Speciality
メンタル
🔖 目次
Q2. 鍼灸ってなんで効くの?
└ 脳科学から見た鍼灸の効果
└ 神経可塑性と鍼灸
└ 睡眠と鍼灸の関連メカニズム
└ 実際の研究とエビデンス(松浦ら研究)
Q.どんなことをするのですか?
東洋医学には「心身一如(しんしんいちにょ)」という考え方があります。
これは、「心と体は切り離せない関係にあり、どちらか一方の乱れが、もう一方にも影響する」という意味です。
たとえば、
-
強いストレスが続くと、胃が痛くなる
-
気が張っていると、寝つきが悪くなる
-
疲れがたまると、気持ちが沈みやすくなる
こうした経験は、多くの方が心当たりがあるのではないでしょうか。
逆に、
-
体のこわばりが取れたとき
-
呼吸が深くなったとき
「なんだか気持ちまで楽になった」
と感じたことがある方も、少なくないと思います。
例えばこんな症状を診ています



寝つきが悪い
気分の落ち込み、憂うつ
動悸や息苦しさ

頭痛


めまいやふらつき
不安・緊張する
Q.鍼灸って、なんで効くの?
A.最近では、「鍼刺激が脳の働きにどのような影響を与えるのか」 を調べる研究が進んでいます。
鍼の刺激が体に入ると、脳の中では次のような反応が起こると考えられています。
-
痛みを感じにくくする仕組みが働く
-
自律神経のバランスが整いやすくなる
-
ストレス反応が抑えられる
-
気分を安定させる神経伝達物質の分泌が促される
こうした脳の反応が積み重なることで、痛み・不安・ストレス・不眠・気分の落ち込みなど、さまざまな症状が改善しやすくなると考えられています。
東洋医学の考え方と、現代科学
東洋医学では古くから、
-
「気の巡り」
-
「経絡による全身の調整」
といった考え方を大切にしてきました。
一方、現代では、
脳や神経の働きを客観的に調べる研究 が進み、これまで感覚的に語られてきた鍼灸の作用の一部が、科学的な視点から説明されつつあります。
脳の働きから見た、鍼灸の効果
近年、脳の活動を可視化する研究手法 を用いた研究により、
-
鍼灸治療が感情の調整やストレス反応に関わる脳ネットワーク に影響を与えること
-
特に、うつ状態と関連する脳の働きのバランスが整う ことで、症状の軽減につながる可能性が報告されています。
この点を示した研究のひとつが、
「鍼灸治療が脳機能に及ぼす影響を、画像解析によって検討した論文」 です。
Functional magnetic resonance imaging providing the brain effect mechanism of acupuncture and moxibustion treatment for depression


Q.なんで、うつ病に鍼治療が効くの?
A.近年の研究により、うつ病に対する鍼治療の効果には「神経可塑性(しんけいかそせい)」が関わっている可能性が示されています。
「神経可塑性」とは何でしょうか?
神経可塑性とは、脳や神経が、刺激や経験によって柔軟に変化し、新しいつながりをつくり直す力 のことです。
これは、
-
脳内ネットワークの再編成
-
神経細胞同士のつながり(シナプス)の形成
-
記憶・感情・ストレス耐性の調整
などに深く関わっています。
うつ病の脳では、何が起きているのか
うつ病の方の脳では、次のような変化が起こりやすいことが知られています。
-
前頭前野や海馬のボリュームが低下しやすい
-
神経細胞同士のつながり(シナプス)が減少しやすい
これらは、
-
慢性的なストレス
-
睡眠不足
-
ホルモンバランスの乱れ
などによって悪化し、気分の落ち込み・意欲低下・思考の鈍さといった症状に関与すると考えられています。
鍼治療は、脳にどう作用するのか
2025年に発表された最新の総説では、鍼治療が 脳の神経活動に働きかけ、神経可塑性を回復・調整する方向に作用する可能性 が示唆されました。
具体的には、次のような作用が報告されています。
-
前頭前野の活動改善
-
海馬における神経可塑性の向上(シナプス再構築)
-
ストレス反応(HPA軸)の調整
-
自律神経バランスの改善
これらが組み合わさることで、
-
気分の安定
-
意欲の回復
-
思考力・集中力の改善
につながる可能性があると考えられています。
研究が示しているポイント
これまでの研究では、鍼治療が
-
気分
-
自律神経
-
炎症反応
-
神経伝達物質(セロトニンなど)
に作用することが示唆されてきました。
近年ではさらに一歩進み、
-
どの脳領域に
-
どの神経回路を通じて
-
どの因子(BDNFなど)が関与し
-
どのタイミングで変化が起こるのか
といった点が、徐々に明らかになってきています。
科学的背景となる論文
この考えを裏づけているのが、次の論文です。
“Possible antidepressant mechanism of acupuncture: targeting neuroplasticity”

