Evidence
不妊症に対する鍼灸
不妊に対する
鍼灸のチカラ
こんな時代だからこそ、
「正しい鍼灸の情報」を届けたい
今の時代、私たちは情報にあふれた世界に生きています。
インターネットで「鍼灸」と検索すれば、専門的な言葉から体験談、論文の要約まで、無数の情報がすぐに見つかります。
でも――
本当に正しい情報はどれでしょうか?
誰が発信しているのか、どんな根拠があるのか、そこまで確認するのは簡単ではありません。
鍼灸師自身が発信しているものもあれば、不妊カウンセラーや臨床検査技師といった、他分野の専門家が鍼灸について語るケースも少なくありません。
なかには、トップジャーナルに掲載された医学論文の内容を紹介しているブログもありますが、結果だけを切り取って伝えているようなものも見受けられます。それでは、かえって誤解を生んでしまうこともあるかもしれません。
だからこそ、私は思います。
できる限り正確で、わかりやすく、鍼灸を知ってもらえる情報を届けたい。
その想いで、このページを書いています。

体外受精(IVF)と鍼灸の関係性
――「もっと早く、もっと長く」介入するという新たな戦略へ
2025年4月、International Journal of Nursing Studies にて注目すべき論文が発表されました。
この研究は、体外受精を受ける女性に対する鍼灸治療の効果を再評価したものです。
● 胚移植直前だけの鍼灸で良いのか?
これまで多くの研究は、胚移植直前・直後の短期的な鍼灸介入に焦点を当ててきました。
「移植前後に鍼灸をすれば妊娠率が上がる」というデータもありましたが、本研究はそれとは異なる戦略を示しています。
● 本研究の新たな提案
このメタアナリシスでは、
「採卵前から継続的に鍼灸を取り入れることで、妊娠率・出産率が改善される可能性がある」という点に注目しています。
実際、日本の臨床では「週1回の継続的な鍼灸」が一般的です。
体を整えるには一定の回数・時間が必要であり、それは漢方薬を1回だけ飲んで「効かない」と判断するのと同じように、数回の鍼灸で効果を測るのは不適切だといえるでしょう。
論文の限界とそれでも注目すべき理由
もちろん、この論文にもいくつかの限界があります。
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採用されたRCTの質にばらつきがある
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研究間の異質性(heterogeneity)が高い
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多くの論文が中国語文献であり、出版バイアスの可能性もある
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臨床的に有意な差を明確に示しているわけではない
それでも本研究が示唆するのは:
「単発的な鍼灸介入ではなく、採卵前から数周期にわたる継続的な鍼灸の方が、妊娠率・出産率の改善に効果的である可能性が高い」ということです。
今後に向けて
だからこそ、私たち臨床家に求められるのは、「いつから始めるか」「どのくらいの頻度で」「どれだけ継続するか」という視点をもった説明です。
今後の研究でも、そして患者さんとの対話でも、「継続的な鍼灸による身体づくり」の重要性を丁寧に伝えていくことが、信頼と成果につながるのではないかと感じています。
Q.不妊症に対して鍼灸って効くの?
A.結論から言うと、「鍼灸は有効です」。
不妊治療に対する鍼灸の効果については、これまで多くの研究が行われてきましたが、特に注目すべきなのが2022年に発表されたシステマティックレビューです。
この論文では、27件の無作為化比較試験(RCT)を解析し、合計7,676人の女性を対象に鍼灸の有効性を評価しました。
その結果、以下のすべての主要アウトカムにおいて、鍼灸の有意な効果が認められました。
✅ 臨床妊娠率(Clinical pregnancy rate)
✅ 生化学的妊娠率(Biochemical pregnancy rate)
✅ 継続妊娠率(Ongoing pregnancy rate)
✅ 生児出生率(Live birth rate)
つまり、妊娠の成立だけでなく、「その後の妊娠継続や出産に至るまで」のプロセス全体に対して、鍼灸がプラスに働く可能性があると示唆されているのです。
📝 補足ポイント
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これは質の高いエビデンス(RCTに基づくメタアナリシス)に裏づけられた結果です。
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特に、生児出生率の向上にまで影響を示している点は臨床的に非常に重要です。
🌱 だからこそ伝えたいこと
不妊に悩む方へ、「鍼灸は補完的な手段として、科学的根拠のある選択肢のひとつです」。
薬や手術だけでなく、“身体そのものの状態を整える”というアプローチが、妊娠・出産への土台を支える力になるかもしれません。
鍼灸研究は“いま”が熱い時代です
実はここ10~15年ほどの間に、鍼灸に関する研究文献の数は飛躍的に増加しています。
2023年のデータを見ると、PubMedに登録された文献数は、
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「Kampo(漢方)」に関する文献:131件
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「Acupuncture(鍼灸)」に関する文献:3,450件
と、鍼灸が世界的にも非常に注目されている研究領域であることが分かります。

📈 鍼灸研究のムーブメントは「いつ・誰が」始めたのか?
