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顔面神経麻痺で鍼灸院を受診すると、どのような治療をするのか?

執筆者の写真: 大慈松浦鍼灸院
大慈松浦鍼灸院
17 時間前
読了時間: 11分

顔面神経麻痺で鍼治療を検討している方から、「実際にはどのような治療をするのでしょうか?」と聞かれることがあります。


顔面神経麻痺の鍼治療では、(1) 発症してからどのくらい経っているのか、(2) 顔がどの程度動いているのか、(3) 神経の働きがどのくらい残っているのかを確認しながら、その時点の状態に合わせて治療方法を決めていきます。


当院では、概ね次のような流れで診察と治療を行っています。


1.まず、これまでの経過を確認します

最初に確認するのは、顔面神経麻痺を発症してからの経過です。

いつ発症したのか、耳鼻咽喉科などでどのような診断を受けたのか、ステロイドなどの治療を受けたか、現在どのような症状が残っているのかを確認します。


顔面神経麻痺では、発症直後と数週間後、数か月後では治療の考え方が異なります。そのため、発症からどのくらい時間が経っているかは非常に重要です。

また、医療機関で神経の検査を受けている場合には、その結果も参考にします。検査結果や紹介状、お薬手帳などがある場合には、ご持参いただくと状態を把握しやすくなります。


※ 顔面神経とは

顔面神経は、額、まぶた、頬、口元などの表情筋を動かす神経です。顔面神経麻痺では、この神経の働きが低下することで、眼が閉じにくい、口角が下がる、額にしわを寄せにくいといった症状が現れます。

顔面神経麻痺の症状。麻痺側では額のしわ寄せ、まぶたを閉じる動き、口角の動きが低下する

2.次に、実際に顔がどのくらい動いているかを確認します

次に、顔の動きを一つずつ確認します。

額にしわを寄せる、眼を閉じる、頬を膨らませる、口角を上げる、口をすぼめるといった動作を行っていただき、左右の動きの違いをみます。

顔面神経麻痺では、単に「動く」「動かない」だけではなく、どの部分がどの程度動いているのかを確認することが大切です。

当院では、医療機関でも使用されている柳原法という評価方法を用いて、顔の動きを点数化します。


※ 柳原法とは

柳原法は、顔面神経麻痺の程度をみるために日本で広く使われている評価方法です。額にしわを寄せる、眼を閉じる、口角を上げるなど10項目の顔の動きを確認し、40点満点で評価します。点数が低いほど麻痺が強いことを示します。

顔面神経麻痺の重症度を評価する柳原法の10項目。安静時、額のしわ寄せ、閉眼、頬を膨らませる動作などを評価する

この評価を初診時だけではなく経過中にも繰り返すことで、「少し良くなった気がする」という感覚だけではなく、実際にどの動きが改善しているのかを確認できます。


3.鍼を使って、顔面神経がどの程度反応するかを確認します

顔の動きを確認したあとは、必要に応じて耳の前付近に鍼を行い、ごく弱い電気の刺激を加えます。この刺激によって、眼の周囲や頬、口の周囲の筋肉が一瞬動くことがあります。


これは、顔面神経に刺激を加えたときに、その刺激が表情筋まで伝わっているかをみるための反応です。医学的には、このような一過性の筋肉の反応をTwitchと呼びます。


※ Twitchとは

Twitchとは、神経に短い刺激を加えたときに筋肉が一瞬収縮する反応のことです。顔面神経麻痺では、この反応がはっきりみられるか、弱いか、ほとんどみられないかを確認することで、神経から筋肉へ刺激がどの程度伝わっているかをみる参考になります。


反応がはっきり確認できる場合もあれば、弱い場合、ほとんど確認できない場合もあります。

この反応を見ることで、現在、顔面神経が刺激に対してどの程度反応できる状態にあるのかを確認することができます。

つまり、治療をしながら神経の反応を確認する検査的な意味もあります。

ただし、Twitchだけで回復の程度を判断するわけではありません。顔の動き、発症からの期間、医療機関で行った神経検査などと合わせて総合的に判断します。


4.医療機関でENoGを受けている場合には、その結果も参考にします

顔面神経麻痺では、耳鼻咽喉科などでENoGという検査が行われることがあります。


※ ENoGとは

ENoGは、顔面神経を電気刺激し、そのときに起こる筋肉の反応を健側と患側で比較する検査です。顔面神経の機能がどの程度保たれているかを確認するために用いられ、回復の見通しを考えるうえでも重要な情報になります。