うつ症状と不眠、そして鍼灸
うつ症状のある方にとって、非常に多くみられる症状のひとつが「不眠」 です。
-
寝つけない
-
眠りが浅い
-
夜中や早朝に目が覚めてしまう
こうした睡眠の問題は、日中の疲労感や集中力の低下を招き、気分の落ち込みや不安をさらに強めてしまう ことも少なくありません。
鍼灸を受けた方から、よく聞かれる声
実際に鍼灸を受けた方の中には、
-
「いつもよりぐっすり眠れた」
-
「夜中に目が覚めにくくなった気がする」
-
「朝の目覚めが少し楽だった」
といった変化を感じる方が多くいらっしゃいます。
では、なぜこのような変化が起こるのでしょうか?
そのヒントとなる研究報告があります。
鍼灸と「睡眠の質」をめぐる研究
古くから不眠症に対して用いられてきた経穴への鍼刺激は、睡眠の質の改善という臨床効果 と結びついてきました。
近年では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI) という脳の働きを客観的に調べる方法を用いた研究により、その効果が 脳レベルでも確認 されています。
研究が示していること
fMRIを用いた研究では、
鍼刺激によって
-
脳内ネットワークのつながり(機能的結合)が調整される
-
覚醒や緊張に関わる脳領域の過活動が落ち着く
といった変化が確認されています。
こうした脳ネットワークの調整が、
-
ストレス反応の軽減
-
自律神経の安定
につながり、より深く、質の高い睡眠をもたらす と考えられています。
不眠とうつ症状の関係
不眠は、単なる「睡眠の問題」ではありません。
-
不眠が続くことで、うつ症状が悪化する
-
気分の落ち込みが強いほど、眠りにくくなる
このように、不眠とうつ症状は互いに影響し合う関係 にあります。
だからこそ、鍼灸によって睡眠の質が整うことは、心身全体の回復を支える重要な要素 のひとつといえるでしょう。
科学的背景となる論文
この考えを裏づける研究のひとつが、次の論文です。
“The increased functional connectivity between the locus coeruleus and supramarginal gyrus in insomnia disorder with acupuncture modulation”




「ぐっすり眠れた」は、気のせいではありません
―― 鍼治療と睡眠のメカニズム
鍼灸を受けた方が
「ぐっすり眠れた気がする」
「夜中に目が覚めにくくなった」
と感じることは、単なる気のせいではありません。
近年では、動物実験を中心とした基礎研究 によって、鍼治療が睡眠に影響を及ぼす 生理学的なメカニズム が、少しずつ明らかになってきています。
睡眠障害に対する鍼治療の作用メカニズム
これまでの研究から、鍼治療は睡眠障害に対して有効である可能性が示されており、
その効果は、
-
特定の脳領域を介して
-
複数の神経伝達物質や分子経路を調整することで
発揮されていると考えられています。
メカニズムの要点
鍼治療は主に以下のような経路を通じて、睡眠の質や量に影響を与える可能性があります。
① 神経伝達物質の調整
-
セロトニン、GABA など
睡眠と覚醒のリズムに関わる物質の調整
② 神経栄養因子と神経可塑性の促進
-
BDNF などの神経栄養因子を介し、
脳の回復力や柔軟性を高める可能性
③ ストレス反応・内分泌系の調節
-
HPA軸(視床下部‐下垂体‐副腎系)への作用
-
過剰なストレス反応の抑制
④ シグナル伝達経路の活性化
-
MAPK、PI3K/Akt など、
細胞機能や神経活動に関与する経路の調整
⑤ アポトーシス(細胞死)の制御
-
神経細胞の過剰なダメージを抑え、
脳環境の安定化に寄与する可能性
脳の「どこ」に作用しているのか
さらに、鍼治療は睡眠調節に関与する特定の脳領域 にも影響を及ぼすことが示唆されています。
これらの変化が相互に作用することで、
-
寝つきの改善
-
眠りの深さの向上
-
夜間覚醒の減少
といった睡眠の質・睡眠量の改善 に寄与している可能性があります。
科学的背景となる論文
こうした知見を整理した総説が、次の論文です。
“The effects of acupuncture on sleep disorders and its underlying mechanism:
a literature review of rodent studies”