この文献数の急増を目の当たりにし、「一体いつ、誰がこのムーブメントを起こしたのか?」という疑問が湧いてきました。
特に気になったのが、不妊治療における鍼灸の研究は、いつ頃から本格的に始まったのか?という点です。
🔍【歴史を振り返る】不妊×鍼灸研究のはじまり
体外受精(IVF)をはじめとする高度生殖補助医療(ART)と鍼灸の関係について、世界で初めてのRCT(無作為化比較試験)が行われたのは2002年。
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ドイツの研究チームと、
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中国・武漢の「同済病院(Tongji Hospital)」による共同研究
この研究では、胚移植直前後に鍼治療を行うことで妊娠率が上昇したという結果が報告されました(Paulus et al., 2002)。
鍼治療群では80人中34人(42.5%)、対照群では、80人中21人(26.3%)の臨床妊娠(胎嚢確認)が認められ(p=0.03)、鍼治療は、ART後の妊娠率を改善するために有用なツールであると報告した
この画期的な研究を契機に、世界中で「ART+鍼灸」の臨床研究が急速に進むようになりました。
鍼灸×不妊治療研究の転機――Paulus式とは?
2000年代初頭に発表されたPaulusらの研究(Paulus et al., 2002)は、不妊症領域における鍼灸研究の礎となる質の高い研究として、現在も高く評価されています。
この研究の特筆すべき点は、鍼治療の条件(施術部位、刺入深度、介入時期)を厳密に統一(標準化)したことです。
✔ Paulus式の特徴
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鍼治療のタイミング:胚移植の直前と直後の2回
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鍼治療の部位:中医学に基づき、主要な経穴を明確に設定
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再現性を重視した刺鍼法
この方式はのちに「Paulus式」と呼ばれ、世界中で引用される標準モデルとなりました。
これまでの研究の多くは「Paulus式」モデル
Paulusらの報告を受けて、その後の多くの臨床研究はこのモデルを踏襲しました。
そのため、以下のような短期的な介入(短期間の回数限定の鍼治療)が多く検証されています。
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卵巣刺激中または胚移植前後に限定した介入
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全体的な施術期間が比較的短い
しかしながら、日本では週1回の頻度で3か月以上にわたり継続的に鍼灸治療を行うというスタイルが一般的です。
この「長期的な加算効果」を評価する研究がこれまで十分に検討されてこなかったことは、今後の重要な課題と言えるでしょう。
日本特有の不妊事情と鍼灸の役割
👩🦰 鍼灸院に来院する不妊患者さんの傾向
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年齢層:30代後半~40代前半
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背景:ART(体外受精・顕微授精)を複数回経験
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精神面:不妊治療へのストレスが顕著
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来院理由:
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胚移植前後のコンディション調整
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卵子の質を改善したい
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卵胞が育たない(=卵巣刺激低反応:Poor Responder)
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❗ Poor Responderの現実
卵巣刺激に対する反応が乏しい患者さん(=卵巣刺激低反応症例)は、体外受精の妊娠率が有意に低いことが分かっています。
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全年齢層の比較
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低反応群:14.8%
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正常反応群:34.5%
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年齢別の妊娠率
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37歳以上:1.5%~12.7%
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36歳以下:13.0%~35.0%
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特に37歳以上で卵巣刺激低反応を示す場合は、妊娠率が極端に低下することが臨床的に問題視されています。
Q.採卵スケジュールを立てて卵巣刺激しても卵胞がなかなか育ちません…
A.卵巣刺激に対して十分な反応が得られない「卵巣刺激低反応(Poor Ovarian Response)」のケースに対し、鍼灸治療が卵胞の発育や採卵数の改善に寄与する可能性があるという報告が増えています。
卵巣刺激低反応に対する鍼治療の有効性
▶ Acupuncture for Poor Ovarian Response: A Randomized Controlled Trial.
