線維筋痛症に対する鍼治療―研究と診療ガイドラインから
線維筋痛症は、全身の広い範囲に痛みが続き、疲労感や睡眠の問題などを伴う病気です。治療では、痛みを和らげることに加え、日常生活を送りやすくすることを目指します。
鍼治療についても研究が行われており、痛みやこわばり、生活への支障を軽減する可能性が示されています。ただし、効果には個人差があり、研究結果が一致していない部分もあります。
線維筋痛症の症状と評価
線維筋痛症では、全身の痛みのほか、押されたときの痛み、疲労感、熟睡できない感じ、集中しづらさなどがみられます。症状の組み合わせや程度は、人によって異なります。
以前は、身体の特定の場所を押したときに痛む「圧痛点」が重視されていました。現在は、圧痛点だけでなく、痛みの広がりや持続期間、疲労、睡眠などを含めて総合的に評価します。[7]

米国リウマチ学会の1990年分類基準で用いられた、左右計18か所の圧痛点です。現在は圧痛点だけでなく、痛みの広がりや疲労、睡眠なども含めて評価します。
痛みの仕組み―「痛覚変調性疼痛」とは
痛みは、身体から届く信号を脳や脊髄が処理・調節することで生じます。線維筋痛症では、この仕組みの変化により、刺激を強い痛みとして感じたり、痛みが長く続いたりすると考えられています。
「痛覚変調性疼痛」は、組織の損傷や炎症による痛み、神経の損傷による痛みだけでは説明できない、痛みを感知・処理する仕組みの変化から生じる痛みを指します。線維筋痛症は、その関与が考えられる代表的な病気です。[8]

痛みを生じる仕組みの分類です。複数の仕組みが重なることもあります。
MRIなどの研究では、線維筋痛症の患者さんで、痛みの処理・調節に関わる脳領域や領域間のつながりに違いが報告されています。扁桃体を中心とするネットワークの変化が、痛みの増幅や持続に関わる可能性も示されています。[9]
ただし、これらは研究で集団を比較した結果であり、通常の頭部MRIで線維筋痛症を診断できるという意味ではありません。脳の違いが痛みの原因なのか、長く続く痛みの結果なのかも、十分には分かっていません。
一般的な検査で痛みを説明する異常が見つからなくても、患者さんが感じている痛みは実際に存在します。痛む場所だけでなく、痛みを処理・調節する仕組みにも目を向けることが、病気への理解につながります。
鍼治療には、どのような効果が期待できますか?
研究では、鍼治療を受けない場合や通常の治療のみの場合と比べ、鍼治療を加えることで痛みや生活への支障が改善する可能性が示されています。一方、偽鍼との比較では結果が一致していません。[1–4]
鍼治療に関する主な研究
線維筋痛症に対する鍼治療について、代表的な臨床試験と、複数の研究をまとめたレビューをご紹介します。何と比較した研究かによって、結果の意味が異なることも大切なポイントです。
これらの研究から、鍼治療は症状の軽減に役立つ可能性があります。一方で、偽鍼を上回る効果の大きさや、効果の持続期間には不確実性が残っています。研究結果とともに、患者さんごとの症状や希望、施術による負担を踏まえて検討します。
鍼刺激と脳の痛み処理に関する研究
鍼治療と脳の働きとの関係を調べる研究も行われています。2026年の研究では、鍼通電刺激後に痛む範囲が狭くなった人ほど、痛みの処理に関わる脳領域の活動やつながりに変化がみられました。[10]
ただし、この研究は症状の変化と脳の働きとの関係を探るもので、鍼治療によって脳の構造が元に戻ることや、すべての患者さんの痛みが改善することを証明したものではありません。
国内の診療ガイドラインにおける鍼治療の位置づけ
『線維筋痛症診療ガイドライン2017』では、「鍼治療は線維筋痛症に有効か」という項目が設けられています。エビデンスの評価はB(中)で、鍼治療を「提案する」としています。[5]
これは、鍼治療を選択肢として検討できるという位置づけです。一方で、偽鍼との差が明確でない研究や、参加人数が少ない研究もあると記載されています。
また、『慢性疼痛診療ガイドライン』(2021年)でも、慢性疼痛に対する鍼灸治療を「弱く推奨する(提案する)」としています。こちらのエビデンスの評価はC(低い)で、線維筋痛症に限らず、複数の慢性疼痛疾患を検討したうえでの推奨です。[6]

全日本鍼灸学会を含む10学会が作成に参加した『慢性疼痛診療ガイドライン』(2021年)
このガイドラインの作成には、全日本鍼灸学会、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本線維筋痛症学会など、10学会が参加しています。治療を選択する際には、期待できる効果や費用、患者さんの希望を踏まえること、施術者が慢性疼痛に関する適切な知識を有することも重視されています。
原文は、以下の公開PDFで確認できます。
鍼治療は、ほかの治療と組み合わせて検討します
線維筋痛症では、症状や生活状況に応じて、病気への理解を深めること、無理のない運動、睡眠への対応、必要な薬物療法などを組み合わせることが大切です。鍼治療も、こうした治療や支援の一つとして検討します。
施術を受ける場合は、担当医と治療状況を共有し、刺激による負担や施術後の変化を確認しながら進めます。痛みの強さだけでなく、睡眠や活動量、日常生活の送りやすさも含めて評価することが重要です。
参考文献・資料
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Vas J, et al. Acupuncture for fibromyalgia in primary care: a randomised controlled trial. Acupunct Med. 2016;34:257–266. [PubMed]
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Deare JC, et al. Acupuncture for treating fibromyalgia. Cochrane Database Syst Rev. CD007070. [日本語要約]
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Araya-Quintanilla F, et al. Effects of acupuncture versus placebo on clinical status and potential specific effects in Fibromyalgia: an umbrella review of 11 meta-analyses. Ther Adv Musculoskelet Dis. 2024. [論文]
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The efficacy of acupuncture treatment for fibromyalgia syndrome: a systematic review and meta-analysis. Front Med. 2025. [論文]
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日本線維筋痛症学会ほか編.線維筋痛症診療ガイドライン2017.CQ12-1,164頁.[公開本文]
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慢性疼痛診療ガイドライン作成ワーキンググループ編.慢性疼痛診療ガイドライン.2021.CQ H-1,142–143頁.[公開本文]
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日本リウマチ財団リウマチ情報センター.線維筋痛症.[解説]
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International Association for the Study of Pain. Terminology: Nociplastic pain. [用語・定義]
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Zharova N, et al. Amygdala-centered mechanisms of pain amplification and chronification in fibromyalgia and migraine: Narrative review. Behav Brain Res. 2026;503:116071. [PubMed]
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Sridhar A, et al. Brain sensory network activity underlies reduced nociceptive initiated and nociplastic pain via acupuncture in fibromyalgia. Commun Med. 2026;6:25. [論文]
このページを書いた人
PROFILE
監修
鍼灸師 松浦知史
全日本鍼灸学会認定鍼灸師
東京有明医療大学首席卒。福島県立医科大学会津医療センター研修。研修終了後は埼玉医科大学東洋医学科、ならびに同大学かわごえクリニックを経て、大慈松浦鍼灸院、神保町十河医院附属鍼灸院副院長。

