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鍼を刺した後に、くるくる回す!?「結合組織」から考える鍼治療の仕組み

  • 執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
    大慈松浦鍼灸院
  • 21 時間前
  • 読了時間: 5分

鍼治療は、細い鍼を皮膚に刺して行います。

大慈松浦鍼灸院 鍼と鍼管

では、鍼が体に入ったとき、その周囲では何が起きているのでしょうか?

鍼の作用は「血流を良くする」と説明されることが多いのですが、それだけではありません。鍼を刺したり、少し回したりすると、皮膚の下にある結合組織にも小さな変化が起こります。


今回は、2002年の研究と2025年のレビュー論文をもとに、鍼治療の機序の一つである、鍼と結合組織の関係を紹介します。


鍼のまわりに組織が巻きつく

皮膚の下には、筋肉や神経、血管などを包み、互いにつないでいる結合組織があります。一般に「筋膜」と呼ばれる組織も、この結合組織の一部です。


2002年のLangevinらの論文では、鍼を回旋したときに、周囲のコラーゲン線維が鍼体へ巻きつく様子が示されています。

鍼の回旋によって結合組織が鍼体に巻きつく様子
Langevinら(2002)Fig. 2 鍼を回旋すると、周囲の結合組織が鍼体へ巻きつきます。これにより、鍼の動きが周囲の組織へ伝わりやすくなると考えられています。

たとえるなら、フォークをパスタの中で回したときに、麺がフォークへ巻きつくようなイメージです。もちろん実際の組織はパスタとは異なりますが、鍼を回すことで、鍼と周囲の組織が力学的につながる点は理解しやすくなります。

組織が鍼に巻きつくと、鍼を持つ施術者の手には、わずかな抵抗として伝わります。研究では、この現象をneedle grasp(ニードル・グラスプ)と呼んでいます。


ツボは筋肉の「境目」に多い?

こちらは、肘から肩に向かって上腕を輪切りにした解剖画像です。赤い部分は主に筋肉で、筋肉と筋肉の間に見える白っぽい線が結合組織面です。色の付いた印は、経穴と経絡の位置を示しています。

上腕の経穴と筋間・筋内の結合組織面の位置関係
Langevinら(2002)Fig. 4 経穴の多くは、筋肉間または筋肉内の結合組織面と一致していました。

研究者らは、鍼灸の教科書に記載された解剖学的な目印をもとに、上腕にある24か所の経穴を断面図へ重ねました。その結果、経穴の80%以上が、筋肉と筋肉の間、または筋肉内の結合組織面と一致していたと報告しています。


図をよく見ると、二重丸で示された経穴の多くが、筋肉の中央ではなく、筋肉どうしの境目や複数の組織が交わる場所に位置しています。

研究者らは、経穴がこのような場所にあることで、刺した鍼がより多くの結合組織と接触し、鍼を回したときの力が周囲へ伝わりやすくなる可能性を考えました。

一方で、すべての経絡が結合組織面に沿っていたわけではありません。経絡が各断面を通過する位置では、結合組織面との一致は約50%でした。特に小腸経は、経絡そのものが明確な結合組織面に沿っているとは判断されませんでした。

この研究が示したのは、経穴の位置と結合組織との間に、偶然だけでは説明しにくい解剖学的な対応があるかもしれない、という可能性です。


その「力」を細胞が受け取る

では、鍼によって結合組織が引かれると、その先では何が起こるのでしょうか。


2025年にLiangらが発表したレビューでは、鍼の刺入や回旋によって生じる力が、組織や細胞へどのように伝わるのかが整理されています。

鍼が皮膚・真皮・皮下組織を通過する模式図
Liangら(2025)Fig. 1 鍼は表皮、真皮、皮下組織など、性質の異なる組織を通過します。それぞれの層で、鍼に加わる抵抗や周囲の組織反応が異なります。

鍼を回すと、コラーゲン線維が鍼へ巻きつき、周囲の細胞外マトリックスが引かれます。細胞外マトリックスとは、細胞の周囲を満たし、細胞を支えている足場のようなものです。

その足場が動くと、そこに接している線維芽細胞も力を受け取ります。線維芽細胞は、結合組織をつくり、維持している細胞です。力を受けた線維芽細胞では、細胞の形や内部構造が変化することが報告されています。


メカノトランスダクションという仕組み

細胞には、押される、引っ張られる、ねじられるといった物理的な力を感じ取る仕組みがあります。この力を細胞内の化学的・電気的な反応へ変換する仕組みを、メカノトランスダクション(mechanotransduction)といいます。

難しい言葉ですが、簡単にいえば、「力を生体の信号へ変える仕組み」です。


鍼刺激では、次のような流れが考えられています。

  1. 鍼を刺したり回したりする

  2. 鍼の周囲の結合組織が引かれる

  3. その力を線維芽細胞などが受け取る

  4. 細胞の形や働きが変化する

  5. 周囲の神経、血管、免疫系などに関係する反応へつながる可能性がある


このとき、細胞表面にあるPiezoチャネルTRPチャネルなどの機械感受性イオンチャネルが、力を感じ取るセンサーとして働く可能性も研究されています。

鍼刺激による機械感受性イオンチャネルの反応
Liangら(2025)のFig. 4 鍼による機械刺激を細胞が受け取る仕組み。PiezoやTRPなどの機械感受性イオンチャネルが反応し、カルシウムイオンの流入やATPの放出につながる可能性が示されています。

2002年から2025年までに分かってきたこと

2002年の研究では、鍼を回すと結合組織が巻きつき、周囲の組織へ力が伝わるという現象が注目されました。また、経穴と結合組織面との位置関係も検討されました。

その後の研究をまとめた2025年のレビューでは、その力を線維芽細胞や機械感受性イオンチャネルが受け取り、細胞内の反応へ変換する可能性まで論じられています。


つまり研究の焦点は、次のように進んできました。

鍼と組織がどのように動くのか

その動きを細胞がどのように感じ取るのか

細胞の反応が神経・血流・免疫などとどう関係するのか


鍼治療の作用は、結合組織だけで説明できるものではありません。末梢神経、脊髄、脳、自律神経系など、ほかの経路も関わると考えられています。今回紹介したメカノトランスダクションは、鍼治療の機序を考えるうえでの一つの有力な視点です。


まとめ

鍼を刺したり回したりすると、皮膚の下では結合組織がわずかに変形します。その力を線維芽細胞などが受け取り、生体内の信号へ変換する可能性があります。これが、鍼刺激におけるメカノトランスダクションという考え方です。


ただし、こうした組織や細胞の反応が、実際の症状改善にどの程度関与しているのかは、まだ十分に解明されていません。また、経穴と結合組織面の関係についても、全身で確立したわけではありません。

それでも、鍼を単に「血流を良くする」としてではなく、組織へ小さな力を加え、その力を細胞へ伝える治療刺激として捉える研究は、鍼治療の仕組みを理解する大切な手がかりになっています。


参考文献

  1. Langevin HM, Yandow JA. Relationship of acupuncture points and meridians to connective tissue planes. Anat Rec. 2002;269(6):257–265. doi:10.1002/ar.10185

  2. Liang Y, Xu C, Zhang P, Quan H, Liang X, Lu L. Integrative research on the mechanisms of acupuncture mechanics and interdisciplinary innovation. BioMed Eng Online. 2025;24:30. doi:10.1186/s12938-025-01357-w

 
 
 

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