KimらによるRCT研究(2021)では、以下のような患者群において鍼治療の有用性が報告されました。
✔ 対象患者
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37歳以上の女性
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過去に2回以上のCOH(調節卵巣刺激)を行った経験がある患者
✔ 結果
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鍼治療群では採卵数と受精卵数が有意に増加
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特に「胚移植可能な受精卵(胚盤胞)に成長する割合」が増加
この結果は、一定期間(クール)にわたる鍼灸介入が、低反応群に対しても有意な改善効果を持つ可能性を示しています。
注目すべきツボの選定と研究の意義
この研究では、卵巣機能を高める可能性のある経穴の組み合わせにも注目しました。
従来の研究では、「標準経穴+中医弁証により最大〇穴追加」といった柔軟な設計が多かった中で、今回の研究は明確なツボの選定と統一を試みた点が新しいと評価されています。
Kimらの研究で選定された主要な経穴
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中極(CV3)
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関元(CV4)
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子宮(EX-CA1)
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太衝(LR3)
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太谿(KI3)
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三陰交(SP6)
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血海(SP10)
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足三里(ST36)
これらの経穴は、生殖機能、内分泌バランス、気血の巡りに関与するとされており、韓医学医師らのディスカッションを経て選出された27経穴の中から、特に有効性が期待されるものとして抽出されたものです。
卵巣刺激に反応しにくい体質や加齢に起因する低反応症例に対し、鍼灸が卵胞発育を後押しする可能性があるという研究報告が蓄積されています。
また、こうした研究により、ツボの選定に科学的根拠を持たせる動きも始まっています。
Q. 他のブログで「鍼治療にはエビデンスがないのが現状」と書かれていました。本当ですか?
A. その見解は一部の論文結果だけを切り取った表現かもしれません。鍼灸の有効性を判断するには、論文の「質」や「条件設定」を含めて慎重に読み解く必要があります。
たとえば、JAMAに掲載された有名な研究があります
JAMA(The Journal of the American Medical Association)は、世界的にも信頼度の高い医学雑誌のひとつです。
そこに掲載された以下の論文は、不妊治療と鍼灸の関係を論じた代表的なRCTです:
生児出生率は鍼治療群18.3%(74/405人)、偽鍼コントロール群17.8%(72/404人)で、両群間で統計的に有意差はみられず、体外受精(IVF)による不妊治療を行う前後に鍼治療を受けても、生児出生率を高める効果は期待できないとしている。
この結果だけを見ると、「鍼治療はIVFの出生率を上げなかった」と結論づけられるように見えます。
しかし、この研究には以下の重要な限界や注意点があります。
✅ この論文の3つの問題点
① 対照群での「胚盤胞移植」の比率が高かった
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胚盤胞移植は、従来の初期胚移植に比べ妊娠率・出生率が高い(30〜60%とも言われる)
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本研究では、偽鍼群で胚盤胞移植の割合が高く、それが出生率を押し上げた可能性あり
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つまり、鍼治療の有効性がマスキングされた可能性があるのです
② 偽鍼(Sham Acupuncture)によるコントロールの問題
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偽鍼群には「非侵襲的な非経穴刺激」が行われましたが、これは日本の“接触鍼”や“散鍼”に近い方法
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実際には皮膚への刺激でも神経を介して脳に作用する可能性があり、全く「無効」な介入とは言い切れません
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つまり、偽鍼が“偽”になっていない可能性があり、治療効果の差が出にくくなっていたとも考えられます
③ 鍼治療が「3回のみ」と極めて短期間
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実際の臨床では、鍼灸は1週間ごとに2~3ヶ月間継続して行うケースが多い
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本研究では胚移植の直前と直後、計3回のみの介入だったため、鍼灸の本来の効果(加算的な継続治療の恩恵)が評価されていません
✅ 結論:研究は「読解力」が問われるものです
このように、表面的な結果だけでは評価できない要因が複数あることが分かります。
「エビデンスがない」とするには早計で、むしろ適切な設計で行われた他の研究では有効性が示されていることも多くあります。
Q.どうして鍼が効くの?
