JSAM
認定鍼灸師
『認定鍼灸師』について
その制度と意義について考える
Q. 認定鍼灸師とはなんですか?
A. 学会が定める一定の基準を満たした鍼灸師を指します。
(公社)全日本鍼灸学会が定めた教育・研修プログラムを修了し、所定の要件を満たした鍼灸師に付与されます。
📋 主な認定要件
2022年以降に入会した会員の条件として、「学術研修」と「臨床研修」の履修が必須となりました。
👉 新認定制度の概要
ttps://jsam.jp/certification/system/overview/
Q. なぜ「認定鍼灸師」が必要なんだろう?
A. 専門性の高い知識や臨床能力を有した鍼灸師が各分野で活躍することが期待されているからです。
全日本鍼灸学会では、『医療連携』が可能な鍼灸師を育成するために、新しい認定制度を整備・運用しています。この制度は、医師の専門制度と同様に「2階建て構造」となっています。
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第1階層は、現代医学と東洋医学の両方に精通し、医師と連携できることを基準としている
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第2階層は、診療ガイドラインなどに準拠し、特定の疾患や症状に特化した専門性の高い鍼灸師を育成する
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この制度によって、専門性の高い鍼灸師が各分野で活躍することが期待されています。
👉 『医師・鍼灸師連携について 今後の医療を見据えて』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/75/1/75_43/_pdf/-char/en
Q. 「認定鍼灸師」の意義はなんだろう?
A. 鍼灸師個人の成長だけではなく、職業全体の社会的地位の向上や、医療連携・学術活動の促進において、極めて重要な制度です。
■ 社会的地位の向上
国家資格の取得は、鍼灸師としての基礎的な知識と技能を担保する制度的入口にすぎません。
それだけで鍼灸師の社会的地位を十分に高めるのは難しく、専門職としての継続的な学びと能力の可視化が求められます。
認定鍼灸師の制度が機能することによって、保健・医療・福祉の中での立ち位置が強化され、公的な健康政策への参画、保険適用拡大への布石、地域医療との連携強化などが期待されます。
■ 医療との連携の推進
鍼灸が医療の一翼を担う重要な役割を果たすには、標準化・可視化された資格が不可欠です。
近年、患者さんの健康課題が複雑化する中で、医師などの他の医療職と協力して医療を提供する必要性が高まっています。そのため、鍼灸師も「病鍼連携」「診鍼連携」といった形で、医療機関と密に連携し、役割を果たすことが求められています。
(公社)全日本鍼灸学会 副会長
山口智(埼玉医科大学東洋医学科 客員教授)
👉 『医療連携の確立と専門性の高い鍼灸師の育成-専門医連携推進委員会の活動-』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/74/4/74_231/_pdf/-char/ja
専門医に鍼灸治療の有効性を理解してもらうには、「効果があるから効いている」ではなく、「どのように、どの程度、何に効いているか」を示すことも必要です。
したがって、こうした能力を備え、鍼灸師として連携・説明・評価ができる人材を育てるためにも、認定鍼灸師制度は極めて重要な役割を担っているのです。
■ 学術活動への参加機会の提供
認定鍼灸師制度では、取得および更新の要件として、学術大会への参加や発表が求められ、日々の臨床で得られた知見を学術的に整理・発信する機会が生まれます。これにより、臨床での実践と学術的探究が相互に高め合う環境が促進されます。
さらに、こうした活動を通じて、現場の知見が鍼灸学全体に還元されるだけでなく、若手鍼灸師の育成や研究志向の醸成、そして学問的な発展への貢献へとつながります。認定制度は、単なる称号ではなく、実践的な知見と学術的な発展を架橋する仕組みとしての役割も担っているのです。
Q. なぜこの制度に反対する人がいるんだろう?
A. X(旧:Twitter)上で議論されている内容から、その課題を構造的・文化的・実利的な要因に分けて考えてみましょう。
① 【制度設計への疑問】
■ 学会主導への不信感
「学会の既得権益」や「内輪の制度」と受け止められることがあります。
実際の臨床に根ざした内容よりも、「学会活動歴」や「単位取得」などの形式要件が重視されており、日々臨床をがんばっている鍼灸師が正当に評価されにくいという印象を持たれることがあります。
■ 認定基準の不明瞭さ
どんな能力を保証するのか、制度の「社会的価値」が明確でないと感じる人もいます。
「認定鍼灸師」と名乗っても、患者や医師などの他職種にどんな信頼性があるのか不透明と感じられることがあります。
② 【臨床現場との乖離】
■ 保険ではなく「自費」が主流の世界
日本の鍼灸師の多くは自由診療の中で生計を立てており、医師のような保険診療主体の評価制度と相性が悪いという構造があります。
■ 制度自体の公益性と信頼性への懸念
認定鍼灸師を保有していることを過度に誇張して集客目的に利用することは、制度の本来の目的から逸脱してしまい、制度自体の公益性や信頼性の低下も懸念されます。
■ 患者の誤認リスク
「認定鍼灸師だから安心・安全で効果的である」といった患者の誤認リスクも含んでおり、比較優良性の情報として受け止められやすい側面も有しています。
■ 「実力主義」ではなく「制度主義」の抵抗
「資格がすべてではない」「本当に治せる人が一番偉い」という、現場主義的・職人文化的な価値観が根強くあります。
学会や制度に頼らなくてもやっていける鍼灸師ほど、「そんな制度は必要ない」と感じる傾向があります。
③ 【費用と手間の問題】
■ 更新の手続き・費用負担
継続的な学会参加や単位取得、更新費用など、時間的・金銭的な負担が大きいです。とくに地方の鍼灸師や若手にとっては参加のハードルが高く、「恩恵もないのに負担ばかり」と感じられることがあります。
④ 【業界全体の制度疲労】
■ 他にも乱立する「認定制度」
民間資格や他団体の認定制度(例:〇〇流派認定、××協会認定など)も数多く存在し、どれが本当に意味のある資格なのか分かりづらい状況です。
「また新しい制度か…」という疲労感や、制度自体に対する不信や無関心も広がっています。
どのような「認定制度」が理想的?
医学系の学会が鍼灸の認定制度を設計・運用することが望まれます。それは鍼灸という職能が医療制度に正式に参入していくための構造的インフラになり、これは鍼灸師個人の努力では到達しえない、社会全体の鍼灸観を変えるステップになるからです。
最近では、一般社団法人日本疼痛学会(牛田享宏理事長)において令和7年度から「認定鍼灸師」を設け、登録受付を開始しました。
👉 詳細は『鍼灸柔整新聞』を確認
https://news-shinkyujusei.net/202507_18/
⑤ 【そもそも制度の存在を知らない/関心がない】
「そんな制度があるの?」「別に興味ない」「自分には関係ない」と考える人も少なくありません。制度が広く知られていない、または自分の立場に関係ないと感じられていることも背景にあります。
✅ 要するに…
「制度そのものへの疑義」よりも、「制度と現場の乖離」「メリットと負担の不均衡」「価値観のズレ」に対する抵抗感が、反対意見の根っこにあるのかなと感じます。
それでもこの『認定鍼灸師』制度は意義が高いものです。
鍼灸師が広く社会に認知され、その地位を築くためには、継続的に学び、学術活動への参加、専門性と倫理性の維持を促す制度設計が必要です。鍼灸師としてプロフェッショナリズムを維持し、医療連携、学術への貢献の土台となる制度であると考えられます。