鍼をすると、脳の血流はどう変わるのでしょうか?
―― 脳血流から見た、うつ症状と鍼灸
松浦らの研究では、うつ病患者さんに鍼刺激を行い、ASL(Arterial Spin Labeling)MRI という方法を用いて、脳血流の変化が検討されました。
※ ASL-MRIは、造影剤を使わずに脳血流を定量的に評価できる画像手法で、脳機能の変化を客観的に捉えることができます。
研究のポイント
■ うつ病患者さんにみられる脳血流の特徴
-
前帯状皮質
-
左背外側前頭前野(DLPFC)
これらの領域では、脳血流が低下しやすい ことが知られています。
▶ これらは、
-
意欲
-
感情のコントロール
-
思考や判断
に深く関わる、非常に重要な脳領域です。
■ 鍼刺激後に起こった変化
鍼刺激を行うと、
-
前頭前野
-
視床
-
視床下部
などの領域で、脳血流の増加 が認められました。
この血流増加は、
-
鍼刺激の直後から出現
-
刺激終了後、約30分程度まで持続
することが確認されています。
この結果が示していること
これらの結果は、
-
鍼灸が脳血流を調整する作用をもつ可能性
を、客観的なデータとして示しています。
つまり、
「なんとなく気分が軽くなった」
「頭が冴えた感じがする」
という感覚の背景には、脳内で実際に血流や機能の変化が起きている可能性がある、ということです。

鍼刺激による脳血流の変化
標準治療に鍼を併用すると、どうなるのでしょうか?
―― うつ病・双極性障害の「うつ状態」に対する臨床研究
精神科医の協力のもと、松浦らは、うつ病・双極性障害の「うつ状態」に対して鍼治療を標準治療に併用した場合の効果 を臨床研究として検証しました(全日本鍼灸学会学術大会,2019)。
研究の方法
この研究では、同一の患者さん の中で、
-
標準治療のみの期間
-
標準治療+鍼治療を併用した期間
を比較しています。
※ 標準治療には、
薬物療法・カウンセリングなどが含まれます。
👉 患者さんごとの個体差を抑え、 「鍼を併用したことによる変化」 を より明確に評価できるデザインです。
結果
その結果、
-
うつ症状
-
不安症状
いずれにおいても、鍼治療を併用した期間のほうが、有意に症状が軽減していることが示されました。
この結果が意味すること
この研究は、
-
薬物療法やカウンセリングといった標準治療を否定するものではなく
-
それらに 鍼治療を加えることで、より良い症状改善が得られる可能性を示しています。

HSDSの変化
Q.鍼灸の効果って、いつ頃から出るのですか?
A.うつ病や双極性障害の「うつ状態」など、精神科領域の症状に対する鍼灸治療は、即効性よりも「じわじわ効いてくる」ことが特徴 です。
体や脳の働きを少しずつ整えていく治療のため、数回で劇的に変化するというよりも、時間をかけて回復の土台をつくっていく イメージになります。
治療効果の目安
あくまで目安ではありますが、
多くの方で次のような経過がみられます。
-
週1回の治療を継続した場合
3ヶ月前後で「以前より少し楽になった」「睡眠や気分に変化を感じる」と感じる方が増えてきます。 -
その後も継続することで、
6ヶ月〜数年かけて-
症状のさらなる改善
-
服薬量の調整・減量の検討
-
再発予防
-
寛解(安定した状態)の維持
-
を目指していくケースが多くみられます。
効果の出方には個人差があります
鍼灸の効果は、すべての方に同じスピードで現れるわけではありません。
次のような要因によって、効果の現れ方や経過には差 が出てきます。
治療効果を左右する主なポイント
① 病状の重さ・罹病期間
-
症状が強い場合
-
長期間にわたって不調が続いている場合
は、回復にもある程度の時間が必要になります。
② 治療への参加姿勢(アドヒアランス)
-
無理のない範囲で通院できているか
-
体調の変化を一緒に確認できているか
といった、治療への関わり方 も重要な要素です。
③ 提案された頻度・期間を守ること
鍼灸は、
-
回数
-
頻度
-
継続期間
によって効果が積み重なる治療です。
Q.予約はどうすればいいですか?
A.当院は予約制となっております。
安全に治療を受けていただくために
鍼灸師は、医療法上、
-
診断を行うこと
-
薬剤の調整や説明を行うこと
はできません。
そのため、
鍼灸治療を受けて症状が軽くなった場合でも
-
自己判断で通院を中断したり
-
服薬量を減らしたりすることは、必ず避けてください
治療の変更や薬の調整については、
必ず主治医と相談のうえで行ってください。
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

