「標準治療穴に加えて、中医弁証に基づいて最大〇穴追加することができる」といったケースが多かったので面白い試みだと思います。13件の論文から27個の経穴が抽出され、韓医師らがティスカッションを重ねた結果、中極(CV3)、関元(CV4)、子宮(EX-CA1)、太衝(LR3)、太谿(KI3)、三陰交(SP6)、血海(SP10)、足三里(ST36)が選択されました。この論文の詳細に関しては、note(ブログ)をご参照ください。
Q.他のブログを見ると「鍼治療にはエビデンスがないのが現状です」と書かれています。
A.そのブログは結果だけを引用していませんか?そうすると誤解を招く可能性もあります。
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世界で最も権威ある医学会の1つであるJAMAの研究
Effect of Acupuncture vs Sham Acupuncture on Live Births Among Women Undergoing in Vitro Fertilization: A Randomized Clinical Trial.
生児出生率は鍼治療群18.3%(74/405人)、偽鍼コントロール群17.8%(72/404人)で、両群間で統計的に有意差はみられず、体外受精(IVF)による不妊治療を行う前後に鍼治療を受けても、生児出生率を高める効果は期待できないとしている。
この論文の問題点
1.対照群が有意に胚盤胞移植が多かった
初期胚盤胞と胚盤胞移植では妊娠率・出生率が大きく違い、胚盤胞の胚移植は妊娠率が向上、従来の妊娠率20~25%に対し30~60%との報告もあります。そのため、対照群に胚盤胞移植が多く有意差が認められなかった可能性があります。
2.対照群に用いた偽鍼では差が出にくい
非侵襲的鍼を用いて非経穴に鍼を打っていますが、これは、日本では接触鍼や散鍼に当たると言えます。接触鍼や散鍼などでは皮膚からの刺激が末梢神経から脊髄を介し、脳に伝達されてしまうので、少なからず効果が出現してしまいます。したがって、対照群に偽鍼を設ける場合には、その治療効果を検討するときの結果の解釈には注意が必要となってきます。
3.鍼治療は3回のみで短期間で終了している
胚移植前後や卵巣刺激時など単回の治療の比較ではなく、日本においては一定のクールの鍼治療を受けたあとに胚移植前後や卵巣刺激時など追加して治療を行うことが多いです。つまり、一定のクールの鍼治療を行う加算効果が結果にどの程度影響するかについては本研究では分かりません。
論文は吟味することに意味があるため、結果の一部分だけを切り取って、「鍼灸には効果がない」と言って結論付けてしまうには早いのかなと思います。
Q.どうして鍼が効くの?
A.近年、様々なことが分かってきました。
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女性不妊症に対する鍼灸のメカニズム
Acupuncture for Female Infertility: Discussion on Action Mechanism and Application.

鍼治療は、①神経内分泌系を調節、②卵巣機能・卵胞の発育・成熟卵子数の増加、③胚の着床促進に関与する
この論文では、女性不妊症に対する鍼灸のメカニズムを3つの側面から説明しています。その内容をサマライズしたnote(ブログ)をご参照ください。