顔面神経麻痺のENoG検査。顔面神経を電気刺激して筋肉の反応を記録し、健側と患側の波形を比較する様子

当院では、ENoGの結果がある場合には、顔の動きやTwitchの反応と合わせて確認します。

鍼灸院で行う評価だけで予後を断定するのではなく、医療機関での検査結果と、実際の顔の動き、治療時の反応を組み合わせて経過をみることが重要です。


5.ここまでの評価をもとに、治療方法を決めます

顔面神経麻痺では、すべての患者さんに同じ方法で治療するわけではありません。

神経への刺激に対して筋肉がしっかり反応する場合には、顔面神経の走行を考えながら、低い周波数の鍼通電刺激を行うことがあります。

一方で、神経を刺激しても筋肉の反応がほとんどみられない場合には、同じ方法を続けるのではなく、眼の周囲、口の周囲、額など、動きが低下している筋肉を個別に刺激する方法へ変更します。

評価した状態

主な考え方

治療方法の例

Twitchが確認できる

顔面神経から表情筋へ刺激が伝わっている状態を確認する

顔面神経の走行を考慮した低周波の鍼通電刺激を行うことがあります

Twitchが弱い

神経の反応が残っているものの、十分ではない状態として経過をみる

反応の程度を確認しながら、刺激方法や刺激量を調整します

Twitchが確認できない

神経を介した筋収縮が十分に確認できない状態

眼輪筋、口輪筋、前頭筋など、動きが低下している表情筋を個別に刺激する方法を検討します

病的共同運動・こわばりがある

単純に筋肉を動かすことより、過緊張や不自然な連動への対応を重視する

こわばりや過剰な筋緊張を確認しながら治療方法を調整します


鍼通電療法とは

鍼通電療法とは、刺した鍼に弱い電気刺激を加える治療方法です。刺激する場所や周波数、時間は患者さんの状態に応じて調整します。


発症して間もない時期には、長時間筋肉を動かすような刺激を行わず、まず神経の反応を短時間確認したうえで、顔面部への置鍼を中心に行うこともあります。


置鍼とは

置鍼とは、鍼を刺した状態で一定時間そのまま置いておく方法です。鍼通電療法とは異なり、電気を流さずに行います。


このように、実際に反応を確認してから治療方法を決めることが、顔面神経麻痺の鍼治療では重要だと考えています。


6.治療後も、同じ評価を繰り返します

顔面神経麻痺では、1回の治療だけで経過を判断することはできません。

そのため、治療を続ける場合には、定期的に顔の動きを確認し、必要に応じて神経への刺激に対する反応も再確認します。


最初はほとんど動かなかった口角が少しずつ上がるようになった、眼が閉じやすくなった、神経への刺激に対する筋肉の反応が出てきた、といった変化をみながら治療内容を調整します。反対に、回復が十分に進んでいれば、治療間隔を空けていきます。


鍼灸院でも回復の見通しはわかるのでしょうか

患者さんからは、「この麻痺は治りますか」「どのくらいで元に戻りますか」と聞かれることがあります。


顔面神経麻痺の回復には個人差があるため、鍼灸院で「何週間で治る」「必ず元に戻る」と判断することはできません。

ただし、現在の顔の動き、神経への刺激に対する反応、医療機関で行われた神経検査、発症からの時間経過などを見ることで、神経障害が比較的軽いのか、強いのか、回復が進んでいるのかをある程度把握することはできます。

また、一度の評価だけでなく、数週間の変化を追うことも重要です。顔の動きの点数が改善しているのか、神経への刺激に対する反応が変化しているのかを確認することで、その後の治療方針を考えます。

