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鍼通電刺激で炎症反応はどう変わる? 好中球の「群がり」を生体内で観察

執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
大慈松浦鍼灸院
3 時間前
読了時間: 6分

鍼刺激が炎症反応に影響する可能性については、これまで神経科学や免疫学の研究から少しずつ仕組みが明らかになってきました。

しかし、炎症が起きている身体の中で、免疫細胞が実際にどのように動き、鍼通電刺激によってその動きがどう変化するのかを直接観察することは簡単ではありません。


2026年、『Nature Biotechnology』に掲載された研究では、新しく開発された顕微鏡システム「RUSH3D-HR」を使い、生きたマウスの体内で数千個の免疫細胞を追跡しました。


その結果、炎症によって好中球が集団で集まる現象が観察され、足三里(ST36)への鍼通電刺激によって、この集団行動が大きく減少することが報告されました。1)


これまでの顕微鏡では「広さ」と「細かさ」の両立が難しかった

細胞を詳しく観察するには、高い倍率と解像度が必要です。

ところが、細かく見るほど一度に観察できる範囲は狭くなります。反対に、広い範囲を観察すると、一つひとつの細胞の細かな動きを捉えることが難しくなります。


この問題を解決するために研究グループが開発したのが、RUSH3D-HRという生体イメージングシステムです。


RUSH3D-HRでは、約390 nmという細胞内部の構造まで観察できる解像度を保ちながら、約2.7 × 2.0 mmという比較的広い範囲を3次元で撮影できます。さらに、1秒間に5回の3次元画像を取得できるため、多数の細胞が時間とともにどのように移動するのかを追跡できます。1)


従来は「一部の細胞を詳しく見る」ことが中心でしたが、この技術によって、「多数の細胞を詳しく、しかも長時間見る」ことが可能になりました。


RUSH3D-HR生体イメージングシステムの概要と高解像度・広視野の比較
RUSH3D-HRで観察できる範囲RUSH3D-HRは、細胞内の小さな構造から、多数の細胞が存在する広い範囲までを高い解像度で観察できる生体イメージングシステムです。

炎症が起こると、好中球が集団で集まる

研究グループは、LPSという物質をマウスに投与して急性炎症を起こし、脾臓の中にいる好中球を観察しました。

好中球は、細菌感染や組織障害などが起こったときに早い段階から働く免疫細胞です。


RUSH3D-HRを使って多数の好中球を長時間観察すると、炎症を起こした脾臓では、複数の好中球が同じ場所へ集まっていく現象が繰り返し観察されました。

このような集団行動は「neutrophil swarming(好中球スウォーミング)」と呼ばれます。単に好中球の数が増えているだけではありません。周囲にいる好中球が同じ場所へ向かって移動し、一時的に集団を形成していました。

研究では、一つのスウォーミングが約20〜180分続き、約1,000〜4,000 µm²の範囲に広がることも確認されています。1)


つまり炎症は、「免疫細胞が増えている」という静止した状態だけではなく、多数の細胞が移動し、集まり、変化していく動的な現象として観察できることになります。


LPS炎症モデルのマウス脾臓で観察された好中球スウォーミング
炎症時にみられた好中球のスウォーミングLPSによって炎症を起こしたマウスの脾臓では、好中球が特定の場所へ集まる集団行動が繰り返し観察されました。

足三里への鍼通電刺激を行うとどうなったのか

次に研究グループは、LPSによって炎症を起こしたマウスの足三里(ST36)に鍼通電刺激を行いました。

刺激条件は、左右の足三里に鍼を刺入し、10 Hz、0.5 mA、パルス幅50 μs、20分間という条件でした。


その後、脾臓で起こる好中球の動きをRUSH3D-HRで観察しました。

その結果、鍼を刺しているものの電気刺激を行わない0 mA群では、炎症による好中球スウォーミングが引き続き観察されました。

一方、0.5 mAで鍼通電刺激を行った群では、好中球が一か所へ集まる集団行動が大きく減少しました。


研究者らの解析では、好中球のスウォーミングは、LPSのみの群や0 mAの群と比較して5分の1以下に減少しています。


足三里ST36への鍼通電刺激後に減少した好中球スウォーミング
足三里への鍼通電刺激後に好中球のスウォーミングが減少LPSによって炎症を起こしたマウスでは、脾臓で好中球のスウォーミングがみられました。一方、足三里に0.5 mAの鍼通電刺激を行った群では、この集団行動が大きく減少しました。