A.近年、鍼灸が不妊症に作用するメカニズムについて、さまざまな研究が進んでいます。特に以下の4つの働きが注目されています。
▶ Acupuncture for Female Infertility: Discussion on Action Mechanism and Application
この論文では、鍼治療が内分泌・神経・免疫・循環の多方面から作用する可能性を示しています。

✅ 1. ホルモンバランスの調整
鍼灸刺激は視床下部-下垂体-卵巣軸(HPO軸)に作用し、性ホルモン(LH、FSH、エストロゲンなど)の分泌を整えると考えられています。
これにより、排卵障害や月経不順の改善が期待されます。
✅ 2. 子宮・卵巣の血流改善
鍼刺激は骨盤内の血流を増加させ、子宮内膜の厚さや卵巣機能の改善に寄与することが報告されています。
血流が改善することで、胚の着床環境が整いやすくなるのです。
✅ 3. 自律神経の調整(リラックス効果)
不妊治療では精神的ストレスが大きな影響因子となることも多いですが、
鍼灸には交感神経と副交感神経のバランスを整える働きがあり、ストレス軽減や睡眠改善につながります。
特に交感神経の過緊張による子宮収縮の抑制も着床に有利だとされています。
✅ 4. 免疫・炎症応答の調整
子宮や卵巣の環境は、免疫細胞やサイトカインの影響も受けています。
鍼治療により過剰な炎症反応が抑えられることで、胚の着床や発育がサポートされる可能性があります。
鍼灸が「なんとなく効く」のではなく、生理学的根拠に基づいて効果が説明される時代になってきているのです。
Q. 胚移植の前後に鍼灸を受けると妊娠しやすくなるの?
✅ はい、鍼灸治療が妊娠率を高める可能性があることが研究で示されています。
🔍 どんな研究?
2018年5月〜2020年4月に行われた654周期の凍結胚移植のデータをもとに、次の2つのグループを比較しました(Lauren Grimmら, ASRM 2020):
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鍼灸治療群:胚移植の直前・直後に30分ずつ鍼灸を受けた人たち
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非鍼灸治療群:鍼灸を受けなかった人たち
なお、「妊娠」の定義は胎嚢が確認できた臨床妊娠としています(妊娠反応のみのケースは含まれません)。
📈 結果はどうだったの?
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鍼灸治療群の妊娠率:60.6%
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非鍼灸治療群の妊娠率:46.95%
➡️ 鍼灸群の方が有意に妊娠率が高いことがわかりました(p=0.017)
さらに、着床前遺伝学的検査(PGT)を行った胚を使った移植では…
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鍼灸治療群の妊娠率:73.93%
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非鍼灸治療群の妊娠率:63.29%
➡️ こちらも鍼灸群の妊娠率が高く(p=0.042)、良好な結果が得られています。
📝 ポイントまとめ
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胚移植の前後に鍼灸を受けることで、子宮環境が整いやすくなると考えられています
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鍼灸のタイミング(移植前後30分)を意識することが重要です
Q. 鍼灸治療は採卵にも影響があるの?
✅ 鍼灸治療によって採卵個数が増える可能性が示されていますが、一定期間の継続が必要です。
🔍 どんな治療方法?
「陰部神経鍼通電療法」という特殊な方法で行われた研究があります(木津ら, 第63回全日本鍼灸学会学術大会)。
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通常より長めの鍼(約90mm)を使い、陰部神経という部位に鍼を刺し、そこに電気刺激を加える方法です。
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卵巣刺激の条件は同じにした上で、効果を観察しました。
📈 結果は?
