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  • 執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
    大慈松浦鍼灸院
  • 2025年12月17日
summary:「顔の見える関係」は、少なくとも3要素(顔が分かる/人となりが分かる/信頼して働ける)を含みます。それは、地域連携の構成要素の1つであり、連携を円滑にする機能を持ちます。促進要素は「話す機会」を継続的に構築することです。

顔の見える関係とは?

地域連携の文脈で頻用される「顔の見える関係」という言葉を耳にする機会が少なくありません。

顔の見える関係

しかし、

  • 「顔の見える関係」とは具体的に何を指すのか

  • それはなぜ連携を円滑にするのか

こうした問いに、学術的に整理された説明は、実はこれまでほとんどありませんでした。

今回ご紹介する論文「地域緩和ケアにおける『顔の見える関係』とは何か?」(Palliative Care Research 2012; 7(1): 323–333)は、この曖昧に使われてきた言葉を、初めて体系的に概念化した重要な研究です。


なぜ「顔の見える関係」が問題になったのか

この論文の出発点は、非常にシンプルです。

「重要だと言われ続けてきた『顔の見える関係』が、何を意味し、どのように地域連携に影響するのかは、これまでほとんど検討されていない」

この研究はどのように行われたのか

本研究は、量的研究+質的研究を組み合わせた探索的研究です。

① 質問紙調査(207名)

地域の医療・介護・福祉従事者を対象に、「地域連携が良好である状態」を構成する項目を評価。

その中に、

「地域でがん患者に関わっている人たちの顔の見える関係がある」という項目が含まれていました。

② インタビュー調査(5名)

実際に地域連携を経験してきた多職種に対し、

  • 「顔の見える関係とは何か」

  • 「それは連携にどう影響するか」

を半構造化面接で深く掘り下げています。


「顔の見える関係」は3つのレベルで成り立っている

この論文の最も重要な知見は、「顔の見える関係」は単一の状態ではないという点です。

① 顔が分かる関係

  • 名前と顔が一致する

  • 顔を思い浮かべることができる

これは連携の「入口」ではありますが、それだけでは不十分であると示されています。


② 顔の向こう側が見える関係

  • 考え方・価値観

  • 仕事のスタンス

  • 話しやすさ、頼みやすさ

  • 得意なこと・苦手なこと

つまり、「どう関わればよいかが分かる関係」です。


③ 信頼できる関係

  • 相手の対応が予測できる

  • 「この人なら返してくれる」という期待がある

  • 責任を前提に一緒に仕事ができる

ここまで到達して、初めて真の意味での多職種協働が成立します。


顔の見える関係がもたらす6つの効果

インタビュー調査から、以下の影響が整理されています。

  1. 連絡しやすくなる

  2. 誰に言えば解決するか、役割が分かる

  3. 相手に合わせて自分の対応を変えるようになる

  4. 仕事の効率が良くなる

  5. 親近感を覚える

  6. 責任を感じるようになる

特に注目すべきは、「顔が見えると、無責任な対応がしにくくなる」という点です。

これは関係性が、行動の質そのものを変えることを示しています。


「顔の見える関係」はどうすれば育つのか

ここで個人的に興味深いと感じた点は、本論文が「顔の見える関係」を精神論としてではなく、

・どのようにして形成されるのか(話す機会)

・その結果、何が起こるのか(連携の変化)

というプロセスに分解して示している点です。


すなわち、

話す機会がある(グループワーク、日常会話、患者を一緒に診る)

→ 性格や強み・弱み、考え方、理念が分かる

→ 連絡しやすくなる、役割が分かる、対応を調整できる、効率が上がる、親近感や責任が生まれる

→ 連携が円滑になる

という構造が明確に示されています。


またこれは、大規模な会議や特別な取り組みではなく、小規模で継続的な対話や、実際の患者対応を通じた協働といった、日常業務の延長線上にある経験こそが「顔の見える関係」を育てることを示唆しています。


