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1.はじめに

 次の4月で、私は鍼灸師としてのキャリア10年目を迎えます。この節目にあたり、これまでの経験を振り返ってみました。

(長文になりますので)結論から述べると、鍼灸師が臨床家として成長していく過程において、徒弟制度的な学習構造はやはり必要である、ということです。
徒弟制度

 私はこれまで、医療機関と地域の鍼灸院という、性質の異なる二つの環境で勤務してきました。その中で感じてきたのは、「学んでいるはずなのに成長実感が乏しい時期」と、「明らかに臨床家として前に進んでいると感じられる時期」との違いでした。

 この差は、単に経験年数や症例数の問題ではなく、どのような学習が行われていたかに大きく関係しているように思われます。


2.鍼灸師の成長を支える学習は一様ではありません

 成長は、単一の学習方法によって達成されるものではありません。教育学や専門職教育の分野では、学習は複数の性質をもつプロセスとして理解されています。

 鍼灸師の臨床成長に関わる学習は、主に次の4つに整理できると考えます。

  1. 形式による学習

  2. 技能の学習

  3. 経験学習

  4. 省察的学習

※これらは優劣の関係にあるのではなく、キャリア段階や環境によって比重が変化するものです。


3.形式による学習 ― 臨床の土台を支える学習

 形式による学習とは、教科書、講義、論文、試験対策などを通じて得られる知識を指します。

 解剖・生理などの理解や、ガイドラインに基づく標準的な対応を学ぶことは、鍼灸師が医療の一端を担う上で不可欠です。また、医療者間の共通言語を形成し、安全性を担保するという点でも重要な役割を果たします。

 一方で、この学習は、「理解していること」と「臨床で判断・実行できること」との間に乖離を生じやすい側面もあります。試験に合格するための学習が、必ずしも臨床判断力の向上に直結しないと感じる場面は少なくありません。


4.技能の学習 ― 治療を成立させるための学習

 技能の学習では、手本を観察し、模倣し、反復練習を行い、フィードバックを受けながら修正していく過程を通じて身についていきます。

 技能が安定することで、治療そのものは一定の形を持つようになります。しかし、技能もまた単独では完結しません。患者の状態や文脈を踏まえた判断と結びつかなければ、その応用性や再現性は限定的となります。


5.経験学習 ― 臨床判断力を育てる中核的な学習

 経験学習とは、実際の患者対応を通じて行われる学習です。

 治療がうまくいった経験だけでなく、期待した反応が得られなかった経験も含まれます。こうした経験の積み重ねによって、臨床家は判断力や臨床感覚を徐々に形成していきます。

 私自身、成長を実感できたのは、この経験学習が本格的に回り始めた時期でした。ただし、経験学習は量を重ねるだけでは十分ではありません。経験は、省察を伴わなければ単なる出来事として消費されてしまいます。


6.省察的学習 ― 経験に意味づけをする

 省察的学習とは、自身の経験を振り返り、その意味を言語化し、再構成する学習です。

  • なぜその判断を行ったのか

  • なぜうまくいった、あるいはうまくいかなかったのか

  • 他にどのような選択肢が考えられたのか

 このような問いを通じて、経験は再現可能なものへと変換されます。

 省察は独学では限界があり、指導者や同僚との対話が重要な役割を果たします。この省察的学習こそが、経験学習の質を大きく左右すると考えられます。


7.鍼灸師キャリア段階と学習の重心の移行

 鍼灸師のキャリアは、学習の重心が段階的に移行していく過程として捉えることができます。

7-1.初期段階(1~5年目)

 形式による学習や技能の学習が中心となり、安全に施術が行えるように臨床力を養います。それと同時に、指導下での経験学習と省察の支援が不可欠です。

7-2.中堅段階(5~10年目)

 経験学習と省察的学習が成長の中心となり、知識は目的志向的に再学習されていきます。この段階では、自らの臨床判断を言語化できるかどうかが重要になります。

7-3.9年目の現在

 10年目を迎える直前の現在、私は「自らの臨床判断を説明し、他者と共有できるか」が問われる段階にあると感じています。


8.9年目までを振り返って見えてきた「徒弟制度」

 ここで、9年目までの経験を踏まえ、改めて徒弟制度に目を向けます。

 私が成長を最も実感できた学習環境は、まさに徒弟制度的な要素を多分に含んでいたように思われます。

 そこでは、体系化された正解を先に教えられるのではなく、まず臨床の現場に身を置き、実践し、失敗し、その都度修正しながら、指導者(私の場合は父)との対話を通じて意味づけが行われていました。これは、経験学習と省察的学習が日常的に組み込まれた構造であり、徒弟制度の本質的な側面と重なります。

 徒弟制度の価値は、技術の継承そのものよりも、臨床判断の過程や思考の枠組みが、暗黙知として共有される点にあると、9年目までを振り返る中で感じるようになりました。


9.おわりに― 9年目までを振り返って

 本稿では、鍼灸師として9年目までの経験を振り返りながら、臨床家としての成長と学習の在り方について考察してきました。その過程で浮かび上がってきたのが、徒弟制度的な学習構造でした。それは、誰かの技術をなぞることではなく、臨床の現場で何を見て、どう考え、どのように判断しているのかを、そばで感じ取り、対話を通じて修正していく学びの形でした。

 この振り返りは、10年目以降の臨床や今後の指導を考えるための、ひとつの起点に過ぎません。今後も経験を重ねる中で、この考えは更新されていくものだと思っています。


Keyword:鍼灸師キャリア 徒弟制度

 年末の紅白歌合戦で、Mrs. GREEN APPLE の大森さんが「見上げてごらん夜の星を」を歌う場面をテレビで眺めていました。


 その歌詞の中にある「僕らのように 名もない星が…」という一節に、日々臨床に向き合う鍼灸師の姿とふと重なりました。名を知られる存在ではなくても、それぞれが迷い、模索し、ときには手探りのまま、患者さんと向き合い続けているような姿です。