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3周期以上の治療を行ったグループの45.3%で採卵数が増加
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しかし、1ヶ月の短期間治療では変化が見られなかったとのこと
📝 ポイントまとめ
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鍼灸による卵巣刺激効果は時間をかけて出てくる
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少なくとも3ヶ月以上の継続治療が効果を出すカギになります
Q. 鍼灸治療はストレスや不安にも効くの?
✅ はい、鍼灸治療は心身のストレスや不安の軽減にも効果があると報告されています。
🔍 どんな研究?
IVF-ET(体外受精-胚移植)を受ける女性43名を対象にした比較研究があります(Daniela Isoyamaら, Acupuncture in Medicine, 2012)。
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鍼灸治療群(n=22):週1回の頻度で4週間、鍼灸治療を受けたグループ
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コントロール群(n=21):鍼灸を受けなかったグループ
心身の状態の評価には、ハミルトン不安尺度(HAS)という心理評価スケールを使用しました。
📈 結果はどうだったの?
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鍼灸治療群では、HASの数値が有意に低下
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➡️ つまり、鍼灸治療によってIVFに伴う不安が軽減されたことが示されました。
📝 ポイントまとめ
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体外受精などの高度生殖医療では、心のケアもとても大切
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鍼灸治療は、不安や緊張、ストレスの緩和にも有効なサポート手段になります

Q. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にも鍼って効くの?
🔎 PCOSってどんな病気?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、女性のホルモンバランスに関わる内分泌疾患。以下のような症状がみられます:
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月経不順(無月経・稀発月経)や不妊
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男性ホルモン(アンドロゲン)過剰による多毛・ニキビ・脱毛
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卵巣に多数の未熟な卵胞(小さな嚢胞)
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インスリン抵抗性や肥満、代謝異常
これらの症状が複雑に絡み合い、悪循環を生んでいるのがPCOSの特徴です。
🔄 PCOSの悪循環
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排卵障害(Ovulatory Dysfunction)
→ 月経不順や不妊の原因に。 -
インスリン抵抗性(Insulin Resistance)
→ アンドロゲン過剰の一因に。 -
精神的ストレス・感情障害(Emotional Disorders)
→ ホルモン異常・外見の変化から、不安やうつへ。 -
高アンドロゲン血症(Hyperandrogenism)
→ 多毛・ニキビなどを引き起こし、①②をさらに悪化。
💡鍼治療は、どこにどう効くの?
🧠 ホルモンバランスを調える
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視床下部からのGnRH分泌が整う
→ LHとFSHのバランス改善
→ 排卵周期の正常化へ
🧬 インスリン抵抗性を改善
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GLUT4の活性化を促進し、血糖代謝をサポート
→ アンドロゲン過剰の改善、体重管理にも貢献
😌 自律神経と感情の安定
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交感神経の過剰活動を抑える
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5-HT・βエンドルフィン・ノルアドレナリン分泌を調整
→ 不安やストレスの緩和に
使用される主なツボ(経穴)
中極・関元・気海
所属経絡:任脈
理由:任脈は「胞宮(子宮)」を調整する経絡で、女性生殖器系と深く関係。 ・CV4は「腎を補い、気血を調える」働きがあり、 排卵や月経周期の正常化を図る。
・CV3は膀胱経との交会穴で、 ➡︎ 下焦の異常(瘀血、寒湿)に対応。
帰来
所属経絡:足の陽明胃経
理由:子宮周囲の血流を改善する重要な経穴。
・ST25は「帰来=子宮を帰らせる」という名前が示す通り、生殖器の機能回復に用いられる。
三陰交
所属経絡:足の太陰脾経
理由:肝・脾・腎の三つの陰経が交わる場所で、生殖・内分泌・血液の調整に特に重要。
陰陵泉
所属経絡:足の太陰脾経
理由:湿邪を排除し、代謝機能改善(インスリン抵抗性など)を狙う。
足三里
所属経絡:足の陽明胃経
理由:消化器系の調整、全身の気血を補う効果があり、内分泌・免疫のバランスを整える。
※抗炎症・抗ストレス効果も。
合谷
所属経絡:手の陽明大腸経
理由:自律神経調整、鎮痛、ホルモン分泌の調整に使われる。
✅ まとめ:PCOSに対する鍼治療
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ホルモン・代謝・自律神経・感情に多角的にアプローチ
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薬だけではカバーしきれない領域にも対応
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体質改善・自然な周期回復を目指せる可能性