その意味で本論文は、忙しい臨床現場においても実践可能な視点を提示している重要な研究であると感じました。


Keyword:顔の見える関係 地域連携 多職種連携 信頼関係 医鍼連携

しりたがりやの ふくろうぼうや

こどもに絵本の読み聞かせをしているとき、ふと、臨床の場面と重なる瞬間がありました。

『しりたがりやの ふくろうぼうや』を読みながら、この物語は医学や医療のあり方、とりわけ鍼灸師の役割を考えるうえで、とても示唆に富んでいるのではないかと感じたので、少し言葉にしてみたいと思います。

しりたがりやの ふくろうぼうや
『しりたがりやの ふくろうぼうや』文:マイク・サラー/絵:デイヴィッド・ウィーズナー/訳:せな あいこ(評論社)

絵本のあらすじは、

「アウリーぼうや」という小さなふくろうの子どもが、とても好奇心旺盛で、

  • 「空には星がいくつあるの?」

  • 「空ってどれくらい高いの?」

  • 「海はどれくらい深いの?」

…など、次々に質問してきます。お母さんふくろうは「確かめてごらん」とやさしく応え、ぼうやはその答えが 数えることのできないほど限りがないということを次第に理解していきます。最後には親子のあたたかな愛情が描かれるお話です。


このやり取りは、医学と医療の関係性を象徴しているように思えます。


医学が「確かめる」もの ― Disease の視点

現代医学では、検査や画像、数値、診断名といった客観的指標を用いて病態を把握します。

これは Disease(疾患) の側面であり、医学として不可欠なプロセスです。

鍼灸臨床においても、

  • 医師の診断内容

  • 検査結果

  • 既往歴や服薬状況

を理解することは、極めて重要です。

絵本の中で言えば、「空の高さを測る」「星の数を数える」という行為に相当します。


患者さんが本当に困っていること ― Illness の視点

しかし、患者さんが鍼灸院で語るのは、

  • 不安やつらさ、将来への恐れ

  • 誰にも分かってもらえない感覚

  • なぜこのタイミングだったのか

といった、数値化できない体験です。

これが Illness(病いの体験) の側面です。

検査では異常が見つからなくても、また同じ診断名・同じ検査所見であっても、患者さんが体験している「つらさ」や「困りごと」は一人ひとり異なります。 本人にとっては、確かに苦しい体験なのです。


Disease-Illnessmodel
Disease-Illnessモデル

解釈モデル ― 物語としての病いを理解する

解釈モデルとは、患者さんが鍼灸院に来院する「本当の理由(真の受診理由)」を理解するためのフレームです。 症状そのものではなく、患者さんがその症状をどのように捉え、どのような意味を与えているのかに焦点を当てます。

解釈モデル
解釈モデル

鍼灸臨床においては、症状や所見を把握すること自体が目的ではありません。

それ以上に重要なのは、患者さん自身が、現在の状態をどのように捉え、どのような意味づけをしているのかを理解することです。


同じ症状であっても、

  • 「このまま治らないのではないか」という不安

  • 「仕事や家庭に迷惑をかけている」という罪悪感

  • 「誰にも分かってもらえない」という孤立感

など、患者さんが抱えている背景は大きく異なり、鍼灸院への受診行動の動機そのものに深く関わっています。


また、

  • なぜこの症状が起きたと思っているのか

  • 何が一番つらいのか

  • 何を不安に感じているのか

  • この状態が生活や仕事、人間関係にどのような影響を及ぼしているのか

これらは、検査や診断名からは見えてきません。


絵本の最後で示されるのは、「数えきれないもの」「測れないもの」が存在するという事実です。そして、その答えは親子が寄り添う時間として描かれます。鍼灸臨床に通ずるものがあると思います。


鍼灸師の役割 ―「確かめる」と「寄り添う」のあいだで

鍼灸師は、

  • Disease を軽視する立場でもなく

  • Illness だけに寄り添う立場でもありません

私はこの双方の視点を持つ立場にあると考えています。


患者さんの語りを受け止めながら、必要に応じて医療機関とも連携する。この役割は、「すべてを説明すること」よりも「分からない部分を抱えたまま関わる」を許容する姿勢に支えられていると思います。


おわりに

『しりたがりやの ふくろうぼうや』が最後に伝えるのは、答えの正確さではなく、関係性のあたたかさです。鍼灸臨床においても、患者さんにとって最も大きな支えとなるのは、「ひとりではない」と感じられる体験なのかもしれません。

