鍼灸治療ってどんな感じ?
松浦知史 監修
Q. 鍼灸ってどんなことするんだろう?
初めて鍼灸を受ける方にとっては、
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「鍼って痛いのかな?」
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「どんなふうに進むの?」
と、不安や疑問を感じる方も多いと思います。
鍼灸は、施術者によって流派や考え方に違いがあります。ここでは当院の鍼灸治療の流れをご紹介いたします。

鍼灸治療の流れ
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➀ 問診
まずは、お話をうかがいます。
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これまでのこと
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月経周期や基礎体温のこと
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病院での検査結果や治療歴
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睡眠・食事・ストレスなどの生活習慣
をふまえて、お体の状態を東洋医学・西洋医学の両面から評価していきます。
※「病院に通いながら並行して鍼灸を受けたい」という方も、どうぞご相談ください。
② 体の状態を確認(舌・脈・お腹など)
東洋医学的な診察では、以下のようなことを観察します:
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舌の状態(色・厚み・苔の有無など)
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脈のリズムや強さ
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お腹の冷えや張り、圧痛の場所
これらを参考にして、ツボの選定や治療方針を立てます。
③ 鍼灸治療(約30〜40分)
必要なツボに、必要な量の鍼をしていきます。
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使用する鍼は髪の毛ほどの細さ
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鍼が刺さってもほとんど痛みはありません
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お灸を併用することもあります
④ 施術後のフィードバック・今後のプラン
施術後は、
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体の変化
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次回の通院ペース
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(必要であれば)セルフケアや養生アドバイス
などをご案内します。
※ 週1回のペースを基本に、排卵日や移植日に合わせて施術することもあります。
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当院では、不妊症をはじめとする体の不調に対して、① 共通治療、② 個別治療、③ 特異的治療という3つの視点から鍼灸施術を行っています。
① 共通治療
当院では、すべての患者さんに共通して使う「共通治療」のツボの中から、その方の体質や症状に合わせて適切なツボを組み合わせて治療を行っています。
先行研究ではこんなことがわかっています:
👉 卵巣刺激低反応に対する鍼治療の有効性
▶ Acupuncture for Poor Ovarian Response: A Randomized Controlled Trial.
この研究では、卵巣機能を高める可能性のある経穴の組み合わせにも注目しました。明確なツボの選定と統一を試みた結果、以下のような患者群において鍼治療の有用性が報告されました。
✔ 対象患者
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37歳以上の女性
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過去に2回以上のCOH(調節卵巣刺激)を行った経験がある患者
✔ 結果
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鍼治療群では採卵数と受精卵数が有意に増加
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特に「胚移植可能な受精卵(胚盤胞)に成長する割合」が増加
この結果は、一定期間(クール)にわたる鍼灸介入が、低反応群に対しても有意な改善効果を持つ可能性を示しています。
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Kimらの研究で選定された主要な経穴
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中極(CV3)
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関元(CV4)
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子宮(EX-CA1)
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太衝(LR3)
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太谿(KI3)
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三陰交(SP6)
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血海(SP10)
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足三里(ST36)
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これらの経穴は、生殖機能、内分泌バランス、気血の巡りに関与するとされており、韓医学医師らのディスカッションを経て選出された27経穴の中から、特に有効性が期待されるものとして抽出されたものです。当院においてもこの治療法を参考にしています。以下のようなツボを選ぶことが多いです。


共通治療穴
② 個別治療
原因がはっきりしている場合や、その方の体質・病態に特徴がある場合には、東洋医学的な診断に基づいて、その人に合ったツボを選んで施術します。
たとえば:
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「冷え」が強い方には、腎陽を補うツボ
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「ストレスや緊張」が強い方には、肝の調整
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「気虚や疲労感」が強い方には、脾や胃の強化
といったように、一人ひとりに合わせた治療を行います。
③ 特異的治療
さらに、不妊症や婦人科疾患に対して、
臨床研究などでも有効性が高いとされる「特異的なツボ」を積極的に活用しています。
たとえば:
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関元(CV4)…腎を補い、子宮機能を高める
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帰来(ST29)…子宮周囲の血流促進
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三陰交(SP6)…肝・腎・脾の調整、ホルモンの安定化
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陰陵泉(SP9)…代謝・湿の排除、インスリン抵抗性の改善
など、症状や疾患に特に関連の深い経穴を選んで施術します。
また、臨床研究などでも有効性が高いとされている「刺鍼方法」も積極的に活用しています。
中髎穴刺鍼または陰部神経刺鍼とは?
● 中髎穴(BL33)
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骨盤内臓器(子宮・卵巣・膀胱など)と関係が深く、仙骨孔からアクセスします。
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【適応】婦人科疾患(生理痛・不妊症・子宮内膜症など)、泌尿器系症状。
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【刺鍼方法】
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第3仙骨孔に向けて、長鍼を用いて45〜60度の角度で斜刺。
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髄膜や神経根への影響を考慮して、慎重な手技が必要。
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● 陰部神経刺鍼
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陰部神経は仙骨神経叢(S2~S4)から出て、骨盤内の臓器・会陰・外陰部の感覚・運動に関与。
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【適応】慢性骨盤痛、性交痛、会陰部の神経痛、難治性の婦人科疾患、不妊症の補助療法。
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【刺鍼方法】
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陰部神経ブロックと類似の刺鍼ルートをとり、坐骨棘付近〜仙結節靱帯付近を狙う。
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解剖学的知識と高度な刺鍼技術が必要。
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●陰部神経鍼通電療法
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難治性の骨盤内疾患や不妊症において、鍼+通電により神経再活性や血流改善を図る治療法。
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【手技】
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陰部神経周囲に刺鍼したうえで、低周波(2Hzや2/100Hz交互)を通電。
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目安:10〜20分、週1〜2回。
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推定されるメカニズム
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骨盤内血流の増加(卵巣・子宮周囲)
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仙髄〜視床下部経路の調整(ホルモン軸への作用)
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会陰・外陰部の感覚神経を介した反射的調整
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β-エンドルフィン・5-HT放出など神経伝達物質の活性化
✅ 臨床的には、共通治療+個別治療で反応が乏しい場合の治療法として位置づけるのが現実的です。

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採卵に向けた治療 ⇒ 陰部神経刺鍼
※反応が悪い場合には鍼通電療法の適応
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胚移植に向けた治療 ⇒ 中髎穴刺鍼
※着床に問題がある場合には回旋も追加
※実際には中髎穴刺鍼と陰部神経刺鍼を併用する場合もあります
胚移植当日の鍼灸について
当院では、胚移植当日にご希望があれば、「移植前」と「移植後」の2回に分けて鍼灸治療を行っています。
実際に、胚移植の前後に鍼灸を受けることで、臨床妊娠率が向上したという報告もあり、とても大切なタイミングと考えられています。
「できることはしっかりサポートしたい」と考える方に、ぜひおすすめしたい治療です。ご希望の方は、お気軽にご相談ください。

