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鍼灸師キャリア9年目までを振り返って

  • 執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
    大慈松浦鍼灸院
  • 1月10日
  • 読了時間: 5分

1.はじめに

 次の4月で、私は鍼灸師としてのキャリア10年目を迎えます。この節目にあたり、これまでの経験を振り返ってみました。

(長文になりますので)結論から述べると、鍼灸師が臨床家として成長していく過程において、徒弟制度的な学習構造はやはり必要である、ということです。
徒弟制度

 私はこれまで、医療機関と地域の鍼灸院という、性質の異なる二つの環境で勤務してきました。その中で感じてきたのは、「学んでいるはずなのに成長実感が乏しい時期」と、「明らかに臨床家として前に進んでいると感じられる時期」との違いでした。

 この差は、単に経験年数や症例数の問題ではなく、どのような学習が行われていたかに大きく関係しているように思われます。


2.鍼灸師の成長を支える学習は一様ではありません

 成長は、単一の学習方法によって達成されるものではありません。教育学や専門職教育の分野では、学習は複数の性質をもつプロセスとして理解されています。

 鍼灸師の臨床成長に関わる学習は、主に次の4つに整理できると考えます。

  1. 形式による学習

  2. 技能の学習

  3. 経験学習

  4. 省察的学習

※これらは優劣の関係にあるのではなく、キャリア段階や環境によって比重が変化するものです。


3.形式による学習 ― 臨床の土台を支える学習

 形式による学習とは、教科書、講義、論文、試験対策などを通じて得られる知識を指します。

 解剖・生理などの理解や、ガイドラインに基づく標準的な対応を学ぶことは、鍼灸師が医療の一端を担う上で不可欠です。また、医療者間の共通言語を形成し、安全性を担保するという点でも重要な役割を果たします。

 一方で、この学習は、「理解していること」と「臨床で判断・実行できること」との間に乖離を生じやすい側面もあります。試験に合格するための学習が、必ずしも臨床判断力の向上に直結しないと感じる場面は少なくありません。


4.技能の学習 ― 治療を成立させるための学習

 技能の学習では、手本を観察し、模倣し、反復練習を行い、フィードバックを受けながら修正していく過程を通じて身についていきます。

 技能が安定することで、治療そのものは一定の形を持つようになります。しかし、技能もまた単独では完結しません。患者の状態や文脈を踏まえた判断と結びつかなければ、その応用性や再現性は限定的となります。


5.経験学習 ― 臨床判断力を育てる中核的な学習

 経験学習とは、実際の患者対応を通じて行われる学習です。

 治療がうまくいった経験だけでなく、期待した反応が得られなかった経験も含まれます。こうした経験の積み重ねによって、臨床家は判断力や臨床感覚を徐々に形成していきます。

 私自身、成長を実感できたのは、この経験学習が本格的に回り始めた時期でした。ただし、経験学習は量を重ねるだけでは十分ではありません。経験は、省察を伴わなければ単なる出来事として消費されてしまいます。


6.省察的学習 ― 経験に意味づけをする

 省察的学習とは、自身の経験を振り返り、その意味を言語化し、再構成する学習です。

  • なぜその判断を行ったのか

  • なぜうまくいった、あるいはうまくいかなかったのか

  • 他にどのような選択肢が考えられたのか

 このような問いを通じて、経験は再現可能なものへと変換されます。

 省察は独学では限界があり、指導者や同僚との対話が重要な役割を果たします。この省察的学習こそが、経験学習の質を大きく左右すると考えられます。


7.鍼灸師キャリア段階と学習の重心の移行

 鍼灸師のキャリアは、学習の重心が段階的に移行していく過程として捉えることができます。

7-1.初期段階(1~5年目)

 形式による学習や技能の学習が中心となり、安全に施術が行えるように臨床力を養います。それと同時に、指導下での経験学習と省察の支援が不可欠です。

7-2.中堅段階(5~10年目)

 経験学習と省察的学習が成長の中心となり、知識は目的志向的に再学習されていきます。この段階では、自らの臨床判断を言語化できるかどうかが重要になります。

7-3.9年目の現在

 10年目を迎える直前の現在、私は「自らの臨床判断を説明し、他者と共有できるか」が問われる段階にあると感じています。


8.9年目までを振り返って見えてきた「徒弟制度」

 ここで、9年目までの経験を踏まえ、改めて徒弟制度に目を向けます。

 私が成長を最も実感できた学習環境は、まさに徒弟制度的な要素を多分に含んでいたように思われます。

 そこでは、体系化された正解を先に教えられるのではなく、まず臨床の現場に身を置き、実践し、失敗し、その都度修正しながら、指導者(私の場合は父)との対話を通じて意味づけが行われていました。これは、経験学習と省察的学習が日常的に組み込まれた構造であり、徒弟制度の本質的な側面と重なります。

 徒弟制度の価値は、技術の継承そのものよりも、臨床判断の過程や思考の枠組みが、暗黙知として共有される点にあると、9年目までを振り返る中で感じるようになりました。


9.おわりに― 9年目までを振り返って

 本稿では、鍼灸師として9年目までの経験を振り返りながら、臨床家としての成長と学習の在り方について考察してきました。その過程で浮かび上がってきたのが、徒弟制度的な学習構造でした。それは、誰かの技術をなぞることではなく、臨床の現場で何を見て、どう考え、どのように判断しているのかを、そばで感じ取り、対話を通じて修正していく学びの形でした。

 この振り返りは、10年目以降の臨床や今後の指導を考えるための、ひとつの起点に過ぎません。今後も経験を重ねる中で、この考えは更新されていくものだと思っています。


Keyword:鍼灸師キャリア 徒弟制度

 
 
 

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