  • 執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
    大慈松浦鍼灸院
  • 2025年12月1日

第1回『不眠症』

2025/11/29(土)19:30~


ハリメドのセミナーが無事に終了しました。

事前の参加希望人数は 230名 を超えました。

ご参加くださった皆さま、事前質問をお寄せいただいた先生方に心より感謝申し上げます。

引き続き、医療と鍼灸の連携を深める取り組みを進めてまいります。

ハリメドセミナー

さて、セミナー終了後の医師との対談で、私の予想外で興味深い指摘がいくつか挙がりました。

Q. 鍼灸院って、どんな症状ならかかっていいんですか?

この質問は予想外でしたが、実はとても本質的なテーマです。

医師・一般市民から見る「鍼灸」の現状

◆ 医師からみると、

「この鍼灸院は何が得意なのか?」が判断しづらい。

鍼灸は自由診療であることが多く、初診の流れ・費用・適応範囲・安全性の基準が医療機関のように統一されているわけではなく、医師からすると「どのような患者が鍼灸の適応で、どの段階で鍼灸が入り得るのか」が不透明になりやすいとも感じます。


◆ 一般市民も、

「どこに行っても同じ?」「どこが信頼できるの?」

という迷いが生じやすく、整体・マッサージとの違いも見えにくい状況です。


これは、鍼灸の”入り口”が不明瞭であることが問題点として挙げられ、

  • どんな症状のときに鍼灸に行けばいいのか?

  • 整体・マッサージと何が違うのか?

  • 鍼灸は医療とどう関係するのか?

これらが一般の人にも医師にも「見えにくい」という課題がありそうです。


では、どんな症状なら鍼灸に行けばいいのか?

私は、次のような「トリアージ」の目安を推進しています。


✔︎ 鍼灸 × 医療のトリアージ(目安)

■ 原発性疾患 ➝ まず医療機関へ

原因が明確な疾患(感染症、外傷、急性症状など)は医療の領域です。


■ 二次的な不調 ➝ 鍼灸の特異領域

例:不眠、自律神経の乱れ、慢性的な痛み・不調、更年期に伴う諸症状 など

“病名はつかないけれど生活に支障がある状態”は鍼灸が得意とするところです。


✔︎ フラッグによる判断

🔴 Red flags ➝ 「まず医療機関を受診すべき」サイン

ここは迷わず受診。


🟡 Yellow flags ➝ “注意が必要だが、鍼灸との併用は可能”

医師と鍼灸師が並走して経過を追うイメージです。


🟢 Green flags ➝ 器質的な問題がなく、“生活の質(QOL)が下がっている状態”

鍼灸単独でも十分に対応できます。


A. 結論から言うと、鍼灸は病名がつかない不調日常で感じる違和感にも向いています。

たとえば、

最近寝つきが悪い、めまいが続く、肩が重い、疲れやすい、なんとなく不安、気持ちが落ち着かない、季節の変わり目がつらい……。


病院に行くほどではないけれど、生活の質(QOL)が下がっているときに、鍼灸は大きな力を発揮します。


もちろん、急に症状が悪化したり、明らかな“病気のサイン”があるときは、まず医療機関が優先です。そのうえで、検査に異常がないのに続く不眠や自律神経の乱れ、慢性的な痛みなどは、鍼灸の得意分野です。


私は、鍼灸がもっと日常の中にあるものになれば良いと考えています。

「最近よく眠れない」「なんだか胃腸の不調が続く」「季節の変わり目で自律神経が乱れている」そんな理由で訪れていただいて構いません。


Q. 鍼灸では「なにができるのか?」

これも重要なテーマです。

鍼灸って、なにができるの?