時期

主に確認すること

鍼治療の考え方

発症して間もない時期

顔の動き、麻痺の程度、Twitch、医療機関での検査結果

医療機関での標準治療を優先しながら、神経の状態を確認します。必要以上に強い刺激や長時間の筋収縮を行わず、置鍼などを中心に行うことがあります

回復してくる時期

顔面運動の変化、Twitchの出現・変化、左右差

神経への反応を確認しながら、顔面神経を目標とした鍼通電刺激や、動きの低下した表情筋への刺激を選択します

数か月以上経過した時期

こわばり、拘縮、病的共同運動、顔の左右差

単純に筋肉を強く動かすのではなく、過緊張や不自然な連動を確認しながら治療します


発症して間もない時期の治療

発症して間もない時期には、まず耳鼻咽喉科などで適切な診断と治療を受けることが最優先です。

鍼治療は、ステロイド治療などの標準的な治療に代わるものではありません。

医療機関での治療を受けたうえで、鍼灸では顔の動きや神経の反応を確認しながら、必要な範囲で刺激を行います。

この時期には、強い刺激を長時間行うことよりも、現在の神経の状態を確認し、必要以上の刺激を加えないことを重視しています。


回復してくる時期の治療

発症から数週間経過すると、少しずつ顔面神経が回復してくる方がいます。

この時期には、神経への刺激に対して筋肉がどのように反応するかを改めて確認します。

反応が出てくるようであれば、顔面神経を目標とした鍼通電刺激を行います。

一方で、まだ神経から筋肉への反応が十分に確認できない場合には、動きの低下している表情筋を個別に刺激します。


回復の段階によって、治療内容を少しずつ変えていく時期です。


数か月経過している場合は、治療の目的が変わります

顔面神経麻痺では、時間が経つと「顔が動かない」という症状だけではなく、別の問題が出てくることがあります。

たとえば、顔がこわばる、口元が引きつる、眼の周囲が狭くなる、口を動かしたときに眼が一緒に閉じてしまう、といった症状です。

このように、ある動きをしたときに本来は動かなくてもよい部分まで一緒に動いてしまう状態を、病的共同運動と呼びます。


※ 病的共同運動とは

病的共同運動は、顔面神経が回復する過程でみられる後遺症の一つです。たとえば、口を動かしたときに眼が閉じてしまうなど、別々に動くはずの表情筋が一緒に動いてしまいます。

顔面神経麻痺の後遺症である病的共同運動。口を動かした際に患側の眼が一緒に閉じる状態

このような状態では、麻痺した筋肉を単純に強く動かせばよいわけではありません。

むしろ、過剰に緊張している部分を確認しながら、こわばりや不自然な連動を軽減することが治療の中心になります。

そのため、数か月以上経過している患者さんでは、発症直後の治療とは異なる方法を選択します。


どのくらいの頻度で通えばよいのでしょうか

治療頻度は、顔面神経麻痺の重症度や発症からの期間によって変わります。

現在のところ、顔面神経麻痺に対する鍼治療について「必ず週○回行う」という標準的な回数が決められているわけではありません。


当院では、比較的軽症で、顔の動きが保たれており、順調に回復している場合には週1回程度から経過をみます。

麻痺が強い場合や、神経への刺激に対する反応が弱い場合には、初期には週1~2回程度を目安に治療し、短い間隔で変化を確認することがあります。

重症例では経過を慎重に確認する必要があるため、顔の動きや神経の反応を比較的短い間隔で再評価し、その結果に応じて治療方法を調整するためです。

状態

治療頻度の目安

考え方

比較的軽症で、順調に回復している場合

週1回程度

顔の動きや回復経過を確認しながら治療します

麻痺が強い、神経の反応が弱い場合

週1~2回程度

比較的短い間隔で顔の動きや神経の反応を再評価します

回復が進んできた場合

週1回→2週間に1回など

回復状態に応じて徐々に治療間隔を空けます

数か月以上経過し、こわばりや病的共同運動がある場合

週1回程度から調整

後遺症の程度や症状の変化に応じて間隔を調整します


回復が順調に進めば、週1回から2週間に1回へと、徐々に治療間隔を空けていきます。

一方、数か月以上経過し、こわばりや不自然な顔の動きを主な症状として治療する場合には、週1回程度から開始し、症状に応じて間隔を調整します。


「何回通えば治りますか」と聞かれたときに

顔面神経麻痺では、「10回通えば治る」といった形で、あらかじめ必要な治療回数を決めることはできません。

顔面神経の障害の程度や原因、年齢、医療機関での検査結果、回復速度などによって経過が異なるためです。

そのため当院では、最初から回数を決めて通院していただくのではなく、数回ごとに状態を確認しながら、その後も治療を続ける必要があるかを判断します。


回復が十分に進めば治療間隔を空けますし、鍼治療を続ける意義が乏しいと判断した場合には、そのことも含めて説明します。


当院で大切にしていること

当院では、発症からの経過を確認し、顔の動きを評価し、必要に応じて鍼を使って神経の反応を確認します。そのうえで、現在の状態に適した方法を選択し、治療後も同じ評価を繰り返しながら経過をみていきます。


顔面神経麻痺は、発症直後、回復途中、数か月以上経過した時期で治療の目的が異なります。その時点の神経と顔の状態を確認しながら治療方法を変えていくことが大切だと考えています。


なお、顔面神経麻痺を発症した場合には、まず耳鼻咽喉科などの医療機関を受診してください。当院では、医療機関での診断や検査結果も踏まえながら、鍼灸の立場から経過を評価し、治療を行っています。

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