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Acupuncturist

地域医療における鍼灸師の役割とは

​鍼灸師ってなにしてるの?

地域における鍼灸師が実際にどんなことをしているのか、イメージしにくいのではないでしょうか?

 私は、地域における鍼灸師の役割は大きく3つあると考えています。


3つの役割
(1)日常的によく遭遇する病気や健康問題の大部分を適切に診る(鍼灸の適応と不適応の的確な判断も含めて)、
(2)必要に応じて適切な医療への橋渡しを行い、健康増進を図る、
(3)医療・福祉・保健との連携を行うことです。

鍼灸師が対応している患者像

  • 検査で異常が認められないが症状は残存

  • 治療で十分な効果が得られていない

  • 治療後にも症状が残っている

  • 現在の治療に加えて、さらなる効果を期待される

などが挙げられ、実際に幅広い対応が求められています。

 こうした患者さんにとって、鍼灸治療は多くの場合において有効であり、一定の治療効果を期待することができます。しかし一方で、鍼灸不適応となるケースや、重大な健康問題を抱えている方も存在するため、必要に応じて医師への紹介や他職種との連携が不可欠です。

 そのためには、医療・福祉・保健との連携体制を整備することが重要ですが、現状では鍼灸院を含めた連携システムは未確立であり、その構築が今後の課題となっています。

 

こうした連携体制の構築を進めていくためには、鍼灸の有効性安全性の科学的根拠を提示し、鍼灸の作用機序を明らかにすることが重要です。

 

 この点については、過去15年ほどで、鍼灸に関するランダム化比較試験(RCT)、システマティックレビュー(SR)、メタアナリシス(MA)が増加しており、National Databaseを用いた研究も増えてきています。さらに、基礎研究の分野でも鍼灸の作用機序が徐々に明らかになってきており、現在では一定の科学的説明が可能な段階に到達しています。

 しかし、それらを現場で実施する鍼灸師の臨床能力の質的担保がまだ十分ではなく、卒後教育や研修制度の整備が今後の大きな課題といえます。鍼灸師の臨床能力が一定水準に達していることは、地域医療に貢献するための必要十分条件の一つであり、その実現が医療・福祉・保健との本格的な連携を可能とする鍵になると私は考えています。

鍼灸 論文数

図1. 鍼灸の文献数(2024年5月現在でPubMedで"Acupuncture"と検索

今後、必要なこと

 今後の鍼灸において、鍵となるキーワードは「医療連携」だと考えています。

 そして、現代医学と東洋医学の両方に精通し、医師と連携できることを基準とし、診療ガイドラインなどに準拠し、特定の疾患や症状に特化した専門性の高い知識や臨床能力を有した鍼灸師が各分野で活躍することが期待されています。

 さらに、専門医に鍼灸治療の有効性を理解してもらうには、「効果があるから効いている」ではなく、「どのように、どの程度、何に効いているか」を示すことも必要になってくると思います。

「診鍼連携」とは?

 当院では、この課題に対応するために『診鍼連携』を推進しています。
 これは、医療機関と鍼灸院が相互に情報を共有しながら、患者さんにとって効果的な治療を提供できるよう協力する仕組みです。

  • 医師から鍼灸院への紹介

  • 鍼灸院から医師への施術報告

 

この双方向のやり取りを通じ、患者さんの治療経過を安心して見守ることが可能になります。

実際の取り組み事例

  • 精神科医療での分野
     現在、地域全体で患者さんを支える仕組み(鍼灸師 ⇄ 精神科医をつなぐネットワーク)として、APネットワークが構築されつつあります。

    🔽 [APネットワーク ➡ Click👆]

  • がん治療中・治療後の鍼灸治療
     当院では、がん患者さんに鍼灸を導入する際に必要な情報を整理した紹介・連携用の資料を作成し、運用を試みています。医師・看護師の方々が紹介しやすく、また患者さん自身も安心して受診できるよう工夫しています。

    🔽 [がん治療と鍼灸 ➡ Click👆]