鍼灸は「リラクゼーション」や「肩こりのケア」だけでなく、医学的にも多面的な作用をもつ治療法だと私は考えています・

以下の4つが、鍼灸が本来発揮できる主要な役割です。


● 1. 症状軽減(症状そのものへの効果)

研究で効果が示されている症状を一部提示

・不眠症:入眠改善、中途覚醒改善

・慢性痛:腰痛、肩痛、頭痛、変形性関節症

・自律神経症状:動悸、疲労、倦怠感

・精神心理症状:不安、軽度うつ、不定愁訴

・耳鼻科領域:耳鳴り、めまい、咽頭違和感

・女性領域:更年期症状、月経痛


● 2. 身体機能の改善(調整・回復)

・交感神経・副交感神経のバランス改善

・血流改善

・筋緊張緩和

・抗炎症作用

・睡眠の質向上

・ストレス反応の低減(HPA axis) など


● 3. 生活の質(QOL)の改善

睡眠や活動性、気分、痛み、日常生活の満足度など鍼灸治療によって複合的な改善をもたらし「不定愁訴」への対応が特に得意


● 4. 医療の補助療法(併用の相乗効果)

たとえば、

・更年期におけるホルモン補充療法の併用

・不眠症に対する薬物療法との併用

・うつ病や不安障害などに対する薬物療法との併用

・顔面神経麻痺の後遺症の治療 など


鍼灸は標準治療と併用して介入することができ、アンメットニーズにも対応することが期待できます。

A. 鍼灸は、症状改善・身体機能の改善・QOL向上・医療との併用・不定愁訴への対応など幅広く対応することができます。

また、鍼灸師が取り組むべき”課題”についても見えてきました。


それは、

1. 鍼灸師は“資格は同じでも専門性がまったく違う”という構造問題

婦人科、精神科、整形外科、耳鼻科領域など鍼灸師個々の興味で専門分野が分かれています。しかしその専門性は外から見ると”わかりにくい”のが現状です。

→ 医師から見ると「この鍼灸院が何に強いのか?」が全くわからない。

→ 鍼灸師同士でさえ把握できていない。


2. 卒後研修・標準化された臨床教育が存在しない

医学では当たり前の“卒後研修・専門医制度”が鍼灸にはありません。知識・技術・臨床推論は個々人の努力に依存し、結果として「質のばらつきが大きい」というのが課題です。

→ 医師が紹介を躊躇する構造が続く


3. 医師 → 鍼灸師の紹介ルートが制度化されていない

医師が紹介する際に必要な要素は本来、

●その分野に強い鍼灸師であること

●一定の安全性・質が担保されていること

●フィードバック(報告)が返ってくること

だが、現在はどれも可視化されていません。


4. 鍼灸のエビデンスが発信されていない

近年、鍼灸研究は世界的にも活発に行われ、主観的・客観的な評価によってもその効果の裏付けるような研究は多数存在します。しかし、鍼灸師自身もそのエビデンスについて”知らない”ことが多く、病態・鑑別・Red flags・メカニズム・治療戦略などを医療者の言語でも話せる能力が重要です(共通言語の獲得)。


これらの課題に対して、構造さえ作れれば、質の底上げと連携促進が加速度的に進むと思います。


Q. 鍼灸院って、鍼灸接骨院や鍼灸マッサージなど様々ありますよね?

この質問も重要です。

たしかに、"鍼灸院の種類"が多様にあり、違いが外から判断できません。

どんな鍼灸院に送ればいいの?

◆ 医師は次のような施設の違いを判断しにくい構造:

  • 鍼灸院、鍼灸接骨院、鍼灸マッサージ院

  • 整骨院併設の鍼灸、保険施術も取り扱う鍼灸、自由診療がメインの鍼灸


医師から見ると、

「どこに送れば適切なケアが受けられるのか?」という情報が圧倒的に不足しているように感じます。

→ 医師は“質だけでなく「適切な鍼灸院の種類」すら判別できない”

→ 結果、紹介をためらう。


私の考え

 鍼灸院が多様であること自体は、本来それぞれの地域や患者さんのニーズに応えてきた結果でもあります。しかし、その違いが外から見えないままでは、医師にとっても一般の方にとっても選択が非常に難しくなります。

 結局のところ、医師が安心して患者さんを紹介できるかどうかは、施設の名称よりも 「その鍼灸師がどんな人で、どのような臨床をしているのか」 にかかっていると私は思います。だからこそ、これからの時代は“顔の見える関係性” や”鍼灸師の可視化”が何より重要になると感じています。


大慈松浦鍼灸院

DAIJI MATSUURA SHINKYUIN

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