この研究のどこが興味深いのか

鍼通電刺激と炎症の研究そのものは、今回が初めてではありません。


これまでの基礎研究では、鍼通電刺激の部位や刺激強度によって異なる自律神経経路が働くことが示されています。2020年の研究では、刺激部位や強度によって交感神経系を含む異なる経路が働くことが報告されました。2)

さらに2021年の研究では、マウスの足三里付近への低強度の鍼通電刺激が、特定の感覚神経を介して迷走神経―副腎系を活性化し、全身性の炎症反応を抑える経路が示されています。3)


今回の研究が興味深いのは、こうした神経経路を調べるのではなく、鍼通電刺激を行ったあとに、離れた場所にある脾臓の免疫細胞がどのように振る舞っているのかを、生きた状態で直接観察したことです。


これまで炎症反応を調べる際には、サイトカインなどの物質を測定したり、組織を採取して調べたりする方法が多く用いられてきました。

RUSH3D-HRでは、それとは異なり、「炎症が起きているとき、免疫細胞は実際にどのように動いているのか?」を観察できます。

今回、鍼通電刺激後に好中球の集団行動が変化する様子を生体内で捉えられたことは、これまでの神経―免疫研究とは異なる角度から、炎症反応の変化を観察した結果といえます。


ただし、今回の研究はマウスを用いた基礎研究であり、ヒトを対象とした臨床試験ではありません。また、鍼通電刺激を比較した実験では各群3匹と、動物数も限られています。

この研究で直接観察されたのは、脾臓における好中球スウォーミングの変化であり、今回の研究から言えるのは、「LPSによって炎症を起こしたマウスでは、足三里への鍼通電刺激後に、脾臓でみられる好中球のスウォーミングが大きく減少した」というところまでです。


鍼刺激による身体反応を「見る」研究へ

鍼刺激の作用機序を調べる研究では、これまで神経活動や神経伝達物質、サイトカインなど、さまざまな指標が使われてきました。

今回の研究では、そこに「多数の免疫細胞が生きた身体の中でどのように動いているのかを見る」という方法が加わりました。

特に興味深いのは、足三里に鍼通電刺激を行ったあと、離れた場所にある脾臓で、好中球の集団行動の変化をリアルタイムに捉えたことです。


この研究だけで、鍼通電刺激による抗炎症作用の仕組みがすべて明らかになったわけではありません。

一方で、これまで研究されてきた神経回路と、実際に起こる免疫細胞の動きを結びつけて考えるための新しい観察方法が示されたことは重要です。

今後、神経活動や分子レベルの解析と、このような生体イメージングを組み合わせることで、鍼刺激によって身体の中で何が起きているのかを、より詳しく調べられるようになると考えられます。


参考文献

  1. Lu Z, Wang M, Chen W, et al. High numerical aperture confocal volumetric mesoscope reveals mesoscale subcellular dynamics in vivo. Nature Biotechnology. 2026. doi:10.1038/s41587-026-03231-z.

  2. Liu S, Wang Z, Su Y, et al. Somatotopic organization and intensity dependence in driving distinct NPY-expressing sympathetic pathways by electroacupuncture. Neuron. 2020;108(3):436–450.e7. doi:10.1016/j.neuron.2020.07.015.

  3. Liu S, Wang Z, Su Y, et al. A neuroanatomical basis for electroacupuncture to drive the vagal–adrenal axis. Nature. 2021;598:641–645. doi:10.1038/s41586-021-04001-4.

 
 
 

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