📝【2017〜2022年 鍼治療SR/MAの包括的レビューまとめ】

Moritz Hempen, Josef Hummelsberger, Complementary Therapies in Medicine, 2025

🔍 分析対象

  • 対象期間:2017年~2022年発表の862件のSR/MA

  • 収集・評価対象条件:PubMed 検索により“acupuncture”を含むSRおよびメタアナリシスを抽出し、184疾患に分類

  • 評価基準:各SR/MAをレビューの質(QoR)、データの質(QoD)、エビデンスの質(QoE)で評価

🔹 以下の4カテゴリへ分類

  • Positive Effect(明確な効果)

  • Potentially Positive Evidence(効果の可能性あり)

  • Insufficient/Unclear Evidence(不十分・不明瞭)

  • No Evidence of Effect(効果なし)

主なハイライト

  • 対象期間中、鍼治療に関するエビデンスの「量」と「質」はともに大きく向上しました。

  • 10の疾患において明確な効果(Positive Effect)が確認され、82の疾患において効果の可能性(Potentially Positive Evidence)が示唆されました。

  • 一方、86の疾患ではエビデンスが不十分6疾患では効果なしと評価されました。

  • 総じて、鍼治療は安全性が高く、多くの疾患領域で臨床的検討に値すると結論づけられています。

エビデンス 鍼灸

1️⃣ Clear Positive Effect:10件

  1. 慢性腰痛

  2. 変形性膝関節症

  3. 緊張型頭痛

  4. 片頭痛

  5. 術後の吐き気・嘔吐(PONV)

  6. がん関連疲労(CRF)

  7. 更年期障害

  8. 女性不妊(IVF補助)

  9. 慢性前立腺炎 / 慢性骨盤痛症候群

  10. 肩痛・肩関節周囲炎

2️⃣ Potentially Positive Evidence:82件

※「効果が期待されるが、エビデンスの質や数が不十分、または相反するデータが存在する」疾患群です。

🔹 精神・神経領域

  • 不眠症、うつ病、不安障害、線維筋痛症、BPSD(認知症周辺症状)、神経障害性疼痛 など

🔹 婦人科・泌尿器領域

  • 月経困難症、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)、更年期障害、尿失禁・過活動膀胱

🔹 消化器内科領域

  • IBS(過敏性腸症候群)、便秘、機能性消化不良、悪心、逆流性食道炎(GERD)

🔹 運動器・整形外科領域

  • 頸部痛、肩こり、テニス肘、顎関節症、急性痛(術後痛など)

🔹 呼吸器・アレルギー領域

  • アレルギー性鼻炎、喘息(補助療法として)、慢性咳嗽

➡︎ これらは効果が示唆されつつも「RCT数不足」「バイアスリスク」「プロトコル非一貫性」など課題が残る。

3️⃣ Inconclusive Evidence:86件

※「現時点では結論を出すには情報が不十分」な領域です。

  • 例:脳卒中後遺症改善、パーキンソン病、認知症、心血管疾患(高血圧予防など)、COPD、乳児疝痛、慢性疲労症候群 など

➡︎ 今後の大規模・質の高いRCTの実施が必要。

4️⃣ No Evidence of Effect:6件

「効果が認められなかった疾患」

  • 禁煙補助、高血圧、パーキンソン病運動症状、COPD、脳卒中後ADL、心血管疾患予防

➡︎ 標準治療優先とするべきと明記

🔍 総括(Summary)

1. 「エビデンスのある疾患」と「未確立な領域」が明確化された

  • 鍼灸は特定の疾患群では「明確な効果あり」と評価されました。

  • 一方で、精神疾患や消化器・婦人科領域は「有望だがエビデンスがまだ不十分」という「可能性段階」にとどまるものが多かったです。

  • さらに、脳血管疾患、認知症、COPDなどでは「判断保留」とされ、一部では「効果なし」と結論されたものも示されました。

2. エビデンスの「質と量」の問題も依然残る

  • 多くのSR/MAが「質の低いRCT」「症例数不足」「非盲検」など方法論的限界を抱えると指摘されています。

  • これが「Potentially Positive」や「Inconclusive」に多く分類された理由とされています。

  • 今後、質の高い臨床研究の蓄積が不可欠であると、改めて強調されています。

エビデンス 鍼灸

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