Acupuncturist
地域医療における鍼灸師の役割とは
鍼灸師ってなにしてるの?
地域における鍼灸師が実際にどんなことをしているのか、イメージしにくいのではないでしょうか?

PROFILE
鍼灸師 松浦知史
東京有明医療大学主席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。埼玉医科大学東洋医学科、同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。父も鍼灸師で元全日本鍼灸学会評議員ならびに群馬地方会会長、鍼灸師歴40年以上で大慈松浦鍼灸院を開業して35年。兄も鍼灸師で東京有明医療大学助教。専門は精神科領域でその研究成果は専門学会・雑誌だけでなく、NHKをはじめとしたメディアにも多数紹介されている。
地域における鍼灸師の役割は3つあると私は考えています。それは、(1)日常よく遭遇する病気や健康問題の大部分を適切に診療する(2)適切な医療への導入を促し健康増進を行う(3)医療・福祉・保健の連携を行う―ということです。
地域における鍼灸師の取り扱う患者像として、①検査を受けたが異常が認められない、②現在受けている治療で十分な効果が得られていない、③治療を受けたのに症状が残っている、④現在の治療と併用して治療効果を高めるなど幅広い対応を行なっており、こうした受け皿となる役割も果たしています。上記の場合でも多くの場合は鍼灸の適応であり、鍼灸治療が可能で、一定の効果を期待することもできます。しかし、鍼灸を受療する患者さんの一部にも重大な健康問題を抱えた方や鍼灸の不適応となる場合などもあり、必要に応じて医師と連携あるいは紹介するという方法がよいと考えています。そのためには医療・福祉・保健の連携を行うことが重要になってきますが、鍼灸院との連携システムは未確立であるため、その関係を築きにくいのが現状です。
このシステムを確立していくためには鍼灸の有効性や有用性などの科学的根拠を示し、作用機序についてもさらに明らかにしていくことが重要となりますが、この問題についてもここ15年くらいで鍼灸に関するRandomized controlled trialやSystematic Review 、Meta-analysisが増えてきています(図1)。なかにはNational databaseを使った研究も増えてきています。基礎研究においても鍼灸の作用機序が年々明らかとなってきおり、鍼灸の科学的根拠や作用機序についてもある程度説明可能な状態にまでなってきました。しかし、その鍼灸を実施する鍼灸師の質の担保がなされていないのが今後の課題になってくると推測しており、卒後教育においても研修制度の確立や鍼灸師の臨床能力が一定水準に達していることが、地域医療に貢献するための十分条件に含まれてくると私は考えています。この十分条件を満たすことが今後、医療・福祉・保健との連携を確立させていく上で欠かせない要素になるとも考えています。

図1. 鍼灸の文献数(2024年5月現在でPubMedで"Acupuncture"と検索)