 そう考えると、鍼灸治療という行為そのものは、臨床を形づくる要素のひとつにすぎないのだと感じます。人柄や出会い、土地の空気、文化や時代との関係など、さまざまな要素が折り重なって、はじめて臨床という営みは形を帯びるのだと思います。


 さらに思いを巡らせると、かつて鍼灸の名人と呼ばれた偉大な先生方の歩みもまた、現在の私たちの臨床に影響を与えていることに気づかされます。直接出会う機会のなかった世代であっても、その技術観や患者さんへの姿勢は、指導者や先輩を通して受け継がれ、いまも息づいているように感じます。私たちが治療の中で頼りにしている感覚や判断のよりどころの一部には、そうした先人たちの経験の蓄積が流れ込んでいるのでしょうか。


 そして、いまの私たちの臨床もまた、いずれ次の世代へと何らかの形で残っていくのだと思います。目立つ成果ではなくても、日々の取り組みの一つひとつが、誰かの学びや支えへとつながる可能性があります。そんなことに思いを巡らせてみました。

見上げてごらん夜の星を

  • 執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
    大慈松浦鍼灸院
  • 2025年12月24日

鍼灸師がカルテを書くことには、確かなメリットがあります。

1. 臨床の質を高める
2. 患者理解を深める
3. 医療連携を支える
4. フィードバックできる
5. 自身と鍼灸院の価値を積み上げる
ための、実践的な手段となります。

カルテの書き方をツールを使って学ぶことができます。

鍼灸院カルテの書き方ツール

このページでは、カルテを書く上で知っておきたいルールが記述されています。


鍼灸師が「カルテを書く」ことの意義とは何か

鍼灸師にとってカルテは、単なる「施術記録」ではありません。それは、患者さんの訴えを医学的に整理し、治療の質を担保し、他職種と共有するための重要な医療文書です。

しかし現場では、「何を書けばよいかわからない」「書いてはいるが、これで十分なのか不安」と感じている鍼灸師も少なくありません。

本稿では、鍼灸師がカルテを書くことの本質的な意義について整理します。


1.カルテは「記録」ではなく「臨床思考の可視化」である

カルテとは、単に症状や施術内容を残すためのメモではありません。本来、カルテは以下を文章として可視化する作業です。

  • 患者さんは、何に困っているのか

  • その訴えは、いつ・どのように始まり、どう変化しているのか

  • 施術者は、その情報をどう解釈し、どう判断したのか

つまりカルテを書くことは、自分自身の臨床思考を整理し、言語化するプロセスでもあります。


このプロセスを経ることで、・思い込みによる判断・経験則だけに頼った施術を避けることができ、臨床の再現性と安全性が高まります。


2.患者理解を深めるためのツールとしてのカルテ

カルテは、患者さんの背景を立体的に捉える助けになります。

同じ「肩の痛み」でも、

  • 仕事のストレスが背景にあるのか

  • 睡眠障害や不安が影響しているのか

  • 生活習慣や既往歴が関与しているのか

によって、アプローチは大きく異なります。


カルテを書く過程で、「この症状は、患者さんの生活のどこに影響しているのか」「患者さん自身は、どう捉えているのか」と問い直すことができ、より患者中心の医療に近づきます。


3.医療連携における「共通言語」としてのカルテ

近年、医師や他職種との連携が求められる場面が増えています。その際に重要になるのが、第三者が読んで理解できるカルテです。

  • 主観情報と客観情報が整理されている

  • 推測と事実が区別されている

  • 医学的に不適切な断定が避けられている

こうしたカルテは、紹介状・施術報告書・情報共有の質を大きく高めます。

カルテを書く力は、鍼灸師が医療の中で信頼される専門職として位置づけられるための基盤でもあります。

カンファレンス

4.カルテを書く力は、鍼灸師の「成長記録」でもある

過去のカルテを振り返ることで、

  • 自分の評価が適切だったか

  • 施術方針は妥当だったか

  • 患者の経過をどう捉えていたか

を検証できます。

これは、臨床経験を経験で終わらせず、学習に変える作業です。カルテは、鍼灸師自身の成長を支える記録でもあります。


5.カルテは「資産」であり、経営とも密接に関わってくる

カルテは、日々の診療を支える記録であると同時に、鍼灸院にとっての重要な「資産」でもあります。

適切に記載されたカルテが蓄積されることで、

  • どのような症状の患者さんが多いのか

  • どの治療方針が、どのような経過をたどりやすいのか

  • 通院頻度や治療期間はどの程度が多いのか

といった情報を、感覚ではなく記録として把握できるようになります。

これは、治療方針の見直しや専門性の明確化、さらにはホームページや説明資料における情報発信にも直結します。


また、カルテは経営面においても重要な役割を果たします。

  • 治療内容や経過を根拠をもって説明できる

  • 患者さんからの信頼を継続的に得やすくなる

  • 医師や他職種との連携が円滑になり、紹介につながる

こうした積み重ねは、結果として「選ばれる鍼灸院」であり続けるための基盤となります。

カルテを丁寧に書くという行為は、目の前の患者さんのためであると同時に、鍼灸院の将来価値を高める投資でもあるのです。


「書くのが大変だから」「時間がないから」と避けるのではなく、 どう書けば、臨床に役立つのかを考えることが重要です。


Keyword:鍼灸師 カルテ 書き方 鍼灸

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