Q. 鍼通電刺激が卵巣や子宮に与える影響はありますか?
はい。鍼通電刺激は卵巣や子宮の血流や組織環境に影響を与え、妊娠に適した状態を整える可能性があります。以下のような基礎研究によって、そのメカニズムが少しずつ明らかにされてきています。
【鍼通電刺激が卵巣血流に及ぼす影響】
Elisabet Stener-Victorin らによる動物実験(Reproductive Biology and Endocrinology, 2004)
この研究では、ラットに対して鍼通電刺激を行い、その後の卵巣血流(OBF)の変化を観察しました。
▸ 主な結果:
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刺激周波数の違いによる比較では、低頻度(2Hz)の刺激の方が高頻度(8Hz)よりも卵巣の血流をより多く増加させていました。
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多嚢胞性卵巣(PCO)モデルのラットに対しては、刺激の強さ(1.5mA、3.0mA、6.0mA)を比較したところ、6.0mAでのみ有意な血流増加が認められました。
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また、卵巣の交感神経の関与を調べるために、上卵巣神経(SON)と卵巣神経叢(OPN)を切断したラットを用いたところ、鍼刺激による血流の変化は起こりませんでした。
▸ 考察:
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鍼通電刺激による卵巣血流の増加は、交感神経を介したメカニズムで起こることがわかりました。
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特にPCOSのような病態では、一定以上の刺激強度が必要であることも明らかになりました。
✅ 要点まとめ:
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2Hzという低頻度の刺激が血流促進に効果的。
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多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、強めの刺激(6.0mA)で効果が現れる。
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卵巣の交感神経系の調整が関与している。


【鍼通電刺激が子宮内膜に及ぼす影響】
Wei Chen, Jie Chen らによる研究(Biology of Reproduction, 2019)
この研究では、卵巣過剰刺激(COH)モデルのラットに対して鍼通電刺激を行い、子宮内膜の血管新生と着床への影響を調べました。
▸ 実験の設定:
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ラットは以下の4つの群に無作為に割り当てられました:
① 正常群(N)
② モデル群(M)=COH処置のみ
③ 鍼通電刺激群(EA)=卵巣刺激から妊娠3日目まで刺激
④ 鍼通電前処置群(PEA)=卵巣刺激の3日前から妊娠3日目まで刺激 -
鍼通電は、三陰交と足三里に2/15Hzの周波数で実施し、強度は筋痙攣の閾値(無理のない程度)に設定。
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さらに、PEA群の別ラット30匹には、血管新生を抑制する阻害因子(siVEGFR2)を子宮内に注入し、血管形成への影響を観察。
▸ 主な結果:
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子宮内膜の微小血管密度(MVD)や血管新生関連因子(VEGF-A、Ang-1、FGF-2など)の発現量は、EA群およびPEA群で有意に増加。
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一方、COHモデルのみのM群ではこれらの指標が低下しており、COHの影響で血管新生が抑制されていることが確認されました。
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また、siVEGFR2を注入した群では、VEGFR2の発現、胚の数、MVDが大きく減少し、VEGFR2の重要性が示されました。
▸ 考察:
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鍼通電刺激は、VEGFR2などの血管新生に関わるシグナル経路を活性化し、子宮内膜における血管の新生を促す可能性があります。
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この血管新生の促進が、結果として胚の着床率の向上に寄与すると考えられます。
✅ 要点まとめ:
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鍼通電刺激は、子宮内膜の血管新生(MVD)を促進し、着床環境を改善。
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その効果は、VEGFR2などの血管新生関連タンパクの活性化による。
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鍼刺激の実施タイミング(前処置を含む